第四話 たまには

 アリエスがレンガ仕様ダンジョンでキャッキャウフフしている頃、件の女性はクラン"ロシナンテ"によって保護という名の捕獲をされ、その身柄はスタっ!と転移してきたウェルリアムが連れてきた、とある人物へと引き渡された。


 ダンジョンでしこたま遊んだアリーたんは、寄生女がいたことすら忘れてはしゃぎまくり、それに感化されたコメットは「そーれ、そーれ!」と破邪の矢を放ちまくった。

コメットの破邪の矢は必中なのでロックオンさえすれば誤爆するようなことはない、ホーミング機能搭載の矢なのである。しかもスキルなので投げるものがあれば打ち放題だったりするのだ。


 はしゃぎまくるアリーたんを温かく見守るメンバーたちであったが、さすがに周囲に冒険者の姿が見えなくなったことで、ふと我に返った。「ここ、何階層なんだろうか?」と。


 ハインリッヒは、今のところ戦力的に何の問題もないし、アリエスが帰るのが面倒になったと言えばウェルリアムに頼んで転移してもらえば済むので「まあ、いいか」となったが、とりあえず彼だけは把握しているだろうとディメンションルームへと休憩に入ったときロッシュに聞いた。


 「ここは、42階層ですね」

「は?42?」

「そうです。最高到達が48階層なので、もうすぐですよ」

「そうか。ということは、アリーはそこまでは行くつもりをしてるってことか?」

「どうでしょうか。少々飽きてこられたご様子ですからねぇ」


 そこへアリエスが「何の話ー?」と首を傾げながら寄ってきたので、現在の階層と最高到達階層の話だとロッシュが説明したら、「飽きてきてたけど、んじゃ50まで行ってみるか」と、うふふと笑い始めてしまった。


 アリエスが「誰がいつ48まで行ったんだろうな」とつぶやくと、それを耳にしたロッシュが「最初に到達したのは、クラン"ロシナンテ"の前リーダーが率いていたパーティーで、かれこれ15年ほど前になります」と答えた。


 それを聞いたアリエスは、ぱちくりと目を瞬き「は?15年も経ってんのに誰もそこから先に行ってねぇの?」と不思議そうな顔をした。


 ロッシュは「49階層へと至る扉を解錠することが叶わず断念したそうで、他のパーティーもそこまでは辿り着けたのですが、やはり扉を開けられなかったとのことです」と、にこやかに返した。


 アリエスはロッシュの話を聞いて、「ふーん。まっ、万物鑑定あるから私には関係ないな!」と笑ったのだった。


 さすがに46階層を抜ける頃にはモンスターも手強くなっており、アリエスは「はっちゃけるのもココまでだな」と観念し、陣形を無視するような戦い方をやめて周囲にも気を配るようになった。


 しかし、さすがにここまで来ているパーティーはおらず、モンスターの数もかなり多くなっていたため、一日ダンジョン二日休みというスケジュールにしたのだが、たまに訪ねて来るウェルリアムが「モヤシじゃないんですから、たまにはお外に行きますよ〜」と言ってダンジョンの外へと転移で連れて行ってくれるため安心して攻略できている。


 大人組は良いが、子供が日光に当たらないというのは成長の阻害になりかねないため、ウェルリアムが気を利かせてくれたのだ。


 お礼はテレーゼ特製のアップルパイなのだが、使用しているのは香り高いインド産を掛け合わせたの大半が蜜という大玉のリンゴで、元の世界では一般販売されていない品である。

農家の高年齢化と跡継ぎ不在ということもあったのだが、作っていたのが夫婦二人という状態であったため一般販売できるほどの収穫は不可能ということだった。


 それが何故にお買い物アプリで買えるのかというと、そのリンゴをたまたま仁が行ったことがある「駅のある道」で販売していたことがあったからである。

それをお買い物アプリで見つけたアリエスは、「あれ?コレって一般販売してねぇんじゃなかったのか?まあ、買えるんなら何でもいいや」と、ぽいぽいと購入したのだ。


 ちなみに何故そんな一般販売されていないリンゴを仁が知っていたかといえば、交友関係の広い茉莉花がお土産としてもらったからである。


 日光に当たってリフレッシュしたパーティー"ギベオン"は、48階層のボスを倒し、次へと至る扉の前までやって来た。

扉を開ける前にひと息入れようとディメンションルームへと入り、お昼ご飯を食べてティータイムをしているうちに、めんどくさくなったアリエスが「明日にするー」と言ったので、今日はボス戦の翌日なのだ。


 数多のパーティーが阻まれたという扉には、こう書かれていた。

「黒き薔薇バラいばらいだかれて永遠とわの眠りにつく」


 これを見たアリエスは「厨二か?」と首を傾げ、クララは「痛そうですね」と、つぶやいた。

クララのつぶやきに反応したスクアーロは、「痛そうって、どういう意味だ?」と尋ね、それに答えるためにクララはアリエスに視線を向けると、彼女は頷いて了承を示した。


 クララは全てを読み上げるとどうなるか分からないため、かいつまんで「とげに抱かれて眠るとあるの」と答えると、それを聞いたスクアーロは「そりゃあ痛そうだ」と顔をしかめた。


 アリエスは万物鑑定で、これをどうすれば良いのか調べてみたところ、ただ読み上げれば良いだけだと分かったのだが、ちょっと意地が悪いなと思った。

トゲではなくイバラ、かれてではなくいだかれて、永遠はトワとなっている。


 しかも、読み上げるのは一度きりでリトライは出来ない。

ボス戦になる可能性も考慮し、後衛魔法アタッカーとしてジャオを連れて来て、頭にサスケを乗せたベアトリクスも呼んだアリエスは、その文章が書かれてある下に埋め込まれた宝石のような赤い石に手を触れると、「黒き薔薇バラいばらいだかれて永遠とわの眠りにつく」と口にしたのだった。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る