第三話 味方
前世がピートという諜報員であったレベッカ。
今世では、16歳のときに一つ下の妹と共に同じ夫に嫁いだのだが、それは彼女たちの父親と夫の祖父が決めたことだった。
レベッカには
自身の生い立ちを語るレベッカは遠くを見て目を細めると、馬鹿にしたように笑った。
「経営能力って、誰が妹をあそこまでに育てたと思ってるのよ。情報収集能力は門外不出だから教えなかったけれど、妹に教えた程度のことなら上位貴族の子息たちは子供の頃に習ってるわ、バカバカしい」
「うは、恥ずかしいヤツ系だ。情報収集能力は諜報員だったんなら教えられねぇわな。ていうか、何で正攻法で行こうとしたんだ?隠し通路知ってんだろ?『やっほー!』て行けばいいじゃん」
「あんた、王宮の警備ナメてんの?まあ、さっきまでやろうとしていた私が言えたことではないけど。諜報員っていうのは己の力だけで、どうにかしたいものなのよ」
「ゲーム感覚か?」
図星を指されたレベッカは、「うぐっ」と言葉に詰まった。
もうピートではないし諜報員でもないのだから、請け負っている仕事もなく、ちょっと腕試しのようなことをしてみたかったのである。
バツの悪そうな顔をしたレベッカは、「でも、恐らく隠し通路へは行かなかったと思うわよ?年齢的にまだ坊っちゃまはご存命だろうから、ドリミア辺りから回ってみれば、どこかで情報を拾えそうだもの」と、やってみたいとは思ったけれど、だからといってやるのかと聞かれれば、答えは否だといった感じであった。
そんな彼女にアリエスはニタっと、「でも、あれだな。下手したらじいちゃん夜這いかけられてたかもしれねぇんだな!」と、笑った。
そんなことを言われたレベッカは、げっほ、ごっほ!と思いっきり
「な、なんてこと言うのよ、この子は!!あ、あああ
「えー?だって、隠し通路って私室とかに繋がってんじゃねぇの?」
「そうだけど!そうだけど、ね!?」
「あれ?でも、今は
「あ。」
頭の中がどうにも前世に引っ張られているようで、レベッカが知っている通路を使えば、もれなく現国王と遭遇することになっただろう。
よかったな、アリーたんに拾ってもらえて。
ずうぅーーーん……と暗雲を背負って項垂れてしまったレベッカに、「元気出せよ!」と頭をぽふぽふ叩いてお気に入りのナッツを進呈してくれたサスケであったが、頭の上にナッツを置いてやるな。頭を動かせなくなってレベッカが困っているぞ。
しゃーねぇなあ〜とアリエスがナッツをどかしてやり、レベッカの口へと放り込んだ。
「……美味しいわね、これ。え、ちょっと?今、私
「ふふんっ、美味しいだろー?この世界じゃ、ここでしか味わえないぞ!あ、でも、
「それって、あなたが渡しているからという理由なら、同じだと思うわよ?ていうか、ストーンチップのエサを国王陛下にお出ししないでちょうだい!!坊っちゃま、どうして見逃しているのぉーーー!?」
「逆でございますよ。
「そうなのね……。ああ、でも、ここでしか味わえないというのならば、国王陛下がお召し上がりになられていても不思議ではない……のかしらね?」
出会ったときから何気にオモチャにされているピート改めてレベッカ。
前世でピートであったとき、病に倒れた頃にはまだ幼さが残っていた
さて、真面目な話でもするか、と表情を引き締めたアリエスは、「レベッカは、これからどうするんだ?」と聞いた。
「そうねぇ。今でも
「何で無理なんだ?」
「だって、何の後ろ盾もない離縁された女がどうやって先代国王陛下のところへ行けるというのよ」
「んー。なぁ、ロッシュ。リムと
「ええ、可能でございますよ。ただし、その際にはレベッカがピートであったことを説明しなければなりませんが」
「なら、問題ねぇな。リムが来たら頼んでおいてー」
「かしこまりました」
レベッカはリムという人物が国王と同列に語られ、彼に頼めばどうにかなるという話から、彼が国王の側近か何かであろうことは推察できたが、まさか成人前の子供だとは思わず、それを知ったときに顔を引きつらせた。
自分が死んでから祖国の内部がどうなってしまったのか不安で仕方がなかったのだが、まさかカンムッシェル辺境伯が外患誘致罪で捕らえられていたり、古代に生きていた聖女が顕現していたり、50歳近い王妃が子を産んでいたり、騒動の後ろにはアリエスの影がチラついていたりと、さすがに諜報員として生きた前世があるレベッカでも情報過多でパンクした。
でも、納得もしたのだ。
何故、
彼女の存在は、大きくなり過ぎた祖国ハルルエスタート王国を更に強くしている。
それも良い意味で、だ。
圧力をかけるわけでもなく、相手が
レベッカは、思ったのだった。
アリエスが味方で良かった、と。
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