17 思うままに突き進む

第一話 面倒事

 今回アリエスたちパーティー"ギベオン"が向かったのは、ゴールドランク以上の冒険者が入れるダンジョンだった。


 こちらも下へ下へと降りて行くタイプのダンジョンなのだが、内装は洞窟仕様ではなくレンガ仕様であり、倒したモンスターはアイテムを残して消えるため解体作業はない。

ただし、罠が至る所に仕掛けてあるため、斥候や罠を解除出来る者がいないと少々大変な思いをするのだが、そんなの関係ねぇアリーたんは鑑定しながら進んで行く。


 避けられる罠は放置し、どうしても無理そうなものはミロワールがおとこ解除してくれるのだが、たまにアリエスが宝箱欲しさにわざと踏み抜いたりする。


 それを見て精霊使いルナールは、呆れた顔で「信じらんないわ……」とため息をついた。

その様子にアリエスは首を傾げており、自分がおかしなことをしている自覚はなかった。


 解体作業がない、つまりは後のことを考えなくても良いため、いやっふぅーーー!と竜骨モーニングスターでブン殴ってグシャッ!とやっても、殴りながらヒャッハー!と魔法をブッパしても何も問題がないのである。


 このダンジョンは、入り口に門が設置されており、冒険者ギルドのゴールドランク以上でなければ入れないようになっている。

しかし、ディメンションルームがあるアリーたんには、そんなの関係ねぇため、冒険者登録したてのメンバーもこのダンジョンに一緒に潜っていたりするのだ。


 しこたま暴れてスッキリしたアリエスは、頬を紅潮させて目を輝かせていた。

まるで、長らく会えていなかった愛しい恋人と再会したようにも見えるが、竜骨モーニングスターでモンスターをグシャッただけである。


 「はぁーーーっ。楽しかった!」

「そりゃ良かった。アリーが楽しそうで何よりだ。にしても、ちょっと数が多かったな。ルシオもそう思わねぇか?」

「そうだな、ハインリッヒ。ちっとばかし多かったな。やはり冒険者の数が減ったのが原因か?」

「どうだろうな。解体作業がない分だけ楽ではあるが、その分だけ実入りも少なくなるから、大所帯のところは元からあまり来なかっただろ?」

「あー、まあ、そうだな。いや、でも、規模の小さいヤツらなら拠点を簡単に移せるだろ。ここに来ていた連中なら、ちょうど当てはまらねぇか?」


 ルシオの見解通り、ここへ重点的に入っていたパーティーがいくつか活動拠点を違うところへ移したため、モンスターの数が少し増え気味になったのだ。

しかも、モンスターが増えたことによって危険度が少し増したと感じたため、入るのを止めたパーティーもいた。


 そのため、更にモンスターが増えるという悪循環に陥っているのだ。

それを横で聞いていたアリエスは、「んじゃ、遠慮なくヤッちゃって良いってこと?」と、キラキラした目でハインリッヒを見つめた。


 見つめられちゃったハインリッヒはデレっとすると、「そうだな。他の連中にも残しておいてやるという気遣いは、今の状況ではいらんかもな」と、GOサインを出した。


 ひゃはっ!と喜んでいるアリーたんは可愛いのだが、喜んでいる内容はちっとも可愛くないのであった。

 

 7歳のコメットはまだ幼いため、大人と同じような活動をさせられないと、1時間ほどダンジョンで活動したら3時間はディメンションルームにて休ませるという方針を取っている。


 しかし、ただ3時間も休んでいるのはもったいないと思ったコメットは、1時間だけ休み、残りはキートと一緒にお手伝いをしたり、勉強したりしている。


 コメットがおらず、後衛の物理アタッカーはいない状態なのだが、ここに出てくるモンスターならばそこまで問題はない。コメットがいないとちょっと倒すのが面倒だと思うことがある程度だった。


