第三話 急ぐ
ヤオツァーオを取り込んで薬草の知識を持つ者が増えたこともあり、ハルルエスタート王国では薬草の栽培にも成功し、それを大国の財力を使って拡大したおかげで、平民の一般家庭であれば配置薬程度ではあるが、薬類を常備しておけるまでになった。
ある程度国内には行き渡ったので現在は、国外に向けて販路を広げて行っており、益々ハルルエスタート王国はその存在を大きくしていったのだが、如何せんこの王家の面々は顔面偏差値が高過ぎることもあって、にこりと微笑まれれば悪い気はしないため、思ったほどの軋轢は生じていない。
ヤオツァーオは、所持していた国土面積と持っていた手札の重要性から公爵の位を賜わっており、アルフォンソ王太子の正妻である王太子妃はこのヤオツァーオ公爵家から嫁いできている。
そのため、今回の王妃懐妊の件にて調薬でのバックアップをヤオツァーオ公爵家が全面的に行っているのだが、さすがに宮廷医も宮廷薬師もこれほどまでの高齢出産は手に負えないと、アリエスの到着を今か今かと待ちわびているのだ。
それを聞いたアリエスは、不思議そうな顔をしてロッシュを見上げると、首を傾げた。ロッシュが内心、「はぅあ!?」となるから、やめなさい。
ロッシュは、こほんっとわざとらしく咳をすると、以前にアリエスから預かって
ロッシュは懐かしそうな顔をしながら、「宮廷医の権威である大爺様も大変楽しみにされておられるそうです」と語り、大爺様が誰なのかを教えてくれた。
「大爺様とは、先々代国王陛下の弟君様でございまして、家系図に照らし合わせますと、わたくしめの叔父上様となります。御歳80歳になられますよ」
「てことは、爺ちゃんでいいのかな?」
「ええ、大丈夫でございますよ。とても気さくなお方ですので、お喜びになられることでしょう」
「それにしても80って長生きだなぁ。寿命って平民で50〜60歳で、お金持ちで生活に気をつけてる人でも70歳がいいところだろ?えーと、確か八十歳って、
この世界に還暦だの喜寿などといった節目ごとのお祝いはないのだが、アリエスにはそんなの関係ねぇのである。
ということでアリーたんは、大爺様へお祝いの品として、ミストとブラッディ・ライアンへ仕込み杖ならぬ仕込み傘を提案して作ってもらった。
傘を広げれば障壁に、傘の先端にはスイッチひとつでシャキン!と鋭利な刃物が、そして、魔法を補助する魔法杖の役割も持たせた。
もちろん普通に傘としても使えるし、とても丈夫に作ってもらったので杖としてもイケる。アリーたんは2way仕様とか3way仕様とか、けっこう好きなのである。
寒さって、なぁに?といった感じで街道を爆走するアマデオ兄貴は、馬車が空っぽで御者席にこちらも寒さが何か分かっていないミロワールしか乗っていないため、更にスピードアップしているが、今回は何も踏んでいないし、蹴っていない。
それに、他の馬車や人とすれ違うときは、きちんとスピードを落とす配慮はしている。配慮であって、それが相手にとって大丈夫なスピードであるかは別だったりするのだが、それを指摘するものはいない。
どれだけ寒かろうと何の問題もない精霊馬のアマデオだが、さすがにノンストップで走り続けると集中力が切れて何か蹴り飛ばす可能性があるので、ちょこっと休憩を入れている。
休憩中のおやつは、
どういう組み合わせなんだとツッコミを入れたいところだが、気に入ったのだから仕方がないのである。
どこにも寄らず、ひたすらハルルエスタート王国を目指しているのは、妊娠中の王妃が心配だからなのだ。
宮廷医と宮廷薬師がついているため高血圧や糖尿などのリスクは減るだろうが、何かあってからでは遅い。
それに、
そして、ハルルエスタート王国王都へ着くちょっと手前でディメンションルームから出て、馬車にはアリエス、ロッシュ、テレーゼが乗り、連結した箱に非戦闘員であるクララ、アドリア、ミスト、カミロと護衛にハンナ、ルシオ、スクアーロが乗り、御者席にはチェーロとハインリッヒが座り、サスケを頭に乗せたベアトリクスにはクイユとクリステールが乗り、軽自動車サイズのジャオにバルトとカルラが乗って先頭を走っている。
ただのネコ科の獣である胴長ムーちゃんは、ディメンションルーム内にてブラッディ・ライアンとミロワール、聖霊マリーナ・ブリリアント様とお留守番である。
アリエスがおやつをあげては襟巻きにしているので、ムーちゃんがちょっぴりコロっとしてきている。
たまには散歩させてやれ。ディメンションルーム内に芝生広場があるだろう。もちょんっとしたお腹が首にあたるのが気持ちいいのは分かるが、適切な体重をキープしないのは、ダメ飼い主なんだぞ。
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