16 心強い味方

第一話 見てみる

 ウェルリアムによってもたらされた情報のおかげで、憂いのなくなったロッシュは、普段通りに戻った。

何となくロッシュに元気がないような気がしたアリエスは、葉命酒を買って渡したのだが、このじいさんはアリーたんからなら何を貰っても喜ぶだろう。


 葉命酒を買ったときにウェルリアムもいたのだが、彼は「あれは生薬だったよね。父上に相談してみよう」となり、この世界に薬用酒が誕生する切っ掛けとなった。


 ダンジョン都市へと向かう道中で、フユルフルール王国を横断するのだが、今回は夏場だったため氷鉄鉱の採掘は休みであった。

そのため、鉱山にてき使われていた奴隷たちも、つかの間の休みを与えられており、たまたま鉱山から出てきて移動させられているところにかち合った。


 つまり、またクイユの元異母兄に遭遇したのだ。

アリエスが見つけて、ニタっと笑うとクイユの周りにハーレム(笑)を形成し、元異母兄をおちょくった。


 しかも、今回は嫁さん付きである。

片方の腕で嫁の妖艶美女クリステールの腰を抱き寄せ、もう片方の腕にアリエスがピトっとくっつき、その横に苦笑したスクアーロに送り出されたクララが並び、何か楽しいことしてるー!とグレーテルが参加し、愛人なら任せなさい!とルナールがクリステールの横からしなだれ掛かり、えっ!?あれ?じゃあ、私も!とカルラもクララの横に並び立ち、では私も並びますかとテレーゼも参加した。


 さすがに息子に変なところを見せるわけにはいかないので、ビーネだけは参加しなかったのだが、錚々そうそうたるメンバーだった。


 更にあおるためにアリエスは、「ダーリン結婚したのよ?見せてあげたら?」と甘い声でねだるようにクイユへと指示を出し、クイユとクリステールが身分証をくっつけて光らせた。


 それを見た元異母兄は、この世の憎悪を全て詰め込みました!というような顔でクイユを睨みつけていた。

無駄口を叩けないように命令されているため罵倒することも出来ない元異母兄は、拳を握りしめ、歯を食いしばって、目は血走っていたが、アリーたんは我関せず、「じゃあ〜ねぇ〜」と去っていく。


 何が起きたのかさっぱり分からない新メンバーだったが、クイユと先程の奴隷が同じ色を持っていたことから何となく察した様子であった。


 「ねぇーえ、アリエス様?さっきのアレってクイユさんの?」

「そうだよ、ルナール。クイユの元異母兄」

「随分と顔が違うのね」

「顔なんて所詮、入れ物に過ぎねぇよ。そりゃ美形の方が得することも多いだろうが、非力な美形ほどあわれなもんはねぇな。ていうか、超絶美形なら猟奇的な性格でも良いなんてことはねぇだろ?」

「……ないわね。それだけは、ないわ」


 クイユの生まれ育った境遇を思えばそれほど残酷なことを元異母兄にしているとは思っていない、そんなアリーたんであるが、彼女の幸運スキルはLv8に到達している。

そこまで行ったからこそ、なんとなくディメンションルームから出て散策して、クイユの元異母兄に遭遇したりするのだろう。


 しかし、やられた彼からすれば不幸な出来事に思えるだろうが、こればかりは自業自得なので仕方がないのだ。


 あー、楽しかった!と満足したアリーたんは散策を終了してディメンションルームへと戻ることにした。

まるでクイユの元異母兄をおちょくりに出てきただけのような行動になってしまったが、本当に、ただの偶然である。


 普段ならばアマデオ兄貴にスタコラサッサと目的地まで爆走してもらうのだが、今回は子供が二人メンバーに加わったことから観光目的で街に立ち寄ったりしていた。


 アリエスにしては珍しい行動だと以前からいるメンバーは思った。

だが、彼女は少々子供が苦手ではあるが、親がやらかしたことのしわ寄せが子供へ行くことは、なるべるなら減らしてやりたいと思っているのだ。


 前世で気持ちの悪い祖母がやらかして、そのしわ寄せが姉の茉莉花へと及んでいたことに憤慨していたからである。


 ということで、出掛けたいメンバーは各々ディメンションルームから出て街を散策しており、アリエスもたまにロッシュとテレーゼを伴って出掛けることもあった。


 そんなときだった。

アリエスが「こんなところで昼メロか?」と困惑して見つめる先には、蔑んだ視線を隠しもせずに向ける男性と、その視線から逃げるようにして座り込み俯く女性、そして、その女性を憐れむようにして見つつ、視線を向ける男性に寄り添う女性だった。


 男性が声を荒らげるのでイヤでも耳に入ってきた情報によると、二人の女性は姉妹で、二人揃って男爵家へと嫁いだ。

しかし、姉の方は着飾ってお茶会や夜会に行ったりと、お金の掛かることばかりして散財し、妹と夫が頑張って増やした財産を食い潰そうとしている、ということだった。


 アリエスは、彼らの財政状況がどの程度なのか分からないが、往来で醜聞を撒き散らかす阿呆共よりかは、座り込んでいる姉の方がまともな思考をしているのではないかと思った。

何故ならば、「散財している」というほど彼女の装いが高価だとは思えなかったこともあるし、ご夫人方の寄り合いというのは情報収集が主だからである。


 余程、頭の中が花畑でない限り、きちんとその責務をまっとうしているはずなので、彼女が本当に穀潰しなのかアリエスは勝手に鑑定してみることにしたのだった。


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る