6 いざ、ダンジョン!
第一話 ヒャッハー!
ジメッとした湿り気を帯びた空気に、暗闇に仄かに光る植物が辺りを照らす中、アリエスは愛用している竜骨のモーニングスターを振りかぶってヒャッハーしていた。
ここは、ダンジョン都市ドリミアから少し離れた場所にあるダンジョンのひとつで、難易度はそれほど高くなく、主にシルバーランクからゴールドランクまでの冒険者がよく潜っている。
そして、このダンジョンの雑魚は使える素材が魔石程度なので、グシャッ!とやっても何の問題もないため、アリエスは思いっきり「いやっふぅーーー!!」と、はしゃいでいる。
ああ、また哀れな魔物が3匹犠牲になってしまった。
そんなアリエスを引きつった顔で見ているのは、新たに購入した奴隷のスクアーロだ。
三白眼と歯並びがサメっぽかったのでイタリア語の辞書から選んだのだが、よく漫画で見かけた名前だったので、アリエスには馴染みがあった。
スクアーロは、元は冒険者でパーティーリーダーをしていたのだが、酒に酔ったところを下克上されたマヌケちゃんなのだ。
しかも酔って暴れたところを元仲間が買収した兵士たちに連行され、犯罪奴隷としてサッサと売られてしまった。
つまり信頼していたパーティーメンバーに嵌められたのである。
持ち主が死ぬと開放されることもあるため、報復を恐れた兵士によってダンジョン都市へと運ばれ、テキトーな理由をでっち上げ処分市へ出すように奴隷商会に依頼したのだが、テキトーが過ぎて恐ろしい話に変わってしまっており、買い手がつかなかったのである。
そこへミロワールを召喚獣として契約し直したアリエスが、処分市が終わるまでもう少し粘るといって、再びやって来て見つけたのがスクアーロだったのだ。
「アリー様よぉ、素材が取れる魔物だと減額査定になっちまうぞ?」
「剥ぎ取れる魔物なら後衛から魔法ブッ刺すから安心しろ、スクアーロ」
アリエスの返事に片眉を上げたスクアーロは、彼女の髪と瞳を見て首を傾げた。
「何を放つつもりで?」
「ククッ、そんなに気になんなら、おかわり相手にやってやんよぉ」
アリーたん、テンション上がっちゃって、お目目イッちゃってますよ!!
追加の魔物に氷の矢と、もう片方の手から炎の矢を放つのを見たスクアーロは、目を見開き顎を落とした。
獲物に食らいつくホホジロザメのようだぞ。怖いぞ。
どうでもいい話だが、アリエスはホホジロザメのことを「ほっぺちゃん」と呼ぶ。
ほっぺの要素は分かるが、「ちゃん」の要素がどこにあるのか皆目見当もつかない。
そんなスクアーロを放置して通路を眺めていたアリエスが隠された宝箱を発見したので、すかさずミロワールが開けた。
ミロワールは今はクララそっくりに擬態しているが、中身はコールタールのようにドロっとしているのだ。
物理攻撃と状態異常が無効という素敵な身体をしているため、罠を解除するのにもってこいだと自ら罠を踏みに行くのだ。
そんなミロワールを見てアリエスは、「解除できるものは、しろよ?わざわざ
しかし、ミロワールの見た目がクララそっくりなので、アリエスが少女に
ミロワールが開けた宝箱の中身を鑑定したアリエスは、ニンマリ笑った。
何かいいものか、ロクでもないもののどちらかだろう。
アリエスのパーティーメンバーは、盾役にバルト、遊撃にクイユ、回復にクララ、その護衛にミロワールとスクアーロがいる。
アリエスは、物理攻撃アリ、魔法攻撃アリ、ポジションはどこでもイケるという、だいぶ頭のオカシイ子なので気分で戦闘スタイルを変える。
アドリアとミスト、ブラッディ・ライアンは、テレーゼ監修のもとディメンションルームで食事の準備をしながら留守番をしているのだが、自衛できるロッシュはダンジョンに共に潜り、戦闘を終えたアリエスの世話を甲斐甲斐しく焼いている。
最初の頃は、「執事付きで奴隷従えてダンジョンに来るとかナメてんのか?」という視線がアリエスにブッ刺さっていたのだが、彼女がヒャッハーしだしてからは、そんなことはなくなった。
どう見ても前衛タイプのスクアーロをクララの護衛にして、
どっかの父ちゃんソックリなので困ったものだ。
どっかの父ちゃんは最近、事務仕事に飽きてきたらしく、手綱がちぎれそうなのだとか。
周辺各国のためにも、是非とも手綱を強固にしてほしいものである。頑張れ宰相閣下!散って逝った
本日の狩りはここまでと、アリエスが終了宣言しようとしたところで、ドタバタと複数の足音が奥から聞こえてきた。
面倒事の予感!と思ったアリエスは、周囲に誰もいないことを確認すると、さっさとディメンションルームへと入ってしまった。
奴隷やロッシュも入って来たのを確認したアリエスは、覗き穴ほどの隙間だけ残して入り口を閉じ、何が起こっていたのか見ることにした。
気になったのかスクアーロも確認させてほしいと言うので、アリエスは彼が見やすい位置に覗き穴を開け、一緒に見たのだが、どうやら擦り付け行為をされるところだったようだ。
わざと魔物を引き連れ、他の人の横を通り過ぎて、その人に魔物を押し付ける行為のことを言うのだが、上手くいけば弱った魔物にトドメをさせて、疲弊している冒険者を襲って荷物を奪うことも出来るのだ。
だが、擦り付けた相手が簡単に討伐できてしまえば、ダンジョンから出たあとで報復されるので、そんなことをするヤツは滅多にいない。
その滅多にいないヤツに遭遇しそうになったアリエスだったが、簡単に回避できたことで高みの見物である。
確かにココにいたはずなのにと騒ぐド阿呆共に、「ざまぁっ!」とケケケっと笑うアリエスだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます