第四話  着いたよー

 ファンシーな色をした軽自動車サイズのオオサンショウウオが、ポスポスと早歩きしている異様な光景を目にした、ハルルエスタート王国王都門前にて順番待ちをしていた面々が、ちょっと後ずさりしたけれど、それ以外にはこれといって問題はなく、しばらくしてパーティー"ギベオン"の番になった。


 ゴールドランクの冒険者は指名依頼が入るようになり、貴族とも関わることが出てくるため、冒険者ギルドに所属していない者でも側仕えとして登録できるようになる。

その登録をしてあると、冒険者ではないロッシュとテレーゼも一緒に冒険者用の門から出入りできるようになるのだ。もちろんアリエスの側仕えとして登録している。


 門にて身分証を確認していた門兵が、「次の者!」と声を張り上げて、視線を後続の者に向けた途端に目を見開いて驚愕した。


 オオサンショウウオのドアップである。

「んなっ!?」と驚きの声を上げた門兵に対してアリエスは、イタズラが成功したといわんばかりの顔をして「にしししっ!20歳になるまでにゴールドランクになったぞ!!」と笑ったのだった。


 冒険者用の門にて身分証の確認をしていた門兵は、アリエスが冒険者となってお外でヒャッハーし出してからの顔見知りである。

そのため、彼女が成人して王都を出ることになったときも、「国内にいればまた会うことは可能だろう。しかし、国外に出てしまえば再会は君が20歳を過ぎてからになるだろうな。俺が退職するまでに一度は顔を見せろよ?」と、寂しげではあったが、温かく送り出してくれたのだ。


 ちなみに、アリエスが王都から旅立ったとき、その門兵はまだ28歳だったのだが、門兵が退職を促されるのはだいたい40歳くらいなので、彼女が何の能力も仲間もいなければ再会はギリギリになった可能性はある。

門兵は、何かあったときに瞬時に行動に移し、ときには全力ダッシュをしなければならないため、かなり体力が必要だったりするので、歳がいったり体力が落ちたりすると肩を叩かれるのだ。


 イタズラっぽい笑いが聞こえた方へ門兵が視線を向けた先には、ゴールドランクとなった証の冒険者タグをプラプラとつまんで振るアリエスの姿があった。

それを目にした門兵は、驚きと元気な姿をまた見られた喜びと、イタズラされた困った感情とで複雑なことになっていたが、仕事中だと意識を切り替えた。


 「こら。門兵にイタズラするんじゃない。よく無事で戻ったな、おかえり。まあ、ロッシュさんが一緒で何かあるとは思っていなかったが、それにしても早いな。どれ、ちゃんとゴールドランクになったか身分証を見せてくれるか」

「へへへ、ただいまっ!どーぞ!」


 にっこり笑顔で冒険者タグを見せるアリエスに門兵は、真剣な顔をして確認している。

知り合いだからと惰性で確認したりせず、きちんと仕事をするこの門兵をアリエスは気に入っており、見かけると、「皆で、どーぞ!」と言ってお菓子を渡すこともあるくらいには懐いている。

 そして、今回は長旅の間に買い込んだお菓子をでっかい箱に入れてあるので、後で門の詰所に届けるつもりなのだ。


 確認作業を終えたのでアリエスたちパーティー"ギベオン"は、二手に分かれることにした。

聖霊マリーナ・ブリリアント様を国王父ちゃんのところへ届けるのと王妃の診察がある王宮組とそっちへ行かない待機組である。


 王宮へ行くのはアリエス、ロッシュ、クララ、ミスト、ブラッディ・ライアン、それ以外は冒険者ギルドにて仕事をするか休みにするかは各自に任せてある。

ミストとブラッディ・ライアンは聖霊マリーナ・ブリリアント様の霊廟を仕上げるために一緒に行かなければならないのだが、直前までミストは嫌がっていた。「王宮へ上がるなんて無理だよ!!」と今も顔色が悪いので、ブラッディ・ライアンがなだめすかしている。どっちがパパなのか分からなくなっているぞ。


 クララが医術書などの知識を得た治療なのに対し、聖霊マリーナ・ブリリアント様は聖女という名の力業ちからわざである。

しかし、だからといって聖霊マリーナ・ブリリアント様がお勉強するかといえば、しないのである。本人曰く、「死んでまで勉強なんてしないもん!!」だそうな。過去に何があったのやら。


 ということで、聖霊マリーナ・ブリリアント様に加えてパーティー"ギベオン"の回復役こと女医のクララ先生も一緒に行くことになったのだ。

診察は万物鑑定を持つアリーたんがするので何の問題もないが、鑑定するにあたって父ちゃんからは事前に許可を得ている。色々と見えちゃうから仕方がないのだが、得た情報は治療にのみ使用し、父ちゃん以外には決して洩らさないと約束している。


 アマデオがひく馬車で王宮の出入口へとやって来たのだが、そこには縁側とお茶が似合いそうなおじいちゃんがちょんっと立っていた。その周囲には彼に声を掛けようかどうしようか手をだしたり引っ込めたりと、せわしない動きをしている人が複数いて、何だかわちゃわちゃしていた。


 そんな一団に臆することなくロッシュは声を掛けた。

「お久しぶりにございます、大爺様」

「おう、おう、ロッシュや。久しぶりだのぅ。元気にしておったかのぅ?」

「はい、おかげさまで元気にしておりますよ」

「そうか、そうか。して、そこにおるのは孫娘かのぅ?」

「ええ、そうでございます。アンネリーゼ様改め、アリエス様にございます」

「そうか、アリエスとな。はじめましてだのぅ、じぃじと呼んでええんじゃよ」

「はじめまして、爺ちゃん。アリエスといいます」


 照れっとしたアリエスに相好を崩す大爺様の後ろから、ぬっ……と影が差したかと思えば、神が降臨したかの如く目に痛い超絶美形が現れた。父ちゃんである。


 父ちゃんは、「リゼ、来たか」と言って即座にアリエスを抱き上げたのだが、父ちゃんから「リゼ」と呼ばれていることは事前にロッシュから聞いていたので訂正したりはしない。


 アリエスはそのまま父ちゃんに抱っこされた状態で王宮内を進んで行くのだが、「ほへぇー」としているだけで照れてもいなければ緊張もしていない。

しかし、いきなり現れた超絶美形にミストは白目である。かわいそうに。


 そして、父ちゃんに連れられてやって来た先にはお菓子の家が。

そう、聖霊マリーナ・ブリリアント様の霊廟である。

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