第五話 コップ
ルシオたちとの親睦を深めるという名の常識クラッシャーな歓迎会を当然のことながらディメンションルーム内にあるコテージで行ったアリエス。
最初の頃の慎重さはどこへやら。本来の無頓着さが顔を出しっぱなしである。
たまには、引っ込めても良いと思うぞ。
客室フロアだったコテージの2階は、パーティーメンバーへと割り当てられ、残った部屋は空き部屋としたのだが、それはアリエスがパーティーメンバー以外をここへ立ち入らせるつもりがないという心情の表れでもあった。
少しずつではあるが、周りに人が増えてきたため、アリエスが少し落ち着かなくなってきていることを察したロッシュは、彼女が3階にいるときはテレーゼと共に1階へ下りているようにしている。
そんな気遣いも知らない無頓着アリーたんは、ベアトリクスの背中でダレながら、とあるコップを眺めていたのだが、めんどくさくなったのか「っし!」と言ってベアトリクスから起き上がると、「ちょっと行ってくる」とベアトリクスとサスケの頭を撫でて部屋を出た。
ちなみに、ミロワールは、クララと同じ部屋で生活しており、お揃いのベッドで毎晩嬉しそうに寝ているが、ミロワールに睡眠は不要なので雰囲気を楽しんでいるだけである。
階段を下りて1階へやって来たアリエスの気配を察知したロッシュは、すぐさま彼女を迎え入れ、テレーゼはササっとお茶の準備をした。
その様子にルシオは、アリエスが本当に王女だったことを改めて感じたのだが、普段の言動でそれがお星さんになって天高くどっかに飛んで行くので、きっと彼はまた忘れるだろう。
アリエスは、手に持っていたコップをロッシュに渡したのだが、彼は顔を少し強ばらせた。
「
「あ、そうだね、うっかりしてた。気をつける。でね、このコップなんだけどさぁ、父ちゃん、いらないかな?」
「国王陛下に、でございますか?」
お買い物アプリで購入した、安価なコップもあれば、数万コイン以上もするクリスタルガラスのコップもある。
しかし、国王陛下に献上するほどの品かと問われれば少し首を傾げる程度のものなのだ。それをアリエス自身も知っているだろうに、「父ちゃん、いらないかな?」と言って手に持っていたのは、ネズミーランドのキャラクターが描かれた100コインのガラスのコップである。
意図が分からず固まってしまったロッシュを見て、肝心なことを言っていないことに気付いアリエスは、持っていたコップが何なのかを説明した。
実はこのコップ。
アリエスが水寄越せ妖精が来るかもしれないと、114個も購入した内の一つなのだが、あの騒動が終わってからこの大量のコップをどうしようか悩み、売れないかなー?と思い、鑑定してみたのだった。
その結果、「ロスエテ除け」とあり、水寄越せ妖精の名前がロスエテだと初めて知り、このコップを置いておくとロスエテが怖がって寄り付かなくなるとあった。
つまり、この114個ものコップ全部がロスエテ除けなのだ。
説明し終えたアリエスは、「ロスエテ除け以外の説明文は無いから売れないこともないかな?でもこれ、世界規模で見ると114個しかねぇんだよなぁ。新たに購入してみたけど、そっちはただのコップだったし」と笑った。
ロッシュの反応はというと、「さすが、アリーたん!」だった。
頭を抱えないのね。さすが、全肯定派で「アリーたんを愛でる会」の会長様である。ブレない。
アリエスは、ロッシュが話してくれる内容から、どうやら父であるハルルエスタート王国の国王陛下と連絡を取り合っているのではないかと思い、ならばこのコップも丸投げしちゃおう!と考えたのだ。
水寄越せ妖精ことロスエテは、夜な夜な寝ている人を起こして水をねだるのだ。
中には明日、重要な件を控えている者もおり、そういう人がロスエテに起こされた結果、寝
ルナラリア王国にて王子様を救えたことやミストとブラッディ・ライアンを手に入れたことなどを知った父ちゃんが、喜んでいたことを思い出したアリエスは、これもあげれば喜ぶのではないかと考えたのだ。
彼女は大したことはしていないつもりなのだが、父ちゃんから「親孝行に感謝する」と言われ、「あの程度で喜んでくれるのなら、コップいるかな?」という安直なものである。
そして、見返りなんぞ求めていない。
アリエスは、親の責任と言ってしまえばそれまでだが、いくら王家とはいえ将来何にもならないであろう子供に金貨600枚を持たせてくれていることに感謝しているのだ。
いくら国王自らの財布から支度金が出ているとはいえ、それ以外で自身に使われたお金は間違いなく税金だ。
それを分かっているのでアリエスは、国のために何か出来るのならば、自分の出来る範囲でやろうと思っているのだ。
そんなアリエスを感動の面持ちで見つめるロッシュ。
素人目に見ても考えても今の話の内容が外交関係であることに冷や汗を流すルシオとカミロ。カルラは、ショートケーキを食べて昇天してしまっているため、この会話に気付いていない。幸せ者だな、カルラよ。
ということで、キャラクター柄のコップ6個を残して、あとはロッシュからハルルエスタート王国名義でマルテリア王国へと渡されることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます