第二話 ハイペース
ハルルエスタート王国の王太子であるアルフォンソ兄貴に推薦状を書いてもらうまでに、ある程度は実績を貯めていたので、アリエスはそれほどの期間を要さずにゴールドランクになれたのだが、それでも半年以上は掛かっている。
とは言うものの、かなりのハイペースで新人をゴールドランクに上げたのは、とても凄いことなのだ。
そんなスゴいアリーたん達はというと、どちゃくそ寒いフユルフルール王国を真冬になってから横断しようとしている。
ルナラリア王国で春になるのを待てば良いものを何故こんな寒い時期に突破しようとしているかといえば、緊急要請が入ったからなのだ。
その緊急要請とは、父ちゃんが冒険者ギルドを通した「アリエスをリーダーとしたパーティー"ギベオン"に対する指名依頼」である。
初めての指名依頼が父ちゃんからだったことにキリリと表情を引き締めてはいるものの、ちょっぴり嬉しそうにテレテレしているのが隠せていなかったアリーたんなのだが、依頼内容を聞いて顔を青くした。
その内容を要約すると、「
王妃は、父ちゃんの王太子時代からの婚約者だったので、高齢出産になる。
初産ではないだけマシではあるが、それでも王妃は国王である父ちゃんと同い年なので現在47歳なのだ。
懐妊が判明した頃は王宮内がひっくり返るほどの大騒動になったものだが、今は落ち着いており、出産に向けて準備が進められている。
王妃は、息子である王太子には跡継ぎもいるし、孫娘の王女も婚約が決まったこともあり、最後の大仕事として覚悟は出来ていると腹を括ったのだが、そんな覚悟なんぞ鼻で笑うようにして国王はアリエスを呼んだのである。
大事をとってベッドでゆるりと休んでいる王妃に対して国王は、「安心しろ。お前を老衰以外で死なせたりしねぇよ。約束したろ?」と、ニヤリと笑った。
王太子時代から暴れ回って国土を広げてきたこの国王は、「好き勝手する代わりに、必ずお前を老衰以外で死なせたりしない」と一方的に約束しており、それを今のところ守ってはいる。
戦火を広げ敗れることがあれば王太子妃である彼女が真っ先に人質として差し出される可能性もあったため、
だからこそ、こんな歳の王妃を妊娠させちゃったし、万全を期すためにアリエスを呼んだのである。
何も、「初☆指名依頼!」のためだけにやらかしたわけではない。たぶん。
ハルルエスタート王国へと向かう道中のフユルフルール王国にてアリエスは、ロッシュに色々と尋ねていた。
彼はにこりと笑うと、アリエスに分かりやすいように色々な出来事や小話を披露していくのだった。
「陛下は、王太子殿下だった頃にご婚約者様であられた王妃様にお約束なされたのでございます。『老衰以外で死なせない』と。ですので、調薬で盛んなヤオツァーオを取り込むべく国土を広げました」
「あれ?約束が先なの?」
「いえ、ヤオツァーオは北西にあり、西から南西方面にかけて、つまり、帝国方面では既に戦火は広がっておりました。それを北にも広げたのでございます」
「いや、終わってからやろうよ。ていうか、何で争いに持っていく!?普通に交易すれば良いだろ!?」
アリエスのツッコミは、ごもっともなのだが、ヤオツァーオの間には他の細々とした国や自治区などもあり、交易を行うのが面倒くさ……、いや大変だったのだ。
だから、父ちゃんは手っ取り早く「逆らうなら、かかってこいやぁ!!」と声を張り上げて、「いや、ムチャ言うなや」という反応が返ってきたため、北西方面ではほとんど戦にはならなかった。
帝国とのドンパチを見ていれば誰もやりたくはないだろう。
ハルルエスタート王国側は、怪我しようが何しようが、息さえしていれば回復させられて前線に復帰する兵士たちに加えて、先陣を切って突っ込む超絶美形王太子は怪我をしたとしても出血する前に自分で治してしまう。「きっと、人間じゃねぇんだよ」と、未だに思っていたりする人もいるのだ。
ここまでの話をロッシュから聞かされたアリエスは、何故、帝国がヤオツァーオに手を出さなかったのか不思議に思い尋ねたところ、「あんな草しか取り柄のない小国、いつでも落とせると後回しにしたようですよ?」と、悪戯げに微笑んだ。
その微笑みがスコンっと当たったテレーゼは鼻を押さえている。鼻血がでないようにクララがそっと治療してくれているので心配ないが、不意打ちの流れ弾は避けられなかったのだ。
ヤオツァーオを含む周辺をハルルエスタート王国へと吸収したが、抵抗らしい抵抗もなかったため、国や自治区の境界線は、そのまま領地の境界線となり、国主もそのまま領主となったし、国名も領地名として残された。そのままなのは、新たに何かするのが面倒だったからだろう。
それに、自分たちが攻め込まれたりすれば、大国ハルルエスタート王国が出張ってきてくれる上に、収める税金も不条理な金額ではなかったため、不満が出なかったどころか、あの超絶美形王太子に直接会うことが可能な位置に来られたので、ちょっと喜んでいたくらいなのだ。
友好の証として取り込んだ国々が姫を献上してきたために、
そして、そこに、新たにもう一人加わることになるが、恐らく、これが最後の子、末っ子になることだろう。たぶん、きっと。
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