10 誕生
第一話 グンっ!
頭に仁王立ちした牙精霊のファングを乗せたアリエスは、同じように腰に手を当てながら仁王立ちして得意気な顔をしている。
それを微笑ましく見つめるパーティー"ギベオン"の面々。
この度、メンバー全員がゴールドランク以上になったため、やっとハルルエスタート王国へと行けるようになったのである。
ハインリッヒから手っ取り早くゴールドランクに上がるために色々と知恵を貰いながらダンジョンを周回したり、指定された素材を納品したりした結果、ゴールドランク昇格試験まで辿り着き、その際に持っていた推薦状を提出し、残るは実技試験と筆記試験のみになった。
推薦状がない場合は、貴族からの依頼をいくつか受けて3件以上の合格判定を貰わなければならないのだが、実は、ここでダンジョン都市ドリミアの領主が邪魔をしようとしていたのだ。
しかし、邪魔をしようにも既に全員分の推薦状を持っていたため妨害できなかったのである。
それを領主に仕えている執事から報告を受けていたロッシュだったが、推薦状があるので心配には及ばないと、テレーゼの手作り菓子と共に返事を送っていた。
報告をしてくれた執事は、テレーゼとマテウスの従兄であり、テレーゼを妹のように可愛がっているシスコンなため、彼女の手作り菓子にデレデレと相好を崩したのだった。
実技試験では、「クラン"ロシナンテ"を引っ掻き回した挙句に上位ランクの冒険者と精霊馬まで引き抜いた悪女アリエスに目に物を見せてやる!」という勘違い&私情入りまくりの試験が行われたのだが、まあ……、アリーたんだからな。仕方がない。ハインリッヒおじちゃんが止めに入らなければ、ぽんぽんに風穴空いちゃっただろうな。
試験が開始され、
ニタッと笑いながら氷魔法で試験官を瞬間冷凍した挙句に、身体強化と雷魔法でブーストを掛けて光の如くダッシュしたアリーたんは、試験用のモーニングスターに魔力を纏わせてフルスイングしたのである。ヤル気満々である。試験なのを忘れていたのではないだろうか。
あれを喰らえば風穴どころか相手は爆発四散しただろうな。
何せ、瞬時に止めに入ったハインリッヒがギリギリまで身体強化して盾でそれを受けたのだが、モーニングスターが鉄クズと化し、金属の盾が木っ端微塵に吹き飛び、彼の腕は複雑骨折していたのだから。
いつ如何なるときでも対処できるようにしていたクララによって瞬時に治療されたので、ハインリッヒが骨折したことにアリエスは気付くことはなかったのだが、彼はそれで良いらしくクララにサムズアップしていた。
凍ったままにはしておけないだろうとアリーたんは親切にも、冷凍試験官を炎魔法で
いつか見た光景に懐かしくなったハインリッヒだったが、「相手を見て煽れ」と言ったことにも苦笑したのだった。
あのゴールドランクのおじさんと下っ端冒険者は元気にしているだろうか。
初っ端の試験でアリエスのやらかし具合を見た他の試験官は、それ以降のメンバーの試験をきちんとやった。「ちゃんとやらねぇと分かってんだろうな?」という瞳孔が開いた笑顔のアリーたんが竜骨モーニングスターを片手に試験場の外から見ているのだから、下手なことは出来なかったのもあるのだが、何より一番堪えたのは、ロッシュが絶対零度な視線を寄越してくることだった。
その態度でロッシュがどれだけアリエスを大事にしているか覚ったのだが、遅過ぎである。
冒険者ギルドの受付や買取カウンターにいる職員はパーティー"ギベオン"のメンバーがアリエスを大事にしているのを分かってはいたのだが、クラン"ロシナンテ"からメンバーと精霊馬を引き抜いたと思い込んでいた上層部が暴走したのだった。
しかし、このことを試験場の外から見ていた他の冒険者たちは、何とも言えない気分になっていた。
というのも、アリエスがダンジョンにて回復役とはいえ奴隷に護衛を置いて先陣を切って突っ込んで行くのを見て知っているし、彼女はメンバーに無理なことはさせない。休みの日をきちんと
しかも、クラン"ロシナンテ" にいた頃のハインリッヒは、元からソロだったとはいえ、いつも一人で仕事をしていたのだが、アリエスのパーティーに入ってからはパーティーで活動をしている。
つまり、パーティーでも活動が出来るのに、一人で仕事をしていた、もしくは、させられていたことを思えば、クラン"ロシナンテ"での扱いが分かってしまうというものである。
そこへ来て冒険者ギルドの試験官が見当違いのことを言ってアリエスを煽った上に、彼女に爆発四散させられそうになって、急に態度を変えたように見えたのだから、他の冒険者たちが「何だかなぁ〜」と思っても仕方がないことだろう。
そんなこともあったが、無事に試験を終えて、晴れて全員がゴールドランク以上になったのだった。
ちなみに筆記試験は、冒険者ギルドで受付をしている職員が担当したので何の問題もなかったのだが、試験を受けた全員が素晴らしく綺麗な字を書いていたため感嘆の声をもらしていた。
そりゃ綺麗な字でしょうよ。
お買い物アプリで購入したドリルで練習していたのだから当然の結果である。
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