18 やりましょう

第一話 切っ掛け

 ダンジョンから出てきたアリエスたちパーティー"ギベオン"は、思いのほか多かった報酬を手に自由に行動していた。


 素材の売上だけでなく、情報を売ったお金まで一緒くたに分配したからなのだが、アリエス以外のメンバーは情報を売った分のお金は、彼女が受け取るべきだと一度は辞退したのだ。

しかし彼女の「いいんだよ、めんどくせー。貰っとけ」という一言で分配されることになった。お金を管理しているのがロッシュなので、アリエス全肯定派である彼が彼女の言葉に従うのは当然だった。


 ダンジョンに潜るのも飽きたアリエスは、ダンジョン都市をブラブラしており、そこで懐かしい顔に出会った。

あちらもアリエスのことを覚えていたようで、にこやかに挨拶を返してきた。


 「久しぶりだね。元気にしていたか?」

「おう!元気元気ー!ガザンも元気にしてたか?」

「ああ、元気でやっているよ。引退はしたけどね」

「マジかよ!?」

「よる年波には勝てなかったってことさ。まあ、五体満足で引退できたことには、感謝しかないけどね」

「安全第一、だもんな!」

「そういうこと」


 ガザンは、アリエスが初めて城下町に降り立ったときに案内をしてくれた冒険者であり、彼女が冒険者登録をする切っ掛けを作った人物でもあった。


 そんなふうにお互いの近況を話していると、見覚えのある人物が近付いてきて「ガザンさん、その子って……」と若干顔色が悪そうな男性が声を掛けてきた。

それを見たガザンはトラウマになってしまったかと苦笑しながら、「そうだよ、バン。アリーさんだ」と答えた。


 バンという名前を聞いたアリエスは、「あ!やっぱりあのときのか!!」と笑った。

彼のぽんぽんお腹にモーニングスターをブチ込もうとしたことを覚えていたのだ。


 あれ以来バンは胴回りの装備を徹底して強固にするようになったのだが、そのおかげで命拾いしたこともあったため、切っ掛けとなったアリエスに感謝はしているものの、それとは別に彼女に対してトラウマも抱えているのだった。


 せっかく会ったんだし今夜一緒に飲もうぜ!と、珍しくアリエスの方から誘い、それを了承したガザンたちとは待ち合わせの場所を決めて一旦別れた。


 今夜は飲みに行くからと宿屋の部屋にディメンションルームを展開し、メンバーには好きにするように伝え、約束の時間までベアトリクスと戯れたアリエスは、夕食の時間をちょっと過ぎた頃にハインリッヒとロッシュを伴って待ち合わせの場所でガザンと合流し、彼のパーティーメンバーが待つお酒メインの食事処へと向かった。


 ガザンと再会したのは約10年振りなので、ハインリッヒとガザンは二人して20歳を過ぎたアリエスを見ながら「お互い老けたよなぁ」と笑っている。

互いにまだ独り身であることに内心ホッとしている残念な二人であった。


 ガザンたちが用意した今夜の席は、生演奏の音楽が流れるしっとりとした雰囲気の店で、ワイワイガヤガヤやるような店ではないのだが、貴族からの依頼を受けることが多いガザンたちは、こういう店を好んでいる。

それに、この店ならば清潔で料理も美味しく酒の種類も豊富なので、アリエスも気に入ってくれるだろうと思って選んだのだった。


 店に到着するとアリエスは、「おぉ、意外だ」と言ってちょっと驚いた。失礼な子である。


 そして、ガザンのパーティーメンバーが待つ席へと近付き顔が判別できるくらいの距離になったとき、ハインリッヒが「お?あんときの人じゃねぇか。まさか、ガザンとこのメンバーだったのか……?」と、アリエスの様子を窺いながら聞いた。


 そこにいたのは、レンガ仕様のダンジョンにて取り引きをしてくれないかと言って、相場の5倍で魔力回復薬を買っていった男だった。

それとあわせて思い出されるのが、めんどくさい女で、この場にいないところを見るにパーティーからは追い出したのだろうとハインリッヒは判断した。


 ハインリッヒの言葉で、パーティーメンバーがダンジョンで魔力回復薬を買った冒険者というのがアリエスたちだったと知ったガザンは、「そうか、あなたたちだったのか。取り引きが終了しているのだから名を知る必要はないと、互いに名乗らなかったと聞いていたんだ。そうか……。アリーさん、ハインリッヒさん、ロッシュさん、お礼が遅れてしまい申し訳ない。ありがとうございました」と、深々と頭を下げた。


 ハインリッヒとガザンのやり取りで、自分の窮地を救ってくれたのがアリエスたちだと知ったバンも慌てて頭を下げて礼を言った。

あのとき瀕死になっていたのは、このバンだったのだ。


 アリエスはガザンたちに頭を上げさせると、「困ってるときはお互い様だろ?まあ、助けるかは相手次第だが、取り引きは無事に終わってんだから、それでいいじゃねぇか。飲もうぜ!」と笑った。


 注文した夕飯を兼ねたおつまみの中に、子供が好みそうなものがあったため、それを持ち帰り用に追加注文したアリエス。

そんなアリエスにガザンは、「やはり、まだお若いようだね」と笑いを堪えてちょっとからかったのだが、彼女からの「んー?チビたちへのお土産だぞ?」という返しに固まった。


 ガザンはアリエスの素性を知っているため、彼女に子供ができないことは知っている。

しかし、それを知らない新たに加わったメンバーが「え?君、子供いるの!?」と驚いて聞き返してしまった。


 マズったな、と顔を少ししかめたガザンであったが、それに気付かずアリエスは、「おう、男の子一人と女の子一人いるぞ。男の子は両親と一緒だが、女の子の方は一応異母兄と一緒だ。アイツら兄妹っていっても初対面だったし、別に無理に兄妹させるつもりねぇから、本人たちも兄妹だって認識は持ってねぇけどな」と、あっけらかんと返した。


 その場にいたロッシュ以外の面々は思った。

いや、そうじゃない。君が産んだ子がいるのかって話だったんだよ!!と。


 何か微妙な雰囲気になったことに気付いたアリエスは、「何?どした?」と聞き、それに対してバンが「アリーさんが産んだ子がいるのかっていう話だったんだけど……」と、戸惑いがちに言った。


 ポカンとしたアリエスにガザンは、「メンバーの中にはアリーさんの事情を知らないものもいる。しかし、無神経なことを言ってしまったことには変わらない。本当に申し訳なかった」と、頭を下げて謝った。


 それに対してアリエスは、「ああ、その話か。別に気にしてねぇからいいって。それに父ちゃん国王から子供がほしくなったら王族に戻ってから産めって言われてるし」と言ってカラカラと笑ったのだが、彼女が元準王族だと知らなかったメンバーは顔色を無くした。


 王族に戻ってからって、どういうこと……?と。


 「アリーさん……。王族に戻るって、あなたは離れで育ったのでは……?」

「あー、それなぁ。功績積んじゃったから王族入り出来んの。断ったけど。まあ、元から入れるほどの実力はあったんだけどさ、色々あんだよ」

「準王族だという決定を後になって覆すわけにはいかなかった、と?」

「そういうこった。でも、そのおかげで人生楽しいぜ!」


 アリエスだけでなくハルルエスタート王国大好き人間も楽しいです。ウハウハです。笑いが止まらんなぁ〜。と言ったところである。


 気分を害した様子もなくニカっと笑うアリエスの態度にホッとしたガザンたちは、再び楽しく酒を酌み交わし、ゆるやかなひと時を過ごすのだった。

 


 

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