第三話 ひゃはっ!

 翌朝、ディメンションルームからダンジョンへと戻ったアリエスは、ルナールに「防御マシマシでヨロ!」という指示を出した。

ルナールは呆れた顔でそれを了承すると、「大地の堅牢なる精霊よ、我が願いを聞き届けアリエス様に揺るがぬ守りを与えたまえ。デュールパノプリーア!」と詠唱付きで呪文を唱えた。


 呪文だけでも魔法は発動するのだが、ルナールが使ったのは契約している精霊に魔力を対価に魔法を施してもらうので、きちんと詠唱しないとやたらめったらな所へ魔法が飛んでいく。

飛んでいくだけなら良いが、敵にバフがいってしまえば目も当てられないことになってしまうので、精霊による魔法だけは必ず詠唱がいるのだ。


 ルナールが契約しているのは闇の上位精霊、土の中位精霊、風の中位精霊の3体なのだが、契約できる精霊は本人の総魔力量に左右される。

そのため彼女は闇の上位精霊と契約する際に、他の中位と下位の精霊とは契約を解除するはめになったのだが、それについては一切後悔はしていない。


 昨日のイライラが原因で今日のアリーたんは「ガンガン、ヤろうぜ!」になっているため、普段は遊撃に参加しているカルラは、ルナールの護衛につくことになった。

陣形ガチ無視で突っ込んで行くため、それを周りがフォローするはめになったが、誰も文句を言わないどころか、どうやればアリエスが楽しくヒャッハー!出来るか嬉々として行動している。


 ちなみに罠に関してはアリエスの視力が届く範囲で鑑定すれば丸裸なので、パーティーが分断されるような罠でない限りミロワールが全て漢解除した。「ちまちまやっていたらアリエス様が楽しめないので」と、笑顔全開で踏みに行っている。


 アリエスが「ガンガン、ヤろうぜ!」なので、回復魔法が届かないほど距離があいてしまうのは困るということで、本日のクララ先生は彼氏スクアーロにおんぶされている。


 デレっとして気を抜くと危ないので、スクアーロは何をおんぶしているのか考えないようにしてアリエスの動きに集中し、そんな二人をクイユが護衛することになった。


 そして、戦闘が開始され、「どっせい!アリー様、どーぞ!」と、ダームオネェが盾でモンスターをアリエスの方へと弾き飛ばした。

それを瞳孔の開いた目で「ひゃはぁーーー!」と嬉しそうにブン殴るアリーたん。素材のことを考えなくても良いのでフルボッコである。


 そんな様子をルシオ、カルラ、ルナールと共に後方から見ているコメットは、「うわぁー、すごーーーい!」と目を輝かせている。

本日はアリエスのストレス発散が優先されるため、コメットは彼女アリエスが遊びやすいようにとロッシュから出される指示に従い、破邪の矢を放っているのだが、前衛が減っている分その本数はいつもより多い。


 しかし、後方で控えている上に指示に従うだけなので、コメット自身は余裕があり、アリエスのはしゃぎっぷりを見て楽しんでいる。

それを見たルナールはコメットに「あれを参考にしちゃダメよ?」と苦笑した。


 アリエスが大暴れするものだから、騒音に導かれてモンスターの数が段々と増えてきたため、彼女は思いっきり氷魔法のアブソリュートゼロをブッパし、効きが悪かったものや逃れたものへ追加でヘルファイアをお見舞いした。やり過ぎである。


 ゴロゴロと転がるアイテムを皆で拾い集めアリエスに渡すと、彼女はそれを一旦袋に入れてからインベントリへと片付けた。

今日の取れ高を見るためである。


 アリエスのフォローをそばで行なっていたハインリッヒは、にこやかに笑い「そろそろ昼だが、休憩するか?」と、彼女の頭をポンポンと撫でた。


 「えー、もうそんな時間かぁ。しゃあない、一旦帰るか。あ、コメットを休憩させんの忘れてた」

「んー、どうだろ?コメット、調子は?」

「はい、ハインリッヒ様、アリエス様、大丈夫です!えへへ、楽しかったです」

「そりゃ良かった。今度から休憩時間変えるか?」

「はい、大丈夫です。アリエス様のタイミングにお任せいたします」

「んじゃ、このダンジョンに関しては2時間戦闘、2時間休憩だな」

「かしこまりました」


 ダンジョン内を歩くだけでも一苦労なのだが、カンムッシェル辺境伯家にいた頃のコメットは誰にも構ってもらえなかったので、ずっと邸内やら庭をウロウロしていたため、歩くことには慣れていた。

洞窟仕様だと足場が悪いため体力が削られるが、このダンジョンはレンガ仕様のため地面は平坦で歩きやすく、それほど体力は減らなかったのである。


 昼食後はコメットを休憩させることにしたためアリエスは、アブソリュートゼロで凍らせては叩くということを繰り返していた。

やっているうちにモグラ叩きかワニがパニックになるアレを思い出し、笑ってしまった。笑顔でモンスターを叩くという状況だが、メンバーしか見ていないので問題ないだろう。


 夕飯の時間より少し早いくらいになった頃、ようやくアリエスは落ち着いた。

滲んだ汗がキラメキ、しっとりとした髪はほつれ頬に貼り付いているのだが色気はない。不思議である。


 スッキリしたアリエスは、ディメンションルームへと帰るとお風呂でサッパリし、デザートタイムをするために窓を開けて「ジャーオ〜」と甘味大好きなジャオを呼び、ベアトリクスに寄りかかって高級ブランデーチョコアイスを食べている。そのお値段1個3000コイン也。


 彼女の横ではサスケも器用にスプーンを使ってお気に入りのヘーゼルナッツアイスを食べており、珍しくムーちゃんにもアイスが与えられたが、もちろんテレーゼ特製ダイエットアイスである。


 ジャオは、大好きな甘味なので身体を最小サイズである野球ボールほどの大きさにして食べている。

しっとりふわふわなホットケーキにバターと蜂蜜、その横にはキャラメルソースがかけられたバニラアイスが添えられているのだが、直径20cmほどのホットケーキ5枚にバニラアイス3個なので、かなりのボリュームだ。

 

 寄りかかられているベアトリクスはアリエスが面白半分でテレーゼに作ってもらったバケツプリンを美味しそうに食べており、それをムーちゃんが虎視眈々と狙っているのだが、ベアトリクスに適うはずもなくあえなく撃沈した上に散歩に連れて行かれたのだった。


 


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