第五話 拠点
荒野を抜けて、ちらほら緑が見えるようになった先には、今まで見てきた街や王都にあったものよりも高くそびえ立つ街壁があった。
無骨な街壁を眺めるアリエスにロッシュは、目的地であるダンジョン都市ドリミアに着いたことを告げる。
街壁の中に入ると、貴族用の出入口、冒険者用の出入口、一般出入口それぞれの門があり、初めて訪れるアリエスは手続きがあるため一般出入口の列に並んだ。
出入口がある門と街壁の間は、通常は手続きのための列や積荷の検査などが行われているが、ダンジョンから魔物が溢れたりなどの襲撃があった場合、ここが防衛ラインとなる。
ダンジョン都市ドリミアの中心部に領主館があり、その周りを囲むように円形状に貴族街と貴族に近しい者などが住む高級住宅街のある第一区、富裕層が住む第二区、一般市民が住む第三区、冒険者が主に利用する宿屋や賃貸物件、歓楽街、商店などが集まった第四区で構成されており、ロッシュが設立したクラン"ロシナンテ"の拠点は第一区にある。
第一区、第二区にはそれぞれに高い壁が周囲を囲んでおり、四方にある門からでなければ出入りできないようになっている。
それを順番が来る間に説明されたアリエスは、ポカンとした顔をして、「え、ロッシュって、セレブなの?」と思ったようだが、君は元王女だぞ。それを言えばロッシュも元王子だが。
手続きを終えたアリエスは、何の疑いもなく自身に用意された部屋というのが第四区にあるものと思っていた。
第一区にある高級住宅街のロッシュ宅の壁を借りずに済んだと安堵しているアリエスだったが、壁どころかその家の一番いい部屋を与えられている。ロッシュとテレーゼという側仕え付きで。
街行く人々の活気で溢れる通りを抜けて富裕層が住む第二区まで進むと辺りは割と静かになる。
その様子を馬車から覗いて見ていたアリエスは、「どこに向かっているんだろ?」と暢気に思いつつも街の様子を楽しんでいた。
巡回する兵士の数が増え、厳重な警備がされている第一区の入り口まで来てやっとアリエスはロッシュの家へ向かっているのではないかと思い至ったが、それだけだった。
第一区でもアリエスが通るための手続きをしたので、これからいつでも第一区の門を潜ることが出来るようになった。
彼女が第一区に入れるのは、ロッシュの孫娘扱いというのもあるが、ルナラリア王国から渡された推薦状を持っていたからでもある。
第一区に拠点を構えるロシナンテのメンバーは、第一区に足を踏み入れるということもあって全員が貴族への対応が問題ないと判断されたゴールドランク以上なのだ。
つまり、未だにブロンズランクのアリエスは一番の下っ端になるのだが、彼女はロシナンテに入ることを一切考えていない。
ロッシュは、アリエスの部屋を自身が設立したクランの拠点に用意はしたが、クランへの加入を強制したりはしない。
孫娘と一緒に暮らしたい、それだけなのだ。
やがて馬車がゆっくりと停止し、目的地に到着したことを告げる。
馬車から降りたアリエスの目の前にはオシャレな2階建ての洋館があり、玄関口にはそのオシャレさと全く合っていない
その青年に、にこやかな視線を向けたロッシュは、アリエスの背に手を添えると「彼がクラン"ロシナンテ"のリーダー、マテウスです」と紹介した。
アリエスは、テレーゼから弟がクランリーダーをしていると聞いていたので、「あれがテレーゼの弟かぁー。似てねぇな」と思っていた。
と、ここでふと疑問に思ったアリエスは振り返ってロッシュを仰ぎ見た。
何故にクランリーダーのマテウスを紹介されたのだろうか、と。
アリエスは、元王女としての教育も受けていた。
「目下のものから目上のものへ声をかけてはいけない」、とされており、それらは身分を持っている者に適用されるのだ。
つまり、ロッシュがアリエスにマテウスを紹介したということは、アリエスの方から自己紹介をしなければならないのだ。
どうしてブロンズランクのペーペーからクランリーダーへ挨拶をしなければならないのか疑問に思ったが、ここはアリエスクオリティ、いつもの無頓着さて流してしまった。
「えと、はじめまして、アリエスです」
「あ、ああ、クラン"ロシナンテ"のリーダー、マテウスだ」
「…………。」
「…………。」
「いや、お前ら他に何かないんかいっ!?まあ、いいか。アリー、先に部屋を見に行くか?」
「え、あ、そうだね、ハインリッヒさん。んじゃ、今から四区まで戻ろっか」
「四区?」
「うん。私の部屋を用意してあるってロッシュが言ってたじゃん」
「お、さっすがロッシュじゃーん!一区まで戻んのも面倒なときあるよなー。四区に
ハインリッヒとアリエスのやり取りを聞いてロッシュは固まってしまった。「第四区にも部屋を用意するという心遣いが足りていませんでした。執事失格です!!」と。
違う、そうじゃない。
誰かツッコミを入れてくれ。認識を正してくれ。
アリエスは、「用意された部屋」というのが第四区にあると思い込んでいるだけなのだ。
ああ、このまま馬車に乗り込んで行ってしまうのだろうか。
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