第二話 不機嫌な理由
やっとディメンションルームへと入れたアリエスは、ぐでぇっとベアトリクスに寄りかかってダレていた。
最後の最後にうぜぇのに会ったと、かなりご機嫌斜めである。
いつもより少し遅い時間なので、うっかり遊び過ぎているのかな?と、そんなふうに話していた待機組は、アリエスの様子に「これは、何かあったな」と判断した。
フリードリヒは兄であるハインリッヒに何があったのか聞くと、「何じゃそりゃ」と呆れた顔をした。
「ここって、ゴールドランク以上じゃなきゃ入れねぇんだろ?そんな人の話を聞かねぇようなのが、よくゴールドランクになれたな」
「フリードリヒ、人の話を聞かないんじゃねぇんだよ、ああいうのは」
「ん?違うのか?」
「フリードリヒさんは冒険者に馴染みがないから知らなくても無理はねぇんだけど、さっき遭遇したあの手の女は、『何でもします、夜の相手でも』なんて言って、そのパーティーに居座る
「ルシオの言い方じゃあ、寄生虫みてぇなヤツだな」
「みたいじゃなくて、そうなんだよ。恐らく、一緒にいた連中にもその手を使って寄生してたんだろ。『助けてくれたお礼に……』なんて言ってそのままズルズルとパーティーに居座るヤツって、たまにいるんだよ。んで、他にいいのが見つかれば所属してるパーティーに危ねぇことさせて怪我を負わせて、それを助けてくれたパーティーへ、ってなわけだ」
「うへぇ〜……」
「何も女ばかりじゃねぇぞ?男でもやるヤツはいる」
危ないことをさせるといっても自分では明言せずに相手が自分の意思でやると、そう言わせることによって、危険な目にあわされたとは本人たちは思わないのだ。
そうやって怪我を負わせ、それを助けてくれた人に「助けてくれたお礼に」と言って近付き、パーティーを転々としていくのだが、ゴールドランクに上がれたということは腕はそれなりにあるはずなのだ。
ならば何故そんなことをしているかといえば、それは先程のウザイ女性が持つスキルにあった。
それを説明するためにアリエスは、ベアトリクスに寄りかかりながらムーちゃんのほにゃんほにゃんのお腹に顔を埋めていた癒しを止めると、ムクっと起きてハインリッヒたちの会話に加わった。
「あの女がゴールドなのはスキルによるもんだぞ」
「お、アリー復活したか。何か特別なもんでも持ってたか?」
「さっきの話まんまだよ。寄生スキルと言ってもいいんじゃねぇかな」
「うぅわ、マジかよ」
「肉体関係を持った相手がそばにいれば、そいつの力や魔力、素早さなど一時的にだが奪って自分のものに出来る。その効果は自身より相手が離れれば離れるほど効果は薄くなるとあったぞ」
「てことは、昇格試験のときも実技はそれを使ってたってことか」
「試験中は周りにいるヤツらは見てるだけだから奪い放題だろ?あの女にゴールドランクの実力はねぇよ。上げ底だが、そのスキルも実力の内って言えばそれまでだけど、アイツは一人じゃなぁーんも出来んぞ?」
後衛の魔法職から素早さや力を奪えば、前衛から奪うほどの危険はないだろうが、それでも奪われた方はデバフをかけられたようなもので、本来の実力は発揮できない。
それに、上位の冒険者になれば何かされたことに気付くので、質の良いパーティーに居座ることは難しいのだ。
しかし、そのスキルに危機感を持ったロッシュは、訪ねてきたウェルリアムに事情を話し、ダンジョン都市ドリミアにいるクラン"ロシナンテ"のリーダーであるマテウスに手紙を届けるように頼んだ。
もちろんダンジョン都市へもウェルリアムをほいっ!と出しているので、彼はスタっ!と転移してロッシュから預かった手紙という名の捕縛命令をクラン"ロシナンテ"のリーダーマテウスへと届けた。
もし、ディメンションルームを持つ者が件の女性と手を組めば、数多の男と関係を持たせ全員でディメンションルーム内に籠り、その女性が手だけを出して魔法をブッパすれば、とんでもない威力の固定砲台となり得るからである。
探させているミロワールを召喚した者以外にも転生者がいないとは言いきれないため、危ない芽は早めに摘んでおくに限るということであった。
兄二人と旦那(予定)、そしてアリエスがしている話を聞いていたグレーテルは不思議そうな顔で尋ねた。
「アリーちゃんは、どうして不機嫌だったの?」
「アイツ、顔で選り好みしてるから、そういう所がムカつくんだよ」
「顔?能力とかじゃなく?あ、クイユさん狙いとか言ってたわね。あれ?ロッシュさんは?」
「ロッシュは気配を消せるからな。気付いてなかったんじゃねぇか?」
「さっすが、執事さん!えー、でもハインリッヒ兄さんを見てたのは何で?」
「おい、ちょっと待てグレーテル。どういう意味だ!」
わちゃわちゃとやり始めたハインリッヒとグレーテルに対してアリエスは、「いくつになっても兄妹は兄妹なんだな」と笑い、ちょっと機嫌は良くなった。
件の女性がハインリッヒを見ていたのは、彼がミスリルランクだったので、パーティーのリーダーだと思ったからだ。
しかし、このパーティーのリーダーはアリーたんなので、いくらハインリッヒに絡もうとも何の結果も得られないし、ミスリルランクにまでなっている冒険者が簡単に嵌められたりしないので、無駄な行為である。
ロッシュが「食事の時間でございますよ」と声を掛けるまでわちゃわちゃしていた兄妹は、ちょっと童心に帰っていた。
そんなグレーテルの可愛らしい一面を見たルシオは彼女に更に惚れ込むのであった。
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