第五話 血縁

 自分を「おじいちゃん」だと認識しているにもかかわらず、思ったような反応を返されなかったことにいぶかしんだゼノはアリエスに、「孫に何をしたんだ……?」と、睨みつけた。


 はい、終了のお知らせです。

キート君を含めてパーティー"ギベオン"のメンバーから敵認定をいただきました!おめでとう、おめでとう!


 ゼノという人物は、家族とは無償の愛を与え育むものだと言われて育ち、そして、我が子をそうやって育ててきたため、血縁というものは無条件で好意的な存在だと思っていた。

そのため、「おじいちゃんだよー!」と迎え入れたのに、「それで?」みたいな反応をされたのをアリエスのせいだと決めつけてしまったのだ。


 そんなゼノ叔父にスクアーロは、「偶然アリー様が買ってくれたから良かったものの、そうでなければ今頃どうなってたと思ってんだよ!?」とキレた。

獲物をぱっくんちょ!しようとしているほっぺちゃんホホジロザメのようである。今のところ彼の父親と叔父には見受けられないので母親譲りなのだろうか。


 それに対して先に反応したのはスクアーロの父親であるゼムだった。

「ゼノ、今のはお前が悪いよ。キート君がどういう状況にあったのか説明してもらったところじゃないか。聞いた話が事実なのであれば、キート君が家族や血縁者に良い印象を抱いていないのも頷けるよ」

「そうだな、兄さん……。すまない、つい感情的になってしまった」

「いや、どーでもいいわ。それで?ゾラはどこにいんだよ?」


 アリエスの機嫌を損ねたことに「しまった!」と思ったゼノは、彼女と交渉して孫を奴隷から解放しようにも、これではいくらふっかけられるか分かったものではないと考えてしまった。


 そんなことを考えたところで、アリエスはキートを売りはしない。

彼女は奴隷として奴隷を買い、奴隷として扱っているが、「もの」という認識を持っていないのだ。


 つまり、奴隷から解放したいから買わせてくれと言おうものなら、「血の繋がった孫をもの・・扱いしてんじゃねぇよ!!」と、ブチ切れただろう。

解放してほしければ、支払った金額分を働けばいいだけじゃないかとアリエスは思っているので、世間一般の奴隷に対しての認識とは少し違うのである。


 ただ、キートの場合は連れ去られて奴隷になったので、周りが「給料」を与えて早々に解放されるように動いているが。


 まごついているゼノをよそに、のんびりとしたゼムは、「ゾラなら、林業組合にいるはずだよ。そこの職員だからね」と、にこやかに返した。

それを聞いたアリエスは「んじゃ、次は林業組合な」と、用は済んだとばかりにサッサと馬車に乗り込んだので、他のメンバーもそれに伴って乗り込んでいった。


 それにゼノは慌てたが、店をあけるワケにもいかないので追いかけることも出来ずに、ただ見送るしかなかった。

その肩を優しく叩いたゼムは、「彼女のもとならば安心して預けておけるから大丈夫だよ。ゾムスクアーロもそうだったんだから」と言って店へと戻って行ったのだった。


 馬車の中からディメンションルームへと入ったアリエスにスクアーロは、「叔父のこと、すまない」と謝ったが、「スクアーロが謝ることじゃねぇから気にすんな。私、ああいう思い込みが激しくて視野の狭いヤツ嫌いなんだよ」と、苦々しく顔を歪めた。


 スクアーロは、叔父ゼノの顔が父親ゼムとそっくりであったため、すぐに分かっただけで、叔父自身のことはあまりよく知らなかったのである。

それを聞いたアリエスは、「スクアーロは母親似なのか?」と問うた。


 「ああ、俺は母親似だな。弟は父親似だと思うぜ?俺の記憶にある弟とキートが似てるってことは、そうなんだろ」

「そっかー。私の場合、どちら似とか、あんまり分かんないんだよなー」

アリエスアリー様の場合はほどよく全体的に似ておられますよ」


 ロッシュにそう言われたアリエスは、「それ、似てるうちに入んのかよ」とケラケラ笑ったのだった。

彼女をしんみりさせたくなかったというのもあるが、程よく全体的に似ているのは事実である。


 そうこうしているうちに林業組合へと着いたのだが、「何か面倒くさくなってきた」とアリーたんがボヤいたため、初めからキートをルシオに抱っこさせて移動することになった。

スクアーロではないのは、力加減が分からなくて子供を抱っこしたまま歩くのが怖いからという理由だ。


 ゾラを探そうと受付に行こうとしたところで、どう見てもキートの親父じゃね?という男性がこちらを凝視したまま固まっていた。

「おい、スクアーロ。アレがゾラか?」

「ゾラだな。おーい!ゾラ!!」


 スクアーロに大声で呼びかけられた上に肩をすられたゾラと思しき男性は、ハッと意識をこちらへと戻すと恐る恐る尋ねてきた。

「もしかして、ゾム……?ね、ねぇ、その子。ゾムの子だったりするのかい?もし、もしもだよ?違うなんてことがあるのなら、その……」

「ごちゃごちゃ、うっせぇわ。コイツは、紛れもなくお前の子だよ」


 ヒョロっとした背の高い男が身体を縮こませてチラチラとモゾモゾとしているため、鬱陶しくなったアリエスがズバンっ!と言い放ったのだが、これでは彼女が、「この子、あなたの子よ」とやりにきた母親のようである。


 しかし、アリエスが母親でないことをゾラは分かっているようで、「どう見ても僕の子なのに、彼女は『違う、あなたの子なわけがない、勝手なこと言わないで』と言って、結局、どこかへ行ってしまって……。ああ……、大きくなったんだねぇ」と、涙を流し始めてしまった。


 突然始まった「あなたの子よ」、「大きくなって……」という劇に周囲は、良かったね、幸せにね、などといった雰囲気になりつつある。


 父親が自分の存在を知っていたことにショックを受けると共に、少し嬉しくも思ったキートは、複雑な表情を隠すようにルシオの胸に顔をうずめてしまったのだった。

 

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