第六話 見定める

 いつまで経っても中に入って来ないことが気になったクランメンバーが外へと出て来て、ロッシュに「ロシナンテの兄貴、おかえり。お嬢さんの部屋は出来てるから先に案内して荷物置いて来たら?」と声を掛けたことで第四区まで戻るという話はどこかへ行った。


 クランメンバーが声を掛けてきたことで、ついでとばかりにハインリッヒが彼をアリエスへ紹介した。

「こいつは、ザザ。俺と同じで古参のメンバーだ。娘がいて、そっちは厨房で働いてる」

「はじめまして、アリエスです」

「はじめまして、ザザだ。娘のミミは12歳なので妹だと思ってくれたら嬉しいよ」

「え、12歳でもう働いてんの?すげぇな」

「アリーはそんな頃何してた?」

「ひたすらステータス上げてたな」

「はははっ、さすがアリーだな」


 アリエスの話し方やその内容に「おや?」と思ったザザ。

しかし、アリエスの為人ひととなりを判断するにはまだ足りないと思い、少し質問をしてみることにしたのだった。


 「アリエスちゃんは、今後どうするつもりなんだい?」

「ダンジョン都市に来たんだからダンジョンに行くつもりだけど。でもなぁ、ちょっとメンツ足りねぇよな。ねぇ、ハインリッヒさん、ここって奴隷いるんだっけ?」

「ああ、売ってるぞ。アリーなら良いの選ぶだろうから、明日にでも第四区へ見に行くか?」

「んじゃ、案内お願いしようかな」

「うっしゃ、任せとけ」


 今のやり取りでアリエスがロシナンテをあてにしている様子は見受けられないが、ミスリルランクのハインリッヒをあてにしているようには見えるので、もう少し観察が必要かと判断したザザは、明日以降の態度も注意深く見ておこうと思ったのだった。


 そして、翌日。

案の定、アリエスはロシナンテのクランハウスで生活することに難色を示した。


 ただ、めちゃくちゃ好みのしつらえだったので、「おじいちゃん」の家へ遊びに来て、ここに泊まるのなら喜んで泊まる!と、はしゃいではいたが。


 ロッシュもアリエスのディメンションルームの存在を知ってからは、恐らくそうなるだろうと思っていたので驚いてはいないが、ここまで一緒に旅をしてきたロシナンテのメンバーからはブーブー言われた。


 だいたいが手の届く距離に他人がいるとイラっ!と来るアリエスが、家族以外の人と同じ屋根の下で生活ができるわけがないのだ。

ロッシュとテレーゼとは王宮の離れで過ごした年月があるため家族のように思っているし、奴隷は「もう、ペット枠に入れちゃえ」と思うことにしたので問題ないが、それ以外は友人に近い・・他人か、それ以下であり、ハインリッヒだけが今のところ親戚のオジサン枠なのだ。


 文句を言うメンバーを笑顔で黙らせたロッシュは、ハインリッヒの案内のもと、アリエスを連れて第四区にある奴隷商会へ行こうとしていたのだが、途中でいいものに遭遇したので予定を変更したのだ。


 今日は、ちょうど処分市が開かれる日だったので第四区の噴水広場には大勢の人がいた。

処分市というのは、各奴隷商会が売れ残りの奴隷を広場に集め、たたき売りをする日なのだ。

 これは、一年に一度行われるのだが、買うのは冒険者がほとんどで、肉壁に使うかダンジョン罠を解除せずに発動させることで回避するために使い捨てにされたりと、とてもではないが人としての扱いではない。


 下級冒険者に買われれば戦力としてカウントされて、それらしい扱いはされるだろうが、クズの上級冒険者に買われれてしまえばオワタ!である。

 

 そんなダークな情報をロッシュ爺さんとハインリッヒおじさんがアリーたんに教えるわけがないので、彼女は知らずに眺めているのだが、そんなアリーたんが一旦通り過ぎで戻って3度見した奴隷がいた。


 鑑定しながら歩いていたアリーたんに見えたのは、「ハルルエスタート王国元王子」という一文だったが、アリエスが前世を思い出すより前に離れを巣立っている。


 しかし、鑑定しなくても離れで執事をしていたロッシュは彼に気付き、「さもありなん」という顔をしていた。


 ロッシュがどれだけさとしても「執事にしかなれなかったくせに指図さしずするな!」と、執事がどういうものかも分かっていなかったド阿呆が彼である。

独り立ち後、支度金で奴隷を買ったが、戦闘も出来ない女性しか買っておらず、利用する宿屋も高いところばかりと、一年もたずにスッテンテンになった挙句に人畜無害そうな美少女に騙されて奴隷として売られたのだ。


 しかし、何の教育も身につけず、属性能力も低く、戦闘訓練も真面目に受けなかった彼は、なかなか売れなかった。

しかも、あの・・国王の血を引いているはずなのに、顔面偏差値はそこまで高くないし、態度も悪いので男娼を扱う娼館からも「いらない」と言われたのだ。


  パチクリとした目をロッシュへ向けたアリエスだったが、ものごっつ冷たい目で件の奴隷を見ていたので、「あ、これ、いらない系の人なのねん」と、目を逸らして次の奴隷を見に行ったのだった。


 異母兄に対して冷たいと思うかもしれないが、アリーたんは基本的にいい子ではあるが、酷い子でもあるので、そんなものである。

ロッシュが冷たい目で見ている時点でロクなもんじゃないと判断したのだが、それで合っているので問題ないぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る