閑話 空振る帝国
ここは、ソレルエスターテ帝国のとある場所にある民家。
次々に起こる未来を当て、それを帝国にとって良い結果となるように助言してくれていたのだが、最近ではその精度は落ちる一方で、現在では帝国内のことですら外すことも出てきた。
そのため帝国側は、この
精度が落ちたとはいえ、他に取られて利用されても困るからである。特に、ハルルエスタート王国には何があっても渡さないだろう。
その結果、以前に住まわせていた家よりも格段にグレードが落ちた民家へと移らせ、向こう三軒両隣の住人は世間一般的な家族に見えて監視員である。というか、その住居が監視用の家なのだ。
明らかにグレードが落ちたことで自身の有用性が薄れたと感じたその男は、
スキルレベルが下がったことから精度も落ち、詳細なことは分からないが、それでも出会う状況とその人物の髪の色までは知ることが出来た。
固定砲台となり得る強力な人材であるため、是が非でも手に入れるべきだと力説するその男をシラけた目で見やる監視員である男性は、「精度が落ちているようだから、十分に余裕を持ってあたらせる」と言い、去っていった。
ソレルエスターテ帝国からそのダンジョンがある場所までは、かなりの距離がある。
移動する人数が多ければその分だけ行動に時間も取られると、情報を得てすぐに少数精鋭で出発し、ダンジョンへ潜る際にはあちらで入り慣れている冒険者を雇えば良いと判断した。
そして、十分に余裕を持って到着し、その人物と出会えるというレンガ仕様のダンジョンは一つだけだったので迷わずに済んだが、そこに入り慣れている冒険者のパーティーがいくつか活動拠点を変えていたため、雇えた冒険者パーティーはレンガ仕様のこのダンジョンに不慣れで罠の解除に失敗したり、道に迷うことがしばしばあった。
しかも、ダンジョン内はモンスターの数が聞いていたよりも多く、戦闘回数も増えており、想定していたよりもかなり疲弊した。
やっとのことで、その人物と出会えるであろうモンスターが入って来ない安全地帯に辿り着き、そこでやって来るのを待つことにしたのだが、待てど暮らせどやって来ない。
さすがに数日も経つと雇った冒険者たちも次第にイライラし始め、報酬はいらないから帰らせてくれと言い始めた。
仕方が無いので帝国から来た人員の半数が安全地帯に残り、あとはダンジョンから出て物資を買い集め、違う冒険者を雇い直して再度やって来た。
しかし、その間も出会うことはなく、今度は前回居残った者たちがダンジョンから出て物資を買い集めに行ったのだが、その時に虫の知らせか何なのか、ふと聞いてみようと思い、冒険者ギルドにある酒場にて聞き込みを行なった結果、撤収することになった。
件の女性と思われる人物が既にパーティーを追い出され、クラン"ロシナンテ"が回収して行ったと聞いたからだ。
しかし、だからといってここまで来て黙って帰るというわけにもいかないと、クラン"ロシナンテ"にそれとなく接触し、「パーティーを追い出された女性を保護するとは、さすがロシナンテの方々ですね」などと声を掛けつつ、雑談を交えながらその女性をクランに入れたのかどうかを探ったところ、「彼女のことを探していた祖父だという人物が連れていった」という情報が得られた。
帝国の者たちは嫌な予感がした。
それは本当に彼女の祖父だったのか、と。
確証を得るために帝国の者の一人が「実は彼女に思いを寄せていて……」と話し、叶うことなら彼女に思いを告げたいと言ったところ、どこに行ったのかは分からないということだった。
それを聞いて更に嫌な予感がした帝国の者たちは、彼女を連れた祖父らしき人物がどこへ向かったのか探したのだが忽然と姿を消しており、それ以上追うことは出来なかった。
それもそうだろう。
途中までは馬車で移動したが、ある程度進んだところでウェルリアムが転移で連れて行ってしまったのだから。
帝国の者たちは疑心暗鬼に駆られた。
こうも
これは、使い魔か何かを使う情報伝達に
しかも、外れたのであれば「またかよ」で済むが、今回はあの男が是が非でも手に入れろと力説していた女性がちゃんと存在しており、しかも何者かによって既に連れて行かれた後だった。
ということは、帝国の者たちがダンジョンへと辿り着くよりも先に情報を得て行動していた人物がいたのだろうと判断したのだ。
だからといって十分に余裕を持って行動していた自分たちが、何故出会えなかったのか気になり、件の女性をパーティーに入れていた人物にも話を聞いて分かったのは、どうやら出会うであろ場所に自分たちが辿り着いたのは、彼らが仲間の回復を終えて去った明くる日であったということだった。
つまり、何者かの横やりが無ければ、自分たちが件の女性を手に入れられていたはずだと思ったのだ。
いや、思わないとやっていられなかったのだろう。
過ぎたことをいつまでも言っていても仕方がないと、思考を切り替えた帝国の者たちであったが、内心では「もしかしたら、内通者はコイツか?」と互いに疑心暗鬼を抱えたままになっていた。
そのため、重要事項は報告するが、そこまで重要なことではないと判断したことを報告しないようになっていく。
その結果、重要ではないけれど報告がされていないということに、更に疑心暗鬼に陥っていった。
そのため彼らは忍び寄るものに気付くことが出来なかった。
柱の影に、屋根の裏に、あなたの後ろには……。
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