閑話 ソレルエスターテ帝国

 ここは、ソレルエスターテ帝国のとある場所の一室。

そこには、頭を掻きむしり地団駄を踏む男と、それを冷たく見つめる男、二人の姿があった。


 地団駄を踏んでいた男は忌々しげに、「何で、結果を得られないんだっ!!」と叫び、結果を得られなかったのは提供した情報を信じて即座に動かなかったお前らが悪いと、目の前にいる男を罵った。


 それを受けて罵られた男は、背筋が凍るような冷たさを含んだ声で静かに答えた。

「我々は、貴殿からもたらされた情報をもとに、即座に動いたのですがねぇ?貴殿から我々へ伝わるのが遅かったのでは?ソレルエスターテ帝国内で起きたことに関しては結果を得られていたのですから、貴殿のスキルは狭い範囲でしか通用しない、そういうことなのではありませんか?」


 狭い範囲でしか通用しないと言われたことで、地団駄を踏んでいた男は更に声を荒げ、「先見さきみのスキルでそれがいつ頃に起きるのかも言っただろう!!だったら、それに間に合うように行動していれば結果を得られたんじゃないのか!?俺のせいにするな、この無能共がっ!!」と、口汚く罵り、そばにあった椅子を蹴り飛ばした。


 その様子を冷めた目で見ていた男は、「また明日、訪ねます」と言い残し去っていった。

室内に残された男は、蹴り飛ばした椅子はそのままに、そばに置かれていたベッドへと荒々しく腰を下ろした。


 この男は「先見さきみ」という、未来をちょこっと見られるスキルを持っており、それをもとに周りに上手く取り入り、やがてソレルエスターテ帝国の中枢にいる人物と繋ぎが取れたのである。


 しかし、ソレルエスターテ帝国内でのことに関しては上手くいっていたが、それが他国のことになると、途端にその結果は外れ出した。


 他国となると距離がある分、国内よりかは対処に要する時間が多く必要となることは先程去っていった男も承知しているので、「先見さきみ」で分かっているおおよその日にちに間に合うように動いていた。

それにもかかわらず他国の件に関しては上手くいかなかったのだ。


 しかし、「先見さきみ」のスキルは狭い範囲でしか通用しないとか、そういう話ではないのだ。

起こるだろう未来をちょこっと見られるスキルなので、通常はそれに目掛けて行動すれば間に合っていたはずなのである。


 それならば何故、こうなったかといえば、スキルレベルの違いが関係してくる。


 この男が持っている「先見さきみ」は現在Lv3なのだが、元々はLv6まであった。

つまり、段々とスキルレベルが下がっていっているのだ。


 スキルは使わなければ徐々にレベルが下がっていくのだが、頻繁に使っているはずの「先見さきみ」が何故下がるのかといえば、失敗が続いたためである。


 「先見さきみ」を使って見た未来を変えようと動き、それが成功すれば経験値を得られ、スキルレベルが上がっていくのだが、失敗すれば経験値を取り上げられることになるので、スキルレベルは下がってしまうのだ。


 未来を見通せるスキルが何のリスクも無しに使えたりはしないのである。


 そして、何故こうも失敗したのかといえば、それはアリーたんが関わっているからなのだ。

彼女の持つスキル「幸運」は、現在Lv7なのだが、どうやってレベルが上がっているのかといえば、幸運スキルによって引き寄せられた事象を上手く掴んで誰かを幸せ・・にしているからである。


 小さい幸運から大きな幸運まで様々なことを流されるままに掴んでいるのだが、彼女は自分のやりたいようにやっているだけなので、そのおかげで誰かが幸せになっていることにあまり気付いていない。


 ソレルエスターテ帝国が有利になるように「先見さきみ」を使っていた男は、フユルフルール王国にてアルケミュラント家の継承に必要なブラッディアイアンを入手できるように助言したが、持っているはずの商人はアリエスが縁台こと購入したため去っており、空振り。


 ルナラリア王国にて、第一王子が床にせっているのは、母親である王妃の実家が絡んでいるというネタも、王子の容態が快方に向かったこととその実家の当主が代替わりしたために何の成果も得られないどころか、目の上のタンコブであるハルルエスタート王国から王女が嫁いでいく結果に。


 オークションにて「聖なる遺物」が出品されることも伝えていたのだが、どのオークションに出されるかまでは分からず、それらしき物やそれに関連したものを張っていたが結局手に入れることは出来なかった。

何故かといえば、その「聖なる遺物」が包まれていた布が外され、ミイラとしてガラクタ市に出品されたしまったからである。


 紐付きペットの件も落札させて後からそれを指摘し、恩を売るはずが、犯人の目星もついていないのに指摘したことで逆に怪しまれる結果となり、そうこうしているうちにハルルエスタート王国に犯人と手柄を持っていかれてしまったのである。


 上手くいかないことに腹を立てた男は頭を掻きむしりながら、「クソっ!青野島がいれば少しは憂さ晴らしが出来たのに!!」と悪態をついていた。


 そう、コイツが転生者特典のガチャで青野島勝次郎ことドッペルラージュのミロワールを売り払った転生者なのである。


 転生者特典のガチャを回して「先見さきみ」のスキルを得たこの男は、それを活かして順調に人生を歩んでいたのだが、あまりにも上手くいっていたため、野心を抱いてしまった。


 そして、今までに得た伝手を使いソレルエスターテ帝国の中枢にいる人物に繋ぎを取ったまでは良かったのだが、そこに行き着くまでに何度か襲われたのだ。

この男は、「やはりレアスキルを持っていると狙われるな」と、困ったという割には嬉しそうにしていた。自分に酔っているだけである。


 繋ぎを取れた相手が、「有用なスキルを持っていることとは関係なく、我が国に尽力してくださった貴殿を保護させてほしい」と、言ったきたため、守ってくれるならありがたいと、それを了承したことで、今いるこの隠れ家にて生活をしているのだが、実際にこの男を襲うように指示したのは繋ぎを取った相手、つまり先程去っていった男なのだ。


 この男を飼い殺しにするために仕込んだことであり、監視も常についており、逃げ出すことは不可能である。


 しかし、失敗が続いたこととスキルレベルが下がっていることを踏まえて、今後この男がどうなるのかは分からない。


 下手に野心など持たずに冒険者か、それか未来をちょこっと見られるのだから占い師にでもなっていれば、楽しい人生を送れたかもしれないが、後の祭りである。

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