第四話 るんるん

 バルトが盾で押さえ、クイユが注意を引き、アリーたんがブッ叩くを繰り返して遊ん、ゲフンゲフン、討伐を終えたのだが、トドメはアリーたんの放った氷の矢だった。モーニングスターでいくら叩いても無駄だったため、魔石を利用した魔法も放ってみたが、やっぱり素材がダメになりそうで、結局その機能は今回も使えなかった。

そして、いい加減飽きたアリーたんが魔法をブッパして終わらせたのだが、相変わらず短気である。


 討伐し終えた魔物をバルトとクイユで天幕の近くまで運び込むと、ブラッディ・ライアンが血抜きをし、手際良くアドリアが解体用の道具を広げ、バルトと共に解体を始め、取れた素材をミストがブラッディ・ライアンと仕分けていた。


 一連の作業を呆気に取られながら見ていたモヒカンリーダーは、愛らしい笑顔を浮かべているにもかかわらず、物凄く口が悪いアリエスにちょっぴり引き、討伐し終えて、まるでデートでもして来たような嬉しそうな顔で戻って来た彼女にドン引きしていた。


 しかし、リーダーとしての経験からそれどころでは無いと判断し、この素晴らしく連携の取れた奴隷たちが誰を意識して動いているかに気付き、アリエスに話をしようとしてロッシュにはばまれた。


 にこやかな人の良さそうな顔をしているロッシュだが、目は笑っておらず、「アリーたんに、近寄らないで下さいねぇ?」と態度で語っている。


 そんなやり取りがされている向こうでアリーたんは、テレーゼが用意してくれたジュースをごきゅごきゅ飲んでいる。ベアトリクスの背中にもたれて。


 そう、ベアトリクスは戦闘には、たまにしか参加しないのだ。


 転生者特典の中にあったスクロールには書いてあった。

ボッチには、ならないと。


 戦闘に参加してくれるとは書かれていなかったことから、それは召喚獣の性格に左右されるのだろう。

ベアトリクスは、癒し枠だったのだ。


 ちなみにサスケは、荒野の風に飛ばされて転がるので、ベアトリクスと待機しているが退屈そうである。


 荒野の雰囲気を満喫し、ひと暴れして満足したアリエスは、「ん。じゃ、出発!」と宣言した。


 モヒカンリーダーは、執事らしき人物が接触を阻んできたことから、アリエスのことをどこぞのお嬢様だと判断し、これ以上粘って接触を試みるのは止めた方が良いと思い、ハインリッヒに別れを告げようとしたのだが、そのハインリッヒのそばにアリエスがいる。


 そんなモヒカンリーダーの心情など知らないアリエスは、ハインリッヒにモヒカンリーダーのことを聞いていた。

人見知りスキルが発動してはいるが、見事なストライプ柄モヒカンにウキウキはしているのだ。


 しかし、それを面白く思わないが表情には出さないロシナンテのメンバーたち。

ハインリッヒは、アリエスが気に入る人数が増えることは歓迎するタイプなので、にこやかに説明している。

 だから、親戚のおじちゃんポジションなのだが。


 パーティー"アントワーヌ"のメンバー全員が仲の良い兄弟姉妹なのだが、少し関係は複雑なのだ。

パーティー名にもなっているリーダーの母アントワーヌが最初に結婚した男の連れ子である異父姉、そして、離婚して再婚相手との間に出来た異父弟妹、更にまた離婚して子連れの男と再婚、その相手との間に出来た異父弟妹と再婚相手の連れ子(男)で合計7人兄弟なのだ。


 血縁で構成されているパーティーはそこそこあっても、さすがに7人全員が兄弟姉妹というのは珍しい。


 それを聞いたアリエスは、「すげぇー、よく5人も産んだな」という感想だった。

前世で出産が「鼻からスイカを出す」という風に聞いたことがあったアリエスにとって、それを5回も繰り返したアントワーヌ母ちゃんが、とんでもなく凄い人に思えた。


 アリエスは、前世の仁だった頃に兄と姉目当ての人に擦り寄られ鬱陶しい思いを多々したことがあったため、そういう風に下心ありで寄ってくる人や妙に慕ってくる人に対して苦手意識がある。

そのため好意全開で寄ってきたロシナンテに懐くのに時間が掛かったのだが、モヒカンリーダーはロッシュに阻まれたこととアリエスの態度で距離を取ったため、あまり苦手意識が出て来ず、ちょっと興味を持てたのだ。


 追いかけると逃げるくせに距離を置くと寄ってくる。野良猫か。だが、たいがいの猫は、ちゅるちゅるを与えると寄ってくるので楽だぞ。


 アントワーヌのメンバーたちは、荒野の巡回依頼を受けているので、ここで一旦お別れになる。

そのうちロシナンテの拠点に訪ねて行くと言い、去って行ったので、アリエスはハインリッヒの後ろから小さく手を振った。


 ちなみにモヒカンリーダーがアリエスに聞きたかったのは、これほど連携の取れた奴隷をどうやって手にしたのか、もしくは、連携させているのか、だったので、普通に「いいもん持ってんじゃねぇか」という賞賛であって、寄越せという意味ではない。

それをハインリッヒは分かっていたのでアリエスに「いい奴」だと説明していたのである。


 というか、7人兄弟の長男であるモヒカンリーダーは、ちみっ子の扱いには慣れているため、アリエスが懐くのも時間の問題だろう。




 

  


 

 

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