第三話 あと少し
無頓着なアリエスをリーダーにした旅の一行は、ダンジョン都市ドリミアの手前にある荒野にいた。
この荒野は、昔々にダンジョンから魔物が溢れて喰らい尽くされたことで更地になった場所なのだが、討伐によるものと魔物が互いを喰らったことで、魔物の血が大量に流れたのだ。
そのため大地が汚染され、生き物が住めない土地となったのだが、その範囲を少しでも狭めようと、ダンジョン都市の領主が代々主導して、大地の浄化を進めている。
ダンジョンで手に入る素材、そこから得られる金と名声、それを目当てに集まる人々が増える一方なので、都市に人が入りきらなくなる前に、住める土地を少しずつ確保しているとロッシュから聞かされたアリエスは今、雰囲気を楽しみたいと荒野のど真ん中にて天幕を張って、そこでティータイムをするという頭のオカシイことをやっている。
天幕の外側はそこそこ強い風が吹き荒れているのだが、ロシナンテ所有の天幕はビクともしない優れものなので出来ることだ。
敷物に座り、ローテーブルには温かい緑茶とみたらし団子が置かれているが、決してここは縁側でない。魔物が
「10階建ての共同住宅もございますが、そこも満室になりかけておりますからねぇ」
「うぁ、マジか。ディメンションルームあって良かったー。あ、ロッシュたちは自分の家があるんだよな?だったらさ、どっかの壁を貸してくれねぇ?んで、そこに扉を展開したいんだけど、ダメかな?」
必然的に上目遣いになったアリエスが少し不安そうにロッシュを見つめるものだから、可愛くて仕方がない。
そんなアリーたんにロッシュは膝をついて目線を合わせると、「既に
そんなロッシュにアリエスは、「マジで!?どこに?家賃いくら?広さは?」と矢継ぎ早に質問をしたのだが、家賃はいらないと思うぞ?ロッシュの持ち家なのだから。
楽しそうにアリエスを見つめるロッシュは、「着いてからのお楽しみです」とウインクした。
やめろ、流れ弾がテレーゼにあたったぞ。しかも、鼻血出てるぞ。
テレーゼが何事も無かったかのように鼻を拭き終えると、こちらに向かって来る一団が視界に入った。
他の者たちもそれに気付いており、警戒を強めた。
だが、やって来たのは、どうやらロシナンテとは顔見知りのようだった。
一団のリーダーと思しき男性は、赤と青のストライプ柄のモヒカンをしており、柄の長いメイスを背負っている。
モヒカン男は軽く手を上げると、「よぉ、どこのイカレポンチかと思えば、まさかのロシナンテかよ!」と言ってニヤリと笑い、それに対してハインリッヒが答えた。
「おお、アントワーヌのリーダーじゃねぇか。どうした?」
「いや、どうかしてんのはそっちだろうよ。何でこんな荒野のど真ん中に天幕張ってんだよ。しかも、なんだ?ティータイム中か?本気で頭の心配すんぞ」
「失礼な。アリーが雰囲気を楽しみたいっつーからに決まってんだろ?俺たちは、まともだよ!」
「アリー?」
アリエスのことなど知らないアントワーヌのリーダーは、首を傾げた。
ちなみに彼らは、どこのクランにも所属していないので、アントワーヌはクラン名ではなくパーティー名である。
アントワーヌのリーダーを見たアリエスは、「すげぇーーー!」と思っていた。
何に、といえば、赤と青のストライプ柄のモヒカンに、である。
この世界は髪と瞳に所持属性の色と能力の高さが出るため髪を染めるようなことはしない。
つまり、目の前の彼は天然カラーでストライプ柄なのだ。
何に感動してキラキラしているのかロッシュには分からなかったが、アリーたんがはしゃいでペシペシと彼の腕を叩くものだから、段々と顔がだらしなくなっていっているので、誰か止めてあげてほしい。切実に。
そんな和やか……か、どうかは分からないが、雰囲気をブチ壊すような咆哮が轟いた。
一気にピリピリとした雰囲気になり、全員が気配を研ぎ澄ませ、周囲を警戒し、とある一点を見つめた。
その方向には、少し足の長いサイのような見た目をした魔物がこちらへ走って来ているのが土煙の隙間から見える。
アリエスもそれに気付くと、「おー、お客さんのお出ましか?んじゃ、歓迎してやらねぇとなぁっ!」とニヤリと笑った。その笑顔、父ちゃんソックリ……じゃなかった、プライスレス。
真っ白で派手なモーニングスターを担いだアリエスに驚きの目を向けるアントワーヌのリーダーだったが、あっちの対処が先だとハインリッヒに話しかけた。
「アレ目当てでここに張ってたんなら、こっちは手出ししねぇが、どうなんだ?」
「いや、ふつーに茶を飲んでただけなんだが、手出しはいらねぇよ」
「そ、そうか」
まさかのガチで茶を飲んでいただけだったことに引き気味になるモヒカンリーダー。
だが、彼は、この後もっと引く展開を見せられるだろう。
何故ならば、こちらに走り寄って来る魔物が尋常な硬さではないとハインリッヒから聞かされたアリエスが、モーニングスターに付属している色とりどりの魔石を試し打ちし始めるからである。
テンション上がりまくったアリーたんが、「うるぁあーーー!!」と、ヤンキー全開で魔物をブッ叩くまで、あと少し。
そして、モヒカンリーダーがドン引きするまで、あと少し。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます