第五話 減ってる?
ハルルエスタート王国側で受け入れ体制が整ったということで、アリエスのコテージからウェルリアムのディメンションルームを経由して、先代国王のいる離宮へと旅立って行ったレベッカ。
旅立つ彼女に餞別だ!と言ってサスケお気に入りベスト3のナッツを進呈してあげたアリーたん。
顔を引きつらせて受け取ったレベッカに「冗談だぞ?本当の餞別は、こっちだ!」と言って渡したのはミストとブラッディ・ライアンとの3人で悪ノリして作ったフード付きローブだった。
温度調節と強力洗浄機能がついており、洗わなくても大丈夫な上に体臭を残さない優れものである。
ウェルリアムに頼んで獣人族の知り合いで試してみたところ、そのローブを着て通り過ぎると全く匂いが残らなかったのだ。
しかも、空間拡張したポッケを至る所に施してあるので、暗器や荷物なども小分けにして片付けられる。
ただし、時間停止機能はついていないため、日持ちのしないものは入れないようにと注意しておいた。
レベッカが使ってみて良さげであれば、ミストが注文を請け負うことになっているのだが、それはハルルエスタート王国のお抱え錬金術師のレベルではまだ作れないからである。
目指せ、ミスト親子!と日々、精進している彼らが追いつける日が来るのをハルルエスタート王国王家は期待しながら見守っているのであった。
ちょこちょこ寄り道しつつダンジョン都市ドリミアへとやって来たアリエスたちパーティー"ギベオン"の面々は、宿を取らずにダンジョンへ直行することにした。
どうせ宿を取ったとしてもダンジョンへ一度入れば数ヶ月単位で戻って来ないからである。
クラン"ロシナンテ"の設立者が精霊馬を引きあげたという話は広まっており、第二世代の新メンバーが第一区に出入りできることを鼻にかけていたことも相まって、一時期はロシナンテに対する風当たりは強かったのだが、リーダーのマテウスが態度の悪い者や「誰かのために」という理念を守れない者を排除したこともあって、少し見直されはした。
しかし、今のこのダンジョン都市の状態とそのことが関係しているとは全く思えないアリエスたちは首を傾げていた。
というのも、街中を見回してみると冒険者が少ないのだ。
ダンジョンへ行っているのだとしても、それでも以前に比べると3割ほど少ない気がしたため、ハインリッヒはルシオを連れて冒険者ギルドへと話を聞きに行ってくれた。
しばらくして戻ってきた彼らが言うには、アリエスたちの昇格試験のときの様子を見て、ダンジョン都市ドリミアの冒険者ギルドに失望したり、嫌悪感を持った冒険者たちが他へと拠点を移したというのだ。
それを聞いたアリエスは、「意味が分からん」と眉を寄せた。
「別に自分がされたわけでもねぇのに、そこまでのことになるか?」
「あのな、アリー。ギルドの上層部が調査も確認もせずに、思い込みだけで事を起こしたんだ。命をかけて仕事してるヤツからしたら、そんな信用のおけない所で働くなんてこと出来ねぇよ」
「あー、まあ、そうだよな。私はぬくぬくダンジョン探索だけど、酷いところだと保存食、風呂ナシだもんな。しかも、どこのパーティーだろうが夜番は必須だし」
「身体を拭ければ良い方で、それすら出来ないヤツらもいるからな」
「そういう点では、ルシオのところは良かったんじゃねぇの?」
「まあな。俺以外にも水を出せる兄弟がいたからな。たまに金払うから水を分けてくれっていうこともあったぞ」
へぇー、と感心するアリエスであったが、自分は頼まれたことなかったなーと暢気に思っているが、誰も彼女の持つ色を見て水を出せるとは思わないだろう。
ましてや、メンバーが周囲に「寄んな」という無言の圧力をかけていたのだから無理である。
そして、ハインリッヒたちの話には続きがあり、アリエスたちが昇格試験を受ける前の段階で、ドリミア領主が貴族に圧力をかけたり賄賂を渡したりして、アリエスたちが貴族からの依頼を受けても合格判定を出さないように、呼びかけていたことも知れ渡ってしまったのだ。
本来ならばそのような内情が漏れることはないのだが、ロッシュを慕っている反領主派の面々がチロっと、テロっと、わざと滑らしちゃったため、さらりさらりと水が流れるようにして、その話が広がったのである。
しかも、アリエスはルナラリア王国国王からの推薦状を、その他のメンバーはハルルエスタート王国王太子からの推薦状を所持していたため、妨害工作など何の役にも立たなかった上に、二つ王家から推薦を受けている者たちを理不尽な理由から妨害しようとしたとして、両国家から「おん?やんのか?」といった感じの忠告を受けるはめになった。
簡単に言えば、イエローカードを出されたのだ。
次に何かやれば宣戦布告と見なすからな?といったところである。
それを聞いたアリエスは、「宣戦布告は、行き過ぎじゃね?別にダンジョン都市なんぞ、いらんだろ」と困った様子であったが、国のメンツというものがあるので、そういうわけにはいかないのだ。
「まっ、どーでもいいけどな!私には関係ねぇ話だ。ダンジョン行くぞー!!」
「そうだな。難しい話はアリーの父ちゃんと兄貴に任せておけば良い」
ハインリッヒにぐりぐりと撫でられたアリエスは、にかっ!と笑うと、「今度は何をゲットできるか楽しみだ!」とルンルンしながらダンジョンへと入って行くのであった。
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