第八話 真実は胸の内に
合流を果たしたハインリッヒだったが、既にアリエスの中では親戚のおじちゃん枠に入っているので、何の躊躇もなくディメンションルームへと招き入れられた。
ぽかんっとするハインリッヒをハンカチ噛んで「キィーーー!!」とでもやりそうな顔で見ているのは、アリエスがハルルエスタート王国を旅立ったときからお供しているロシナンテのメンバー、ハンナである。
自分たちは懐いてもらうのに随分と時間を要し、ディメンションルームへも入れて貰えたのだって、つい最近の出来事なのに、と。
ただ、ハインリッヒに用意されたディメンションルーム内にあるコテージの部屋は、ロシナンテのメンバーたちと同じフロアだったので、内心ちょっとホッとしている。
これでアリエスと同じフロアだったら、彼女にバレないようにハインリッヒをフルボッコにしようと考えていた。
さすがにアリエスは、そこまで心を開いていないので安心してほしいが、それはロシナンテのメンバーにも言えることなのである。
ハインリッヒにも、今アリエスたちが抱えている状況を話し、依頼は一応「ロシナンテ」として受けたので、クランハウスまで知らせに行ってほしいと頼んだのだが、この世の終わりのような顔をしたので、勘弁してあげた。ロッシュが。
クラウディオと連絡がつき、第一王子の魔力過多症を軽減できる可能性があることを伝えると、すぐに会えることになったので、アリエスは、側仕えにロッシュ、護衛にクイユ、助手にクララを伴って城の奥にある離宮に来ていた。
アリエスたちを案内しているクラウディオは、ロッシュは別にしても彼女たちが城を見てもそれほど興奮した様子がないことに内心首を傾げたのだが、それはそうだろう。
離れとはいえアリエスたちは王宮がある敷地に住んでいたし、クイユに至っては元は貴族だったのでハルルエスタート王国の城に足を踏み入れたこともある。
なので、離宮に入ったからといって目を輝かせて興奮したりはしないだろう。
そして、第一王子が休んでいる部屋へと招き入れられたアリエスたちが見たのは、青白い肌に真っ赤な頬をして熱に浮かされ、苦しんでいる幼い子供だった。
やせ細り、子供特有のぷくぷく感のない様子にアリエスたちは心が痛んだ。
苦しくて藻掻きたくとも、その体力すらない様子にアリエスは急いで万物鑑定を使った。
鑑定で分かったことにアリエスは愕然とした。
魔力過多症であることには違いなかったが、それはここまで深刻な状態になるほどではなかったのだ。
ならば、何故ここまで悪化していたのかといえば、それは魔力回復薬の過剰摂取だった。
4歳の幼子が自分で飲んだとは思えないと判断したアリエスは、先にロッシュに小声で伝えた。
ロッシュはクラウディオにそのことを話すと、血相を変えた彼は控えていた自身の側近を国王のところへ遣いにやった。
第一王子が何者かによって亡きものにされようとしていた、そのことを伝えに行ったのだ。
犯人のことはこの国の人間に任せて、まず魔力を体内から奪うための魔道具を使う許可を貰い、それを第一王子にはめた。
起動スイッチと奪う魔力量を調整できるメモリがついた魔道具は、一気に大量に魔力を奪うと危険な状態になることを防ぐための機能だった。
少しずつ魔道具に設置された魔石へと第一王子の魔力が流れていくのに比例して、彼の荒い呼吸は落ち着いていった。
アリエスは、鑑定しながらその様子を確認し、正常な魔力量よりも少し減らしたところで魔道具のスイッチを切った。
次に
鑑定で見ながらクララに指示を出し、少しずつ治療を施していったのだが、その様子を涙を堪えながら見ていたのはクイユだった。
自分もこうやって治療してもらったのだろうかと、そう思うと心の奥から暖かいものが溢れてきたのだ。
拷問によって受けた心の傷を慰めるように、その暖かいものが広がっていった。
治療を終えて改めてアリエスが鑑定した結果、軽度の魔力過多症、衰弱、栄養失調というところまで持っていけた。
ここまで来れば消化に良く栄養のあるものを食べていれば次第に回復していくだろう。
栄養価の高いものの中には、含まれている魔力が多い物もあるのだが、魔道具を使えば余剰分を身体から抜き取ることが出来るので今後は心配いらない。
しばらくすると第一王子が目を覚まし、「お腹すいた」とほのかに笑ったので、クラウディオの許可を得て、テレーゼ特製ポタージュを与えた。
このポタージュは、この世界の材料で作られているので、第一王子がまた食べたいときには、再び食べることが可能なのだ。
アリエスが用意したお買い物アプリ産の食材は、よほど深刻でない限り出さない方が良いとロッシュが判断したため、インベントリの中に仕舞われている。
第一王子の場合は何者かによって日常的に魔力回復薬が与えられていたために悪化していたので、その元凶が排除されれば普通の食事でも問題はなく、アリエスがアプリで購入した食材を出す必要はなかった。
その後、速やかに調査が行われ、犯人は密かに排除されたのだが、それと同時期、亡き王妃の父親である侯爵が病にてこの世を去った。
何よりも大切にしていた愛娘がひとり寂しく逝ってしまったことを嘆いた父親は、寂しくないようにとその忘れ形見を送ろうとしたために起きた事件であった。
亡き王妃の死因は、産後の肥立ちが良くなかったと表向きにはされているが、暴飲暴食が原因による心筋梗塞だった。
そのためかなり体重があり、棺が物凄く重かった。
それを国王は、「王妃が寂しくないようにと色々と入れたので、棺が重くなってしまったのだ」と誤魔化したため、国王陛下は亡き王妃様をとても愛しておられたのだと広まった。
愛してはいたが、狂おしい程ではなかった。
だが、生まれた第一王子はとても愛らしく、そちらは溺愛していたのだが、その姿は先代王妃に似ている。そう、ただのマザコンである。
第一王子が死の淵に立たされた本当の原因は、国王とクラウディオ、そして、侯爵の跡を継いだ亡き王妃の兄の胸の内にだけ留められた。
第一王子の後ろ盾である亡き王妃の実家から、犯罪者を出すわけにはいかなかったからである。
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