閑話 ロシナンテのメンバーは……
アリエスがロッシュに伴われて用意された部屋で休んだ、その日の夜。
ロシナンテの拠点では、マテウスとザザの他に数名のクランメンバーが集まって話をしていた。
その中には一緒に旅をしてきたハンナの姿もあった。
彼女は不機嫌なのを隠しもせずにほっぺたを膨らませている。
「ハンナ、何をそんなにムクれているんだ」
「ムクれもするわよ!!アリーたんは、リーダーたちが思っているような子じゃないの!!」
「そうはいっても昨日が初対面だし、それに、再三に渡って領主様がたまには顔を見せてほしいと言っていたのに、仕事があるから帰れないという話だった。それなのに、あのアリエスという子が巣立つとなったら、さっさと仕事を辞めてついて行ったんだぞ?そりゃ、リーダーたちだって面白くないだろうよ」
「そんなのは、こちらの勝手でアリーたんには何の関係もないじゃないのよ!」
「だが、アリエスという子がロッシュさん所有の馬車で移動をし、世話になっていたのは事実だろう?」
ハンナは、言いたくて堪らなかった。
実際に世話になっていたのは自分たちだと。あの寒いフユルフルール王国を抜ける際に、ぬくぬくと帰って来られたのは紛れもなくアリーたんのおかげだと。
しかし、勝手に人のステータスを話すことはマナー違反になるので、ハンナはグッと堪えた。
でも、これだけは言ってやる!と意気込んで「まあ、たぶんアリーたんは、自分と奴隷だけでダンジョンに潜るでしょうね。はっきり言って知らない人に対しての距離感がものすごく広いから!」と言い放ったのだか、だから何だ?という反応に終わった。
そんな悔しい思いをしたハンナだったが、翌日のアリエスの「ここには住まない」宣言で更に落ち込むことになった。
だが、分かってもいたことだった。
ただでさえ知らない人に対して距離を開けるアリエスが、歓迎していない感じのロシナンテのクランハウスにて共に生活をしてくれるわけがない、と。
ましてやアリエスのスキルを考えれば、余計な人がいない方が動きやすいほどである。
ハンナは、恨みがましい目でクランリーダーであるマテウスを睨んだ。
やっと仲良くなれてきたところだったのに、ロシナンテのハンナではなく、ただのハンナとして見てくれそうになっていたのに!と。
一緒に旅をしなかった待機していたロシナンテのメンバーたちも困惑していた。
ロッシュからアリエスという子のために自身の部屋を彼女好みに改装までさせていたのに、肝心のその子が使わないと言ったのだ。
しかも、ハインリッヒとの会話に聞き耳を立てていると、どうやら第四区に部屋を借りてそちらへ住むつもりでいるようで、奴隷を買いに行ったついでに物件も見てくる予定でいるのだ。
ぽっと出のペーペーがロシナンテに加入するという話でもなく、メンバーでもないのに一番いい部屋に居座るわけでもないと知って、態度を軟化させたロシナンテのメンバーたちだったが既に遅かった。
ロッシュがこちらにいた頃に加入した古参メンバーはそうでもないが、2代目リーダーと同世代のメンバーはアリエスに対して不快感を
ロッシュの家へと連れて来られただけの自分が何故ここまでアウェーな感じに晒されなければいけないのか静かにキレてもいたし、それに気付いた「アリーちゃんを愛でる会」のメンバーも笑顔でキレていた。
この様子を見て古参メンバーでもあるザザは、慎重に見極めようとして判断が遅れたことを後悔した。
最初は、ロシナンテの兄貴が気に入っているのなら、別に何の問題もないだろうと静観していたが、ハインリッヒの異様な態度やマテウスがあまりにも心配するものだから、直接会ってから判断しようと思ったのだ。
その結果、若いメンバーへの配慮が欠けてしまっていた。
古参メンバーは、ロッシュに世話になった者がほとんどのため、彼の好きなようにするのが当然というスタンスだったが、若いメンバーはロッシュのことを知らず、クランの設立者という認識しかない。
アリエスと共に旅をしたメンバーであるチェーロは、この様子を見て「ロッシュさんが戻って来たんだ。なら、クランを分ける必要が出てきたんじゃないか?」と、言った。
だが、その言葉に待ったを掛けたのは若いメンバーばかりだった。
やっと思い出したのだろう。
自分たちが誰の家で生活をしているのか、誰の設立したクランに所属しているのか、を。
第一区に足を踏み入れることが出来ているのは、確かに実力もあっただろうが、前提条件に「クランハウスが第一区にある」というのが大きい。
それが無ければ第一区に足を踏み入れることなど無かったのだから。
チェーロは、ため息をついた。
まだマテウスにリーダーは早かったのだと。
そして、判断が鈍っているザザに引退を勧めた方が良いのではないか、と。
そう思ったので、話が終わった後に声をかけた。
「ザザ」
「チェーロ、言うな。俺が一番分かっている」
「娘のことばかり構い過ぎだ」
「ぐっ……。分かっては、いるんだが、ミミがマテウスを想う気持ちを考えると、つい、な。それに、アリエスちゃんがライバルになったらミミに勝ち目はないと思って……」
「お前……、アリエスの身に起きていることを分かって言っているのだとしたら、軽蔑するぞ」
「は?何でだよ」
「本気で言っているのか?あの子は誰の子だ?」
「っ!?……はぁ、最低だな、俺。本当に娘のことばかりだったわ」
「マテウスが冒険者になれたのは、必ず自身の子を跡継ぎにすると約束したからだぞ、それを……」
マテウスは、跡取り息子なのだが、ロッシュの設立したクランに入りたいがために冒険者になった。
冒険者になる条件が、「跡継ぎの子をもうける」だったため、マテウスは子供を作る必要がある。
つまり、子供ができないように封印が施された元王女であるアリエスとは一緒にはなれないのだ。
まあ、当人たちにそのつもりは微塵もないだろうが、出会い頭に挨拶したまま無言で見つめあっていたので、周りが少し勘違いをしたのだ。
真相は、二人ともその後どうしていいか分からなかっただけの、ただのコミュ障である。
しかし、ザザの娘であるミミは諦めていた。
マテウスの妻にはなれないと。
冒険者の娘である自分に、継ぐ家のあるマテウスの妻になることは不可能なのだと諦めているので、誰にも言うつもりはなかったのだが、誰が見てもバレバレであった。
知らないのは当人同士だけなのだが、マテウスの妻はミミでも務まるので安心してほしい。
ということで、誰かサッサと言ってやってほしい。
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