第七話 返品なんかしねぇよ!
ブラブラしながら売られている奴隷を見て行くが、クララやミストのような掘り出し物はいなかった。
しかし、ここでアリエスは思いもよらない奴隷を見つけた。
その奴隷は、膝を抱えて座り込でいる男性なのだが、店主曰く言葉を話さないし種族も不明なのと、見た目と所持属性が合っていないため何か呪われている可能性があるという。
それを聞いたアリエスは、「いや、見た目と所持属性が合ってねぇのも、種族が不明なのも、あんたらが漢字を読めないだけなんじゃね?」と思ったのだった。
呪われているなら連れ歩くのも遠慮したいと、捨て値なのに誰も買わないので、アリエスは彼を買うことにした。
何があっても返品はお断りだという店主にアリエスは、気にしないからいいと言って彼を購入して連れ帰ったのだった。
アリエスが万物鑑定で見たステータスには、「種族:青野島勝次郎(ドッペルラージュ)」とあり、普通の鑑定ではドッペルラージュの部分が表示されなかったのだ。
この青野島勝次郎さんことドッペルラージュ。
転生者が召喚獣ガチャを回して得た召喚獣なのだが、本来はコールタールのような見た目で、
種族は、擬態している間は、その対象の名が記載されるため、それがなければ、ここまで売れ残ることはなかっただろう。
そんなドッペルラージュが、何故に奴隷として売られていたのかといえば、その召喚した転生者が前世を思い出し、ガチャを回しながら前世に思いを馳せてイラついたのが始まりだった。
その転生者は、ブラック企業に勤めて過労死してしまった。
ただでさえ寝る暇も食事もまともに取れなかった状況で、上司から更に仕事を上乗せされたのだ。
その上司の名が「青野島勝次郎」だった。
そして、ゲットした召喚獣の能力で、召喚獣を上司の姿に変えさせて、ごにょごにょしたのである。
つまり、溜まったストレスを暴力によって発散したのだが、そんなことをされた召喚獣は心身ともに傷付いてしまった。
ただ、本物の青野島勝次郎さんは、その転生者よりも多くの仕事を抱え、こなしていたということだけは、言っておこう。
とてつもなくタフだったので、なるべく自身が片付けようと頑張っていたイイ人ではあったため、ただの逆恨みである。
そして、その転生者は、周囲があまり漢字を読めていないことに気付き、これならステータスを見られても大丈夫だろうと、なんと青野島勝次郎の姿にしたままドッペルラージュを売り払ってしまったのだ。
奴隷となったことで、その転生者との契約は切れているので問題はないが、酷いことをするものである。
ドッペルラージュをロシナンテのクランハウスへと連れ帰ったアリエスは、用意された部屋の壁にディメンションルームを展開し中に入ると、真っ先に彼を抱き締めて撫でてやった。
もう、大丈夫だと。ここには、撫でられるのが仕事のベアトリクスや、キャットタワーでタイムアタックをするサスケがいるくらいなので、何もしなくても大丈夫、と。
きゅ、とアリエスの服を摘む青野島勝次郎さんの姿をしたドッペルラージュ。
彼の見た目は日本のどこにでもいそうなオッサンである。が、しかし、青野島勝次郎さんことドッペルラージュに性別はないので安心してほしい。
アリエスの思い詰めたようでいて静かな怒りと悲しみを感じ取ったロッシュは、冴えないオッサンを抱き締める彼女に「はしたない」と声を掛けることは出来なかった。
少し落ち着いたドッペルラージュが望んだので、アリエスは召喚獣として契約を結び、奴隷契約の解除をしたのだが、そのときにドッペルラージュには名前も付けられていなかったことに更に怒りを募らせた。
性別がないことを知ったアリエスがドッペルラージュに付けた名前は、ミロワール。フランス語で鏡だ。
いい感じの名前を考えるのが難しいと、アリエスはお買い物アプリで辞書をいくつか購入していたので、今回はフランス語の辞書から選んだのだった。
名前をつけている間にアリエスは、自身のことをハインリッヒに説明しておいてほしいとロッシュに頼んでいた。
ドッペルラージュのことを話すのに「転生者」のことを知っておいてもらった方が早いと判断したためだった。
名前をつけ終えて一段落したところで、ディメンションルーム内のコテージにあるリビングにて、アリエスを中心にロッシュ、テレーゼ、ハインリッヒ、クララ、クイユ、バルト、アドリア、ミスト、そして、ミストの従魔となったブラッディ・ライアンが座っている。
アリエスの隣にはドッペルラージュのミロワールが座っているのだが、今は青野島勝次郎さんの姿ではなくクララの姿を借りており、その横ではクララが、医学系の書物でミロワールに人の身体の構造を説明し、喉や声帯などを再現させて話すことが出来ないか試行錯誤している。
アリエスは神妙な顔をして、自分以外にも転生者がいること、その転生者がミロワールを召喚して売ったということを話した。
それを聞いたロッシュとハインリッヒは危機感を覚えた。
アリエスの持っているスキルの貴重さや異常さを目の当たりにしているのだから、これクラスのスキルを持った者が他にもいるとなると、とんでもなく厄介だと。
ましてや、せっかく得た召喚獣を売り払うような性格をしているとなると、ロクなものではない可能性がある、と。
アリエスもそんなヤツと仲良くするつもりはないし、ミロワールを返すつもりもないし、この世界に生まれてこの世界で生きているのだから、いくら同郷といえどもそんなものは関係ないと言った。
それを聞いてミロワールは嬉しくなった。
今の
だから、頑張って喋れるようになろうと決意したのだった。
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