第四話 オークション一件目

 商業都市ヴェネリアの首都デナロンゲルトに着いたアリエスたちは、門でオークション開催リストという分厚い冊子を受け取った。

この冊子は、貴族用、平民用、冒険者用、全般と4種類あり、全般は書いて字のごとく開催が決定しているオークション全てが載っている。


 アリエスは、父ちゃんから紹介状を貰っているため、門でその紹介状を見せることによって「全般」の冊子を入手することが出来たのである。


 オークションは余程のことがない限り開催日の半年前には予定が決まり、出品される品は開催される1ヶ月前までにはオークション会場に搬入されて、不備や問題がないかの確認作業が行われる。

そして、開催日の1週間前から出品物の閲覧が可能になるので、実際に入札に参加するか、いくらまでの予算を割くかをそこで決める者が多い。

 

 小規模なオークションだと閲覧期間なんぞ設けずに「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、買え!!」といった感じだ。


 オークションが開催されている都市だけあって貴族の出入りも多く、割と手頃な値段でそこそこキレイな宿もあるのだが、アリエスはこれといった目的もなくオークションで遊ぶつもりでいるので、宿ではなく長期滞在用の一軒家を借りたのだが、滞在費用と小遣いはなんと父ちゃんからの仕送りである。


 父ちゃんからロッシュ経由で紹介状とあわせて小遣いなどが届いたことを知ったアリーたんなのだが、彼女は「小遣い」の意味をイマイチ理解していない。

送られてきたお金の範囲内で何かを購入して、それを父ちゃんに届ければ良いという判断は正しいのだが、国王陛下父ちゃんは、「買い取ってやるから、送れ」と言ったのである。


 だが、アリーたんは、「お、さすが父ちゃん、先払いかよ。んじゃ、これでいいもん買って、残った金は品物と一緒に父ちゃんへ送り返せばいいんだな!」と思っている。

違うからな?それ、勘違いだからな?全部、アリーたんの小遣いで、父ちゃんに送った品はあちらで精査され、適正価格で計算された後、改めてその合計金額が送られてくるんだからな?ロッシュ、ちゃんと説明してやれよ?斜め方向に解釈してるからな?


 雰囲気に慣れるためにテキトーにアリエスが選んだオークションは、到着した翌日に開催される小規模なもので、入場規制のないもの、つまり貴族だろうが平民だろうが関係なく誰でも参加できるものだった。


 そのオークションの開催名が、「ガラクタ市」というもので、なんだかとてもワクワクするネーミングだとアリーたんが食いついたのである。


 ガラクタ市なので、何が出品されるのか全く書かれていなかったことにも興味を引かれ、さっそく会場へとやって来たアリエスは、執事のロッシュと護衛にクイユを伴っているのだが、アリーたんは男装している。


 ミストがブラッディ・ライアンから習い作ってくれたもので、防具の胸当てに小さいものではあるが空間拡張が施されており、アリーたんのお胸がその中にすっぽりと入るので、外見上はツルペタに見えるのだ。

声は変声スキルによりドスの効いた声から甘めのイケメンボイス、少年のような声まで色々出せるようになったので、お胸さえどうにかなれば男装はバッチリなのである。


 そんな男装アリエスは、ローブのフードをかぶっているので素顔は分からないのだが、側に控えている美形おじ様執事のロッシュと超イケメン護衛クイユのせいで、めっちゃ目立っている。

クイユに至ってはイケメンな上に髪と瞳の色が濃いため更に目立っているのだが、これほどの護衛を従えているのならばお貴族様のお忍びに違いないと、勝手に解釈してくれて誰も寄って来ないので、それはそれで良かったのかもしれない。


 さて、オークションが始まり、本当にガラクタ感満載な「誰が買うねん……」といったものが多数なのだが、そこそこ売れている。


 例えば、穴の空いた花瓶が出品されたのだが、その空いた場所と空き方が絶妙な感じで味を出しており、「アリと言えばアリ寄りかな?実用性はないけど」といった感じである。


 そして、次々に出品されては落札されたり流れたりを繰り返して中盤に差し掛かった辺りで、ミイラが出品された。


 そのミイラは女性で、遺跡から発掘されたという過去があるのだが、持ち主が次々と不可解な死を遂げた、なんてことは無い、ただのミイラだと説明された。

しかし、司会者はジョークのつもりで言ったのだが、盛り上がるどころかドン引きさせてしまう結果になり、それに乗じてアリエスが開始価格金貨5枚に銀貨1枚足しただけで落札できた。


 このミイラを万物鑑定し、しかもアホみたいな金額で落札できたことで、アリーたんは大フィーバーしている。

フードをかぶっていて本当に良かったと思うほどにニマニマしているのだが、ミイラを落札してニマニマしているのを見られなくて良かったと思うぞ。


 最後に出品されたのは「腐った花」だった。

どう見てもラフレシアである。


 しかし、アリーたんの万物鑑定にかかれば、この「腐った花」と呼ばれているコレが劇的ビフォーからのアフター!に様変わりするのだ。


 ちなみに、ガラクタ市で買った、この2つ。

父ちゃんへのお土産である。

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