第二話 白黒
万物鑑定で勝手に見ちゃったアリエスは、驚愕した。こんな事ってあるのか!?と。
どうやら醜聞劇場は終わりを迎えたらしく、「お前のような穀潰しどころか家を潰しかねない女など必要ない!離縁する!!」と男性が宣言し、妹の方が「お姉様、ここにサインを」と、離婚するための書類にサインを迫った。
周囲のものたちは「ここでやんのかよ!?」と往来で醜聞を撒き散らかすだけでなく、サインまでさせる二人に困惑していた。
そして、追い討ちをかけるように妹が「実家を継いだお兄様からも、戻ってくるなと絶縁状を預かっていますわ」と、それを姉に突きつけた。
それによってアリエスは、「あ、この二つの家、詰んだな」とプークスクスといった具合だ。
情報の大切さを理解していない妹と嫁ぎ先の家のために、そして、視野の狭い実家のためにと姉は得た情報を上手く使っていたのだが、これ見よがしに「私が集めました。感謝なさい」とは、やらなかったため、周囲は気付かなかったのである。
絶縁状だけを渡され、身一つで放り出された姉の頭の中には「さて、どうやって
フユルフルール王国のしがない男爵夫人という、ちっぽけな地位すらない今となっては、隠し通路を使って会いに行くしかないか、と。
そうするにしても、まずは身動きの取りやすい服を用意しなければと、立ち上がったところにアリエスが現れた。
彼女の後ろには、いつも控えているロッシュとテレーゼはおらず、ストライプモヒカンのルシオと新たな出発ということで何故かスキンヘッドにしたフリードリヒがいた。
変声スキルで男性の声にし、空間拡張された胸当てをつけてツルペタにした男装アリエスは、「よぉ、姉ちゃん。ちょっと俺たちに付き合えや」と誘った。絶対に面白がっている。
面倒なのが湧いて出たなとウンザリした顔を向けてくる彼女に近付くとアリエスは、「そう嫌そうな顔すんなって。後悔はさせねぇからよぉ」と、ゴロツキ感満載である。ルシオとフリードリヒが笑いを必死で堪えているが、そろそろ限界のようだから、その辺でやめといてやれ。
男三人相手では自分に勝ち目はないと踏んだ彼女はアリエスがすぐそばまで来ても抵抗しなかった。
そのためアリエスは、彼女の耳元で囁いた。「俺たちと行こうぜ?なぁ、
僅かに目を見開いた彼女は、何事もなかったように「私の名前ではありませんよ。人違いです」と、にこりと微笑んだ。
しかし、そんなことで引き下がるアリーたんではない。
万物鑑定によって彼女をピートと呼べば反応することが分かりきっていたからである。
そろそろルシオとフリードリヒの腹筋が限界そうなのもあるし、衛兵を呼ばれても困ると判断したアリエスは種明かしをすることにした。
元の声に戻して、「お祖父様、もう出て来て良いわよ?」と路地の影に向かって声を掛けた。
そこから現れたのは、もちろんロッシュである。
先程からアリーたんにオモチャにされていた女性は、彼の姿を目にした途端、「坊っちゃま……!?」と掠れた声で悲鳴をあげた。
「ぶはっ!ぼっ、坊っちゃまって!!ロッシュ、坊っちゃまだって!」
「はい、
「ちょ、ちょっと、坊っちゃま?何故、ここに?というか、何故、私がピートだと分かったのですか?」
「往来でする話でもねぇじゃん?行こうぜ、行こうぜぇ〜」
「ちょっと、お待ちなさい。あなた、坊っちゃまとどういう関係なのです?」
「さっき、お祖父様って言ったじゃーん。孫娘でーす」
「孫……娘?娘!?」
ピート君と呼ばれた彼女は、ロッシュが準王族であることを知っており、彼が子供を作るとは思えなかったが、どう見ても目の前の孫娘だというこの男性に見える人物は、彼の血縁としか思えない配色をしていた。
「もしかして、あなたも準王族だったのですか?」
「んふふー。そうだよ!父ちゃんは国王だぞ!」
「とっ、父ちゃん……!?」
父親が国王であるということよりも、国王を父ちゃんなどと呼ぶほうが驚きなのである。
そうして目を白黒させるピート君と呼ばれた彼女を伴って、ディメンションルームへと入った。
ロッシュを知っているからといって初対面の相手を入れるとは思わず、メンバーたちはとても驚いていた。
リビングへ入るとササっとテレーゼがお茶の用意をし、ロッシュがムーちゃんをアリエスに渡した。
まふぅとムーちゃんを首に巻いてくつろぎ出したアリエスへ、「ちょっと、説明して。何が何だか、さっぱりよ」と困惑して声を掛けるピート君と呼ばれた女性。
もちろんアリーたんが説明したりするわけもなく、「ロッシュ、おねがーい!」と丸投げである。
「
「そうだったの。前世を思い出したのは、3歳の頃よ。何の前触れもなく朝起きたら前世の記憶が追加されていたような感じだったわ。それからは必死で行動したわ。いつか必ず
「でも、そのおかげで私と出会えたじゃん。最短距離じゃね?」
「ふふ、そうね。諜報員にとって一番厄介だったのは運よ。それだけはどうにもならなかった。あなた、幸運持ちでしょう?」
「へへ、聞いて驚け!幸運スキルLv8だぞ!」
「………………は?いや、嘘でしょ?え?何をどうしたら8まで上がるのよ!?」
「さあ?」
アリーたんは幸運スキルがどうやったら上がるのか全く知らないが、好き勝手やっていて上がっていっているのだから、間違った行動はしていないだろうし、これからも好き勝手やっていくつもりである。
ましてや神様にまで「好きにさせろ」というご神託を賜わったのだ。
これからも大いに好き勝手していくことだろう。
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