第六話 女体化ブレスレット

 子供が産めるようになったわけではないが、それでも念願叶って女性の身体を手に入れられることに涙を浮かべて笑うクリストフ。


 さっそくクリストフは、兄ハインリッヒ経由で貰ったお土産の女体化ブレスレットをはめた。


 ガッチリしていた筋肉がしなやかな筋肉になり、男らしい肩はなだらかに、服を押し上げて窮屈そうになる程の豊満なお胸が実り、引き締まったウエストは色っぽいクビレに、カッチリした筋肉に覆われたお尻はプリンっ!と丸みを帯びている。

そして、眼光鋭い目はツリ目だけれど艶やかな雰囲気をかもし出し、男らしい唇はぷっくりと愛らしくなった。


 そんなクリストフを見てアリエスは、「なんか、エロい感じになったな」と零した。


 アリエスの言葉に不安になったクリストフは、「似合わない……かな?ダメだった?」と泣きそうになってしまったので、慌てたアリエスがわちゃわちゃと慌ててディメンションルームから姿見を持って走って来た。


 この世界で鏡は高級品である。

そんな鏡を、しかも全身が映るほどの大きな鏡を小脇に挟んで持ってきたアリエス。


 よかったな、ここに身内しかいなくて。

クリストフもその鏡の大きさに驚いたが、鏡に映った自分を見てそれどころではなくなってしまった。


 しばらく放心状態だったクリストフだが、鏡に映るのが本当に自分なのだと理解した途端に堤防が決壊した。

大号泣である。


 思わず「姐さん!」と呼びたくなる美女の大号泣である。

そんなクリストフを優しく撫でるのは、クイユだ。


 クイユも色々と身体も心も折られた過去がある。

それが元通りどころか「誰だお前」状態のイケメンにしてもらえたし、アリエスに買われてからは周りの皆も優しかった。


 自身と境遇は違うが、過去に辛い思いをしたことがある、それに関しては分かってあげられると、寄り添うように慰めてあげた。


 一度ズルリンになり尊厳を踏みにじられたクイユにとって、人の見た目や性別など、どうでも良い事柄になってしまっており、心と身体の性別が合っていない人に対しての偏見は無くなっている。


 そして、女体化ブレスレットを使う前の自分を見ているはずなのに、まるで自分を女性のように扱ってくれるクイユに対してクリストフが惚れないワケがなかったのだ。

しかも、ちょっといいなぁと思っていた相手がクイユだった。


 今は奴隷だが、クイユは元は貴族の生まれである。

普通に慰めてあげただけなのだが、はたから見ればというか平民からすると、まるでお姫様扱いのように思える。


 泣いた顔にうっとりとした目でクイユを見るクリストフ。

まるで、情事のあとのようである。実にエロい。


 そんな二人の世界をブッた斬るようにしてアリエスは、名前をどうするのか聞いた。


 「ぐすっ、そうだね。愛称のクリスでいいかとも思うけど、どうかな?」

「まあ呼ぶのはクリスでいいとしても、何か足そうよ」

「じゃあ、アリーちゃんが付けてくれる?このブレスレットをくれたのはアリーちゃんだから」

「ん。わかった」


 いそいそと辞書を片手に調べ始めたアリエス。

こうなったら決まるまで動かないだろうと、今までの経験で知っている皆は思い思いに過ごすことにした。


 クララは、泣き腫らした顔のクリストフに回復魔法をかけてあげ、その横ではクイユが彼女クリストフの背中に手を添えている。

クララの表情は、「息子に嫁が来た!」である。


 クリストフは、アリエスがここまで旅をしてきたロシナンテのメンバーにいたので、クララがクイユに対して抱いている気持ちが母性のみであることを知っているし、クイユも何だかんだ言いながらそれを受け入れているので、その二人の距離感に嫉妬したりはしない。

むしろ、そのうちクララのことを「お義母さん」とでも呼びそうである。


 バサバサと辞書をめくっていたアリエスの手が止まり、何かを思案し、口の中で言葉を転がすようにしたあと、彼女は視線をクリストフへと向けた。


 「クリスのあとに大地を意味する『テール』を付けてクリステールでどうかな?」

「素敵だね。クリステール、うん、いいね。ありがとう、アリーちゃん」

「大地といえば、女神だろ?ピッタリじゃね?」

「アリーちゃんっ……!そんなこと言われたら、また泣いてしまいそうだよ」


 フランス語で大地を意味するテール。

辞書によるとテールの前には「ラ・」が付いていたが、細けぇことは気にすんな!という、いつものアリーたん節が炸裂した結果である。


 素敵な名前を付けてもらったクリストフ改めてクリステールは、真剣な眼差しをアリエスへ向けると、「俺、いや、私もアリーちゃんと一緒のパーティーに入れてほしい」と望んだ。


 元々、この女体化アイテムを入手するために冒険者になったため、それが手に入ればやめるつもりでいたのだ。

しかし、ここにきて欲が出てしまったのである。


 アリエスは、ふーん、という顔をしてクリステールをちょいちょいと手招きで寄せると、「本音は?」と尋ねた。

そう聞かれたクリステールは、恥ずかしそうに頬を染めると「彼と、クイユと一緒にいたい」と小さな声でアリエスにだけ聞こえるように言った。


 それを聞いたアリエスはニンマリ笑うと、「いいよ!」と答えたのだった。


 クリステールがクイユを意識していたのは、旅の中でも何となく察していたので、聞くまでもなかったのだが、こういうことはきちんと確認しておかないとね!と思ったアリーたんでした。



 



 


 

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