第七話 用意するもの

 クラウディオとの話が終わり、ディメンションルームへと帰ってきたアリエス。

その顔は少し浮かない様子であった。


 魔力量を増やすために普段から魔力を全開で使用しているアリエスにとって、魔力を含まないお買い物アプリで購入する食品は、ただの嗜好品でしかなかった。

減った魔力を回復させるには、魔力回復薬を飲む他に、自然に回復するのを待つか、魔力を含んだものを摂取するくらいしかないからだ。


 料理を作ってくれるテレーゼたちの腕が良いのもあるが、この世界には美味しい物や調味料だってあるので、アリエスはそんなに困っていなかった。

ただ、デザート類は格段にお買い物アプリで買う方が安くて美味しい物が買えるし、最近ではお酒も買うようになっていた。


 というのも、前世の仁だった頃は酔うとキレやすくなり、機嫌が悪いと暴れることすらあったので飲まないようにしていたのだが、アリエスになってからそんなことは起こっていない。

大人しく楽しく、周りに迷惑をかけずに飲めるようになったため、お買い物アプリで好きだったお酒を買い始めたのだ。


 ちなみに暴れたところで仁は華奢で小さかったため、一緒に飲んでいた兄の康一に片手で仕舞われていたが、相手をするのが面倒になったのか康一から「飲むな」と言われて禁酒していた。

仁はいい子だったので、お兄ちゃんに言われると素直に言うことを聞くため、禁酒はそんなに辛いとは思っていなかったし、そのうち飲まないことに慣れてしまっていた。


 浮かない顔をしたアリエスはロッシュを見上げると、「バレずに助けられるかな?」と問うた。


 「アリエスアリー様がスキルで買われる品物には、魔力が含まれていないのでしたね。ルナラリア王国の国王陛下が本当にその第一王子殿下を溺愛されておられるのでしたら、手を貸す代わりにアリエスアリー様のことを秘匿していただくよう交渉することは可能かと存じます」

「そっか。その辺はロッシュに任せる。でも、私は用意するのは構わないんだけど、それじゃあ何の解決にもなんねぇよなぁ……。あ、王子様って鑑定しちゃダメかな?何か分かるかもよ?」

「そうでございますね。見て差し上げるのも良いかと思いますよ」


 アリエスに聞こえないほどの声で「アリーたんに鑑定してもらうとか、なんて贅沢な」というロッシュのつぶやきは、獣人族のバルトとアドリアの耳にしっかりと届いていた。


 そういえば、とアリエスはブラッディ・ライアンを探し、魔力過多症になっている幼児から魔力を奪うために、安全な魔道具を作れるのかを聞いた。


 「僕なら作れるし、パパも今みたいに頑張っていれば、そのうち作れるようになるよ?」

「そっか。じゃあさ、アルケミュラント家のヤツらは?」

「フッ、無理だね。今のアルケミュラント家のヤツらは正当な跡継ぎじゃないから、『お父さん』が遺していった道具で使えないものがあるもん。恐らく奴隷相手に使う雑なものなら、その道具を使わずに作れるだろうけどね。でも、そんなことをすれば使われた方は長生き出来ないよ?」

「んじゃ、ライアン。安全なやつ、一つ作っておいてくれるか?」

「いいよ。作りながらパパにも教えてあげるね」


 ミストの膝の上で、彼が魔道具を作るのを見守りながらアリエスと話していたブラッディ・ライアンは楽しそうに笑った。

思ったよりも早くミストの生まれた家、アルケミュラント家が窮地に立たされそうだとほくそ笑んでいるようだ。


 クラウディオの話で第一王子殿下が吐血したということも聞いたアリエスは、消化に良いものも用意した方が良いかと、カップスープ味のパン粥も候補に入れた。

といってもアリエスの頭にあるのは、お湯でといたカップスープの中にトーストをちぎって入れたものなので、料理はテレーゼに任せた方が良いと思うぞ。


 ブラッディ・ライアンが魔力を吸収する魔道具を作るのはディメンションルーム内なので、そのまま作業しながらアリエスが移動しても問題ないため、魔道具作りと並行してルナラリア王国王都へと移動することになった。


 魔力過多症は、恐らく病気のカテゴリーに入るのではないかと考えたアリエスは、第一王子殿下に会うことが出来ればクララも連れて行こうと思っていた。

今回の件に関しては、お買い物アプリに売っている医学書ではアテにならないのだが、アリエスの万物鑑定で何か糸口が掴めれば、それを元にクララに治療してもらえる可能性があるためだ。


 準備を進めながら王都へと着いたアリエスたちは、クラウディオと連絡がつくまで観光をしていたのだが、何やら聞き覚えのある声がアリエスを呼んだ。


 「ん?あ、おじちゃんだ!!」

「ごっふぅ……っ!」


 アリエスにおじちゃんと呼ばれたハインリッヒは、駆け寄った勢いのままに膝をついたので、そのままの状態でズサーーーっと石畳を滑って通り過ぎて行ってしまった。

そんなハインリッヒを見たアリエスは、「ズボン大丈夫か?」と割と可哀想なことを考えていた。


 次から次へと仕事を積まれて中々アリエスのところへ行けなかったハインリッヒが、やっと合流できたのだった。

 

 

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