第三話 久しぶりだな!

 頭に仁王立ちしている牙精霊を乗っけたアリエス、肩にほうき精霊を座らせているアドリアの二人は、イベントに参加していた中で精霊を得られなかった者たちの羨ましげな視線を受けながら帰途につこうとしていた。


 そんな彼女たちを遮るようにして現れた男は、「よぅ、いいもん捕まえたみてぇじゃねぇか」とニヤニヤしながら声を掛けてきた。

それを受けてハインリッヒが、「おぅ、ルシオ久しぶりだな」と返した。


 ストライプ柄のモヒカンリーダーの登場であったがアリエスは、「あの見た目で名前が『ルシオ』って、未だに慣れねぇわ」と失礼なことを考えていた。


 7人いたパーティーメンバーは、今は3人しかいないのだが、何も仲違いをしたわけではなく、とてもおめでたい話だった。

照れくさそうにモヒカンリーダー改めルシオは、「姉貴と弟がそれぞれ結婚したんだよ」と言った。


 ルシオの姉は随分前から、この精霊せいれい流しイベントを開催している地のそこそこ大きな商会のあるじから後妻にきてくれないかと、熱心に口説かれていたのだ。

その男性には前妻の子がいるのだが、その子供たちもルシオの姉を気に入っており、父はまだ前線で活躍できる歳ではあるが、そろそろ引退を視野に入れているため、その父の余生に花を添えてくれないかと望んでいた。


 しかし、弟妹たちがまだ心配だったルシオの姉はずっとお断りしていたのだが、ルシオが「花があるうちに嫁げ!!ババァになってからじゃ相手に失礼だぞ」と少し乱暴に背中を押したため、やっと決意を固めたのだ。

家族と引き離すのも忍びないと、その商会のあるじと息子が、嫌でなければ兄弟で商会へ就職してくれても良いと言ってくれたこともあり、それを受けてルシオのすぐ下の弟と妹が商会へ転職をした。


 そして、そこで話は終わらず、更に下の弟がその商会と取引のある花屋の一人娘に見初められ、これを機にその花屋へ婿養子に入ることになったのだ。

兄弟姉妹がそばにいる方が安心するだろうし、その花屋の一人娘もいい子だったために決まった縁談だった。


 あっという間に7人いたパーティーメンバーは、ルシオをリーダーに彼と血の繋がった末の妹カルラと、彼とは血の繋がらない弟カミロとの3人になってしまった。

だが、カルラとカミロは異母兄妹なので間接的には血の繋がりはあるし、今まで共に生きてきたことで互いの結束や信頼は揺らいでいないが、今までと同じ規模の仕事は出来なくなったと語った。


 ルシオは、3人になったことでハインリッヒを頼ってクラン"ロシナンテ"に加入できないか考えていたのだが、ここに来てハインリッヒが脱退していたことを知って、どうしようか悩んでいた。


 それを察したハインリッヒは、アリエスへと視線を向けた。

彼が何を言いたいのか分かったアリエスだったが、会うのはこれで二度目である。


 コソっとロッシュの後ろにかくれてしまった。

そんなアリエスの行動に苦笑したハインリッヒは、「言い方は酷くなるが、今のロシナンテよりは信頼できるぞ?」と言った。


 ルシオは、こんな世紀末ヒャッハーな見た目だが、回復職である。

所持武器がメイスな時点で察することが出来る人もいる……、いや、いないか。とにかく、水属性タイプの回復魔法なので、聖属性には劣るが、それでも中級程度の回復力を発揮する凄腕なのだ。モヒカンだけど。


 火属性は攻撃と強化、水属性は攻撃と回復、風属性は攻撃と補助、土属性は守りと攻撃、聖属性は回復と守り、闇属性は攻撃と状態異常といった特性がある。


 ルシオの回復魔法は、水属性の回復に火属性の強化を掛け合わせて中級程度に押し上げているのだが、なかなか簡単に出来ることではないので、これほどの腕があればハインリッヒを頼らずともロシナンテに加入することは可能だった。

しかし、彼にとってロシナンテ内で知己なのはハインリッヒのみであり、彼がいないのならばロシナンテに入るつもりはないのである。


 ハインリッヒは、ロッシュの後ろから半身を覗かせてルシオを見ているアリエスの前に膝をつき、「不安なら鑑定させてもらえ。ただし、鑑定したならば相手の手の内を見たことになるからパーティーに入れることになる。俺は、あの3人の加入を希望するが、どうする?」と真剣な眼差しで語りかけた。


 ロッシュは自身の後ろに隠れているアリエスの背中へ手を当てて、「思うようになされば良いと思いますよ」と優しく微笑みかけた。

アリエスは、掴んでいたロッシュの服から手を離すと、ルシオたちの方へ向き直ったのだが、ロッシュがちょっと残念そうである。


 視線をウロウロと動かしたアリエスはルシオに、「パーティーへ加入するなら、鑑定させてほしいんだけど、鑑定したからには加入させる。それでも良いかな?」と言った。

それを聞いてルシオはカルラとカミロが頷くのを確認して、「構わない。よろしく頼む」と頭を下げた。


 ルシオがアリエスに奴隷のことを聞きたかったのは、姉の結婚や、それに伴ってメンバーが減ったときのためだったのだが、信頼できる別のパーティーに入れるならば、それに越したことはないのだ。


 アリエスが対人関係を構築する際に目安にしている、万物鑑定の項目があるのだが、それは彼女の持っている「魅了スキル」の弊害によって追加されているものであって、本来ならば万物鑑定にそんな項目はないのである。


 その目安の項目というのが、「好感度」だ。

まるで乙女ゲームのような項目だが、アリエスは乙女ゲームなんぞしたことがないので、そこへ思い至ることはない。「さすが万物鑑定。好感度まであるぜ!」と思っている。


 そんなわけあるか!!というツッコミは残念ながら誰からも入らない。


 そして、鑑定した結果、ルシオの好感度が78%、カルラの好感度が81%、カミロの好感度が76%とかなり高く、裏切られる心配はないと注釈までついていた。


 ちなみに、ロッシュとテレーゼ、ハインリッヒの3人は100%である。

特に何もしていないが攻略を完了しているのだった。 

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