第三話 いる、いらない

 げんなりしたアリーたんたちは宿を取って、ディメンションルームを展開して、さっさと中にあるコテージで休んだ。

保護したというか蹴り飛ばしてしまった男性奴隷は詰め所預かりとなり、いずれ売却されるが大した金額にはならないため、王女を騙った彼女から被害を受けた者たちへの補填には足りないだろう。


 ここまでの展開で、バルトは不思議に思っていた。

自分たちへの対応と随分違う、と。それが顔に出ていたのに気付いたロッシュはニッコリ笑って、「無能を抱えられるほどの余裕は金銭的にも人間的にもないと、そう仰せになられていたことがございます」と言った。


 それを聞いたバルトは頬が緩むのを止められなかった。

アリエスに求められてここにいるのだと言われたようなものだからである。


 だが、ここで何故あの奴隷を引き取らなかったのか直球で聞いちゃうスクアーロ。

それに対してアリエスは、「うん?だって、アイツあの犯罪者のだろ?何で、私が引き取るの?」と、きょとんとしていた。


 そういえばそうなのである。

処分市のときでも買えるだけ買おうとはしなかったし、欲しいと思った奴隷しか買わなかった。


 万物鑑定で能力を見て、信用しても大丈夫なのかを確認してから奴隷を購入しているので、「私が助けるからね!」なんて思考はしていない。

なかなか懐かない割に優しかったり気を遣ってくれたりするので忘れるが、アリーたんは結構ドライなのである。


 変なトラブルに遭遇したが、目的地はこのオタマジャルン街だっので結果オーライだ。


 しっかりと英気を養って元気いっぱいのアリーたんは、やっぱりやらかした。

カエルの魔物を冷凍肉にした挙句、タマゴの半数を凍らせちゃったのだ。


 ゲラゲラと爆笑するハインリッヒおじさんは、別にアリーたんを笑っているわけではない。中途半端なアクションで凍ったカエルさんの格好に爆笑しているのだ。

それに対し、ルシオ兄貴は慰めるようにポンポンとアリエスの頭に手を置いた。「タマゴの半分は、無事だ」と。


 しかし、一度凍らせたカエルの魔物はとても美味しくなるので、買取価格はアップするぞ!よかったな、アリーたん!


 ブラッディ・ライアンによって、無事なタマゴから使える状態のものが選別されたのだが、使えるのは3個だけだった。

というのも、少しでも育っているものは使えないため、もしかすると全滅も有り得ると考えていたほどなのだが、必要なのは完全版1個に対してタマゴ1個なので、3個分確保できれていれば十分だろう。


 アリエスはブラッディ・ライアンから大丈夫だと言われ、ホッと胸を撫で下ろした。

そして、即座に「カエルは、もうヤダ。おしまい!帰る!!」と、さっさと帰ることにしたのだった。


 戦闘という戦闘らしきものはなかったのだが、大きなカエルと相対したということで、アリエスはお風呂に入ってサッパリして、シュークリームを食べているベアトリクスの背中に寄りかかってアイスを食べている。


 サスケは、ヘーゼルナッツアイスを器用にスプーンで食べているのだが、それを見たアリーたんは不思議だとは思わない。

好奇心でサスケでも使える大きさのスプーンを用意したら使いだしたので、「魔法を使える異世界のリスは、アイスをスプーンで食べるのな」とつぶやいて終わっているのだ。

 ハインリッヒがいれば全力で「んなわけあるか!!」とツッコミを入れたことだろう。


 ということで、カエラルン領オタマジャルン街での用事は済んだ。

王女を騙った女性のことなどカエルとの戦闘でスポっとどこかへ飛んで行ったアリーたんは、次の目的地へと意識を向けた。


 次に向かうところは商業都市ヴェネリアで、そこもルミナージュ連合国の一つだ。

ヴェネリアの首都には大小様々なオークションハウスがあり、内容もよくある品から稀少なものまで出品されており、オークションが開催されていない日はないと言われているほどである。


 大きなオークションは、腕利きの鑑定士がきちんと調べるため、読めない内容があるものは「不明品」として他のオークションに回される。

そのため、アリエスが覗くのは、中規模以下のオークションなのだ。


 ちなみに、規模にかかわらず王侯貴族のみしか参加できないオークションもあるのだが、そこは伯爵家以上の当主からの紹介状があれば平民や冒険者でも参加できる。

アリーたんは、父ちゃんからロッシュ経由でハルルエスタート王国国王陛下直筆の紹介状をもらっているため、どこのオークションでも参加できる。


 この紹介状は、今までの「親孝行」に対するご褒美でもあるのだが、そこは、さすが大国の国王である。「何かいいもんあったら買い取ってやるから送れ」と、一言ついていた。

アリーたんに常人には見えていない目利きがあることを見抜いて……、いないんだな、これが。ロッシュからの定期報告という名の「アリーたん日記」を読めば余程のおバカじゃない限り分かる。


 ということで、いい子のアリーたんは、父ちゃんが喜びそうなお土産もオークションで探すつもりである。


 掘り出し物があるといいな、アリーたん。 


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