第七話 色んな愛

 知らないって怖いね、ということがあった数日後。

アリエスたちはダンジョン都市ドリミアへと向かっていた。


 監禁されていたキートの母親ことビーネは、体調がまだ思わしくなかったため療養中なのだが、それ以外は仕事を始めた。


 厄落とし少女ことコメットは後衛物理アタッカーなのだが、7歳と子供であるためクララのそばでスクアーロとミロワールが護衛につき、攻撃するタイミングもまだ自分で判断できないため、ロッシュの指示に従うことになっている。

貴族の家で生まれ育ったため執事やメイドの存在に慣れており、キートのようにおっかなびっくりするようなことはなかった。


 精霊使いの変た……、ルナールは補助をかけるため後衛に位置することになり、護衛には回復もいけるルシオがつくことになったのだが、しばらくグレーテルがむくれていた。

辺境伯当主の愛人の座を勝ち取っただけあってルナールは「いい女」なのである。契約している精霊を愛してやまず、かぶってしまう変た……、愉快な人ではあるが。


 その様子を見てグレーテルは、「うむ。旦那が盗られる心配はなさそうね」と、納得したのだが、まだ結婚していない。

アリエスがルシオに「どーなんだよ」と尋ねたところ、「相性は良いぜ?」と返してしまってロッシュにスパンっとはたかれてしまったというアホな話はあったが、どうやらプロポーズに向けて何やら考えてはいるようだった。


 ロシナンテにいた頃には、たまに飲みに行ったり、一緒に娼館にも行っていたルシオが義弟となりそうなことに少し複雑なハインリッヒではあったが、彼にならば任せてもいいか、とは思っている。


 ちなみにハインリッヒは、「アリーたんを愛でる会」に入会してからは娼館へは行っていない。

他の女を触った手でアリーたんに触れない!ということなのだが、ロッシュからお触り厳禁ですよ?と釘を刺されており、以前に抱きしめたことは当然バレている。


 アリエスは前世が男であったため、「男には男の事情があんだよ」と言って、ディメンションルームの入り口を街中に限られるが夜間は展開したままにしてくれているので、夜な夜な出掛けることは可能であるため、誰とは言わないがソソソ……っと夜遊びに行っている。


 ただし、変なものにかからないように良い所を選んで遊んでいるので問題ない。

もし、かかりでもしようものなら、クイユを再生回復させたクララ先生による治療が待っているので、それだけは絶対に避けたいのである。


 そうは言っても、アリエスと行動を共にするようになってからは、稼ぎが格段に増えているのに命の安全が保証されまくり、夜は何の心配もなく、夜番交代もなく眠れるので、以前ほどたぎるようなことはないのだ。

命の危機がそばにあって「子孫を残さねば!」という本能が薄れ、欲よりも愛を求めるようになりつつある。


 つまり、どういうことかと言うと、最近スクアーロとクララの雰囲気がピンク色なのだ。

常に護衛としてそばにいるため意識することがあったのだろうが、ここにコメットが加わったことによって、ちょっと擬似家族的な感じになったのである。


 クララには自身よりも年上だがクイユという息子がいるので、年下の愛を知らないコメットをもちろん可愛がった。

クララ自身も家族に愛されたことはなかったが、「こういう風にされたかったな」という思いはあったので、それをコメットにしていたのだ。


 それをそばで見ていたスクアーロは、「彼女クララとの間に子供が……」という思いがスッとぎり、それ以来、彼女を意識し始めたのが切っ掛けだった。


 クララがコメットに「お母さんと呼んでもいいですよー」とやったので、「お?じゃあ、俺が父さんな」とやってクララの反応を見て、内心ガッツポーズを決めたのは最近である。


 そんなパーティーメンバーたちを見てアリエスは、「春だなぁー」とつぶやき、それに対して「うなー」という返事があった。

ダレたアリエスを背に乗せてお散歩しているベアトリクスである。


 最近はキートがムーちゃんをお散歩させるので、ベアトリクスがくわえて強制お散歩させることも無くなったので、代わりにアリエスをお散歩に連れて行くことにしたのだ。


 そんな様子をそっと見守るロッシュは、パーティー内のピンク模様にアリエスの心が陰っていないか心配している。


 彼女が前世を思い出した切っ掛けとなった、母親の死。

それを伝えたられたアリエスことアンネリーゼの顔が絶望に染まり、そして、ぼんやりしていた瞳に光が灯った瞬間をロッシュは目にしていた。


 しかし、それと同時に何やら人ならざるものの気配も感じたのである。

アリエスは、前世で何故死んだのかを覚えていなかった。それが、そこに関係しているのではないかとロッシュは思っている。


 彼女の瞳に光が灯ったとき、ほんの一瞬ではあったがそこに恐怖があったのだ。

あれは、紛れもなく死に直面したものの恐怖だった。


 そのことからロッシュは、彼女が前世で事故や寿命ではない原因で世を去ったのだろうと判断し、その恐怖を何者かが封じたのではないかと思っている。


 願わくば、その恐怖が思い出されることがないことを祈るロッシュ。

母と子の触れ合いを間近で見て、それが揺り起こされるのではないかと危惧しているのだが、そんなことは起きない。というか、人ならざるものって何だ。神と言え、神と。


 そんなロッシュがアリエスの前世で起こったとある事件・・・・・を知るのは、この少し後のことであった。


 


 

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