第七話 功績

 47歳の王妃が出産するという大騒動を終えたことで、王宮内は張り詰めた糸が緩んだようにのんびりとした雰囲気になりつつあった。


 だが、王宮内の雰囲気とは逆に、城下町は王家から王女の誕生を祝う振る舞い酒が配られ、お祭り騒ぎだった。


 新たな王女が誕生したのは喜ばしい限りなのだが、その王女を産んだのが御歳47歳の王妃であることに国民は首を傾げた。

もしかして、表に出せない人が産んだので王妃が産んだことにしたのかと思わなくもなかったが、歳を考えれば無理がある話なので、ということは本当に王妃が産んだのか?と、色々な憶測が飛び交った。


 しかし、国民からすれば国王の第29子を誰が産んだのか、そんなことは関係なかった。タダで酒が飲めれば、それでいいのである。


 見目麗しい優秀な王太子もいるし、その王太子の妻である王太子妃が産んだ王子もいるため、国の将来は安泰なのだ。


 王家に子供が生まれると振る舞い酒が配られるのだが、それは後宮に住まうことを許された場合にのみ行われることなので、離れ行きになった場合は生まれたことすら公表されなかったりするのだ。

なので、今回生まれた王女が第29子と発表されたことで、「いつの間にそんなに子供が出来てたの!?」と、ビックリした人も多かった。


 王妃の出産があったため、彼女の身体が落ち着いてから改めて聖霊マリーナ・ブリリアント様のお披露目会が催されることになったのだが、それにアリエスが参加することはなく、既にお別れを済ませて旅立っている。


 聖霊マリーナ・ブリリアント様は、こんな超絶美形と誰はばかることなく一緒にいて良いなんて、とモザイク処理が必要になりそうなほど笑み崩れていたので、ジメっとしたお別れにはならなかった。


 顔が超絶美形な国王に似たであろう「末っ子王女たん」には、アリエスがミストとブラッディ・ライアンに頼んで、サイズ調整機能付きの仮面を作ってもらった。

好きな装飾を施せるようにプレーンタイプの仮面と、ベネチアンマスクのようなド派手な仮面、うさたん、ねこたん、狐さん、と気分や用途に合わせて色々と用意した。


 「うさたん、ねこたん」は子供向けの可愛らしい見た目で、「狐さん」はお稲荷さん風の狐面なのだが、仮面のラインナップにはどこぞの部族かシャーマンが身につけていそうな不気味なものまである。

シャーマン風のものはアリエスの趣味なのだが、これを見た国王父ちゃんは、「これ、いいな!!」と言って喜んでいたので、やはり似た者親子なのだろう。


 ミストたちが仮面を作っている間、大爺様と聖霊マリーナ・ブリリアント様、クララとで医療談議が行われ、ハルルエスタート王国の医療が50年は進んだのではないかと言われるほどの結果となった。

この世界特有の病に関しては未だ原因や治療法が不明なものはあるのだが、アリエスが患者を万物鑑定することによって対処療法が見つかったものもあった。


 そんな様々な功績をあげたアリエスであったが、国王父ちゃんから何か褒美はいるかと聞かれて、とある品物を所望したところ、扱いに困っている品だったので好きなだけ持っていけと言われた。

その品物は、とある国から輸出されているのだが、取引は国家間でしかしておらず、冒険者であるアリエスでは手に入れられないものだったのだ。


 何に使うものかといえば、女体化(完全版)に必要な素材である。

まだ材料は揃っていないのだが、完全版のレシピがあることは国王父ちゃんに伝えてあるので、そのうち国王父ちゃん経由で注文が入るかもしれない。


 褒美が持て余している素材だけというのも格好がつかないので、王宮に出入りする許可と「私の後ろ盾は国王ですよ!」という手形を与えられた。

いつでも父ちゃんに会いにおいで!という王宮の通行証と、国王の娘だ、何か文句あんのか?という威圧感満載な手形である。


 功績でもって王族に入るという話もあったのだが、冒険者として自由にやりたい放題やっているアリエスにとっては、魅力的というより足枷になりそうな褒美だったため、それは辞退した。


 しかし、自身の血をわけた子が欲しくなったら、王族の籍に一旦入って結婚してからならば子供をもうけて良いと許可は出ているため、いつでも施された不妊のための封印を王宮にて解くことが出来るようになった。


 アリエスが出涸らしではなかったため、それが判明した時点で王族入りしても良さそうなものなのだが、王家が所持属性を見誤りそれを認めたというのは外聞がちょっとよろしくないため、彼女のあげた功績によって王族入りを許された、としたのである。したのだが、王族入りを望まなかったので、どちらでもいい話になってしまったが。


 それにアリエスが不妊のための封印を解くことは今のところない。それは月のものによる不快感が無理無理の無理だからなのだが、それをあえて口にしないのは、クイユと夫婦となって子供をもうけたいクリステールを思ってのことだ。


 姿は女体化(劣化版)によって女性にはなったが、子供を産める身体にはまだなっていない。


 だが、それもあと少しの辛抱だろう。

着実に材料は揃っていっているのだから。


 ゴールドランクとなり国境をまたげるようになったので、次なる素材を求めてアリエスたちパーティー"ギベオン"は、ハルルエスタート王国をあとにしたのだった。

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