 そろそろ夕飯の時間になるということで、アリエスたちは死角になるような場所を探し、ディメンションルームを展開して帰ろうとしていた。


 そこへ、女性のすすり泣くような声が聞こえてきたためアリエスの顔は「うわ、めんどくせぇー」というのがありありと出ており、ハインリッヒとロッシュは警戒度を上げた。


 人が近くにいることに気付いたのだろう。

すすり泣く声が聞こえる方向から憔悴しょうすいしきった一人の男性が現れ、「頼む、取り引きをしてくれないか」と警戒しつつも頼んできた。


 その男性の言葉に応じたのはハインリッヒであった。

「何を望む?」

「魔力回復薬もしくは回復薬、それか回復魔法を頼みたい。対価は相場の5倍だ」

「5倍か。てことは、急いでんのか?」

「ああ、ここで問答している時間も惜しいほど」


 急を要すると判断したハインリッヒは、パーティーリーダーであるアリエスを見ると、彼女はコクリと頷いて了承を示した。

その様子を見て先程の男性は驚いた。指示を仰いだということは後ろに控えていた女性アリエスがリーダーだったのだと。


 回復薬は各種とも余裕があると伝えると「ならば魔力回復薬を頼む」と、その場で取り引きを成立させ、男性は礼を言って去って行こうとしたのだが、彼の後ろから悲壮感たっぷりな女性が現れて「お願いっ……!何でもするから……、だから、回復薬を!私はどうなってもいいの、彼を助けて……。お願い……」と、ダンジョンの壁に寄りかかりながら近付いてきた。


 既に相場の5倍で取り引きを終えていると仲間である先程の男性が説明したのだが、「お礼なら何でもするわ……。夜の相手だって構わない。だから、他のメンバーには何もしないで」と、人の話を聞かないし、何故かアリエスたちを「取り引き後に助けてやった恩を返せ」と言ってくるような連中だと決めつけているような言葉であった。


 いい加減イライラしたアリエスは、「夜の相手だぁ?お前みてぇなのに相手してもらわなきゃならねぇほど、うちのメンバーは女に困ってねぇんだよ!むしろ、お前がコイツ目当てなんだろうが!!」と、クイユを指さした。

それに対してクイユは、「女性に困ってないどころか美しくて優しい最高に愛しい妻がいるので、彼女以外に触れるつもりはないというか、触りたくないな」と、冷ややかに笑った。


 そう言われても「そんなつもりじゃ……」と言って、まだ言いつのろうとしてくるのを仲間に回復薬を渡し終えた先程の男性が止めた。

「もう取り引きは終了しているし、回復も間に合った。彼らだって、それ以上のことを要求するつもりはないと言っている。それとも何か。あちらのパーティーに入りたくて食い下がっているのか?」

「ち、違っ……!そんなつもりじゃ……」

「なら、どうして食い下がる?あちらのパーティーは疲労もそんなに感じないし、身綺麗に出来るほどの余裕があるからな。羨ましくなったか?しかも美形な男がいて、上位ランクもいる。……そんなに俺のパーティーが嫌なら出て行ってくれて構わない」


 冷たく突き放された女性は「ご、ごめんなさい……」と俯くとチラチラとハインリッヒの方を見るが、彼が助けることはない。

その様子を見た先程の男性は、「いくら彼に助けを求めても無駄だ。決定権を持つものは別にいる」と鼻で笑い、「余程、パーティーを抜けたいようだ。ここで放り出したりはしないが、帰還後に脱退してくれ」と吐き捨てた。


 それを聞いたアリエスは、「ほー。ダンジョン出るまでは面倒見てやるんだ。いい奴じゃん!私なら、この場で捨ててくわ」と思ったが口には出さなかった。


 面倒なのがいるということでパーティー"ギベオン"は、もう少し離れた場所へと向かい、周囲に人がいないのを確認してからディメンションルームへと帰ることになったのだった。


 

 




 

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