第二話 モチベーション

 阿呆共がどうなろうと関係ないと思ったアリエスは覗き穴を閉じ、ディメンションルーム内にあるコテージへと待っていたメンバーと共に入って行った。


 既に食事の用意は済んでいたので、とても美味しそうな匂いが室内に漂っている。


 本日の夕食は、ローストビーフにマカロニグラタン、ポテトサラダ、シーザーサラダ、ハンバーグ、具だくさんの味噌汁に、ご飯とパンが並んでいる。


 夕飯がこのラインナップなのも、このメニューに味噌汁なのもアリエスが好きだからというだけである。

合う合わないではなく、好きかどうかなので、たまに組み合わせが珍妙なことになっているが、テレーゼ監修なので一品一品はとても美味しい。


 アリエスは料理スキルLv8を持っているが、それが発揮されたことは今のところない。

前世でも一応は料理できていたので今もやろうと思えば出来るだろうが、周りがさせたがらないだけである。


 ちなみに、カレーやシチューを作る際に皮をむくのが面倒という理由で、じゃがいもの代わりに冷凍フライドポテトをざらざらーーー!と入れて兄の康一に怒られてはいたが。

「ジャガイモは、ジャガイモじゃないか!」と唇を尖らせる仁に対して康一は、「用途の違うものを入れるんじゃない!」と注意していたのだが、たまに冷凍フライドポテトを入れたのが茉莉花だったりしたこともある。


 康一はとても食にこだわるところがあり、よく手料理を茉莉花と仁にも振舞っていたのだが、仁は「兄ちゃんの料理って、ちょー美味うめぇけど舌噛みそうな料理が多いよな」と言っていた。

ただ単にイタリア語やフランス語など料理名の発音が難しいという意味だったのだが、康一は物理的に舌を噛みそうなのかと思い、仕事仲間に相談したところ、「それは、料理の仕方を考える前に歯医者へ連れて行って、歯並びを見てもらうべきだと思うよ」と言われ、それもそうかと歯医者へ仁を連れて行ったこともある。


 特に治療も歯並びの矯正も必要なく軽いクリーニングだけで済んだことで、何故これで食べるときに舌を噛むのかという話になり誤解はとけたが、何とも人騒がせな出来事だった。


 熱々のグラタンをふぅふぅしながら食べ、ハンバーグにグラタンを絡め、パンにグラタンを乗せ、グラタンにご飯を混ぜたりと、どけだけグラタンが好きなのかという食べ方をしているスクアーロ。

彼は酪農家の長男として生まれたが、彼が10歳のときに酪農地が魔物の群れに襲われ、父親は廃業を余儀なくされた。


 そんな過去があるため、スクアーロは乳製品にとても思い入れがあり、大好きなのだが、この世界の乳製品はとにかく高い。

家畜を魔物から守らなければならないため、その費用がバカにならないのだ。


 スクアーロが冒険者をしていた頃は、一年に一回手が届くかどうかというほどの生活だったのだが、アリエスに奴隷として買われてからは毎日のように乳製品が出てくる。

そのため、スクアーロのモチベーションはとっても高いし、他のメンバーも乳製品が高級品なのを理解しているため、ニッコニコである。


 アリエスが用意している乳製品は、お買い物アプリで安く購入できるので、彼女が遠慮するなと机に大量に積み上げたことがあるため、それ以来メンバーは遠慮せずに食事を楽しむようになった。


 美味しい夕食を終えた後、お風呂に入って寝たアリエス。

擦り付け行為をしようとしていた連中のことなどキレイサッパリ記憶の彼方かなたにお星様となって飛んで行ってしまったようでグッスリである。


 ということで、翌日から何事も無かったようにヒャッハーを再開し始めたアリーたん。

ディメンションルームとインベントリ、そしてお買い物アプリがあるため物資に困らず、地上になかなか戻らなかった。


 しかし、人というものは、日光に当たらないといけないのである。

引きこもっていてもカーテンを開けて日光浴しないと足りない栄養が出てくるので、引きこもりガチ勢はサプリメント必須かもしれない。


 つまり、ダンジョンに潜りっぱなしは良くないのだが、そこは世界でも名の知れた錬金術師の息子ブラッディ・ライアンとミストパパが頑張ってくれた。

なんと、錬金術で擬似太陽を作ってしまったのである。フユルフルール王国は惜しいことをしたものだ。


 アリエスの万物鑑定、ブラッディ・ライアンの叡智、ミストの錬属性によって完成した擬似太陽は、人体に悪影響はなく植物も育つのだが、やはり擬似でしかなく、全く外に出ずに済むということはないし、植物の成長も外より遅く貧相である。


 そうは言っても他の人たちよりかは長くダンジョンに潜っていられるので大したものなのだが、いい加減にダンジョンから出ないと死亡扱いされても知らないぞ!というほどの日数が経過している。


 どれだけ経過しているかといえば、既に5ヶ月目に突入している。

ダンジョンの外では捜索した方が良いのではないかとの話も出ているのだが、ミスリルランクのハインリッヒが「心配いらねぇよ。飽きればそのうち帰って来る」と言い張り、捜索隊を止めている。

もちろん、捜索されるのはアリエスではなく、冒険者ギルド所属クラン"ロシナンテ"の設立者ロッシュである。


 冒険者は自己責任で仕事をしているため、ダンジョンに潜ってから連絡がつかなくなっても余程のことがない限り捜索はされないのだが、ロッシュはクランの設立者、つまり出資者であっても冒険者ではなく一般人なのだ。


 アリエスが王族籍を抜け冒険者になったため、ロッシュもハルルエスタート王国王都の平民籍からルミナージュ連合国ダンジョン都市ドリミアの平民籍に国籍を移しているのだが、普通は自領の民がダンジョンから戻らないというだけで捜索隊は出ない。


 しかし、ロッシュが前ドリミア領主の元執事だったため、彼を慕う今の領主が不安に駆られて捜索隊を編成してしまっているのだ。


 さっさとダンジョンから一度出ないと、騒ぎが大きくなってしまうのだが、「あとちょっとで最下層だし、このまま行くか!」というアリエスの掛け声にて、ダンジョン探索が続行されてしまった。


 アリーたん。残り3分の1を「あとちょっと」とは言わないと思うぞ。

どうしてアリエスの周りには止めるものがいないのだろうか。

 一番の常識人であるロッシュがアリーたん全肯定派なので仕方がないとは思うが、メンバーには元冒険者のバルトとスクアーロもいるのだが、あいつらは何を考えているのやら。


 それが分かるのはダンジョンを出てからになる。

 



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