第六話 どうするのか

 大規模マーケットで思いもよらない収穫を得たアリエスたちは、更に東へと進みお隣のルミナージュ連合国の玄関口にあたるルナラリア王国の手前までやって来ていた。


 ハルルエスタート王国の年末年始は4月から始まり3月で終わるため、3月中に国境を越えなければならないアリエスはブラブラすることを諦めてルミナージュ連合国へと入ることにしたのだ。


 ルミナージュ連合国への入国証は、冒険者ランクがゴールドになっていなくても連合国内であれば有効なので、ハルルエスタート王国国民の籍が3月いっぱいで無くなるアリエスは、今月中に連合国であるルナラリア王国に入りさえすれば、いつでもダンジョン都市ドリミアまで行けるようになる。


 そんなアリエスは国境を越える手続きのために出入国窓口がある場所にやって来ていた。

ここにいるロシナンテのメンバーは全員ゴールドランク以上で、奴隷はあるじの持ち物にカウントされるため、手続きが必要なのはアリエスとロッシュ、テレーゼの三人だけである。


 入国理由を聞かれたが、ロッシュとテレーゼは自分の家があるダンジョン都市ドリミアへと帰るためだし、アリエスは祖父について行く孫娘の状態なので何事もなく審査は通った。


 手続きを終えて帰ろうとしているアリエスたちに、というよりはロッシュに声を掛ける人物がいた。

平民のような格好をしているが、そこそこ良い身なりと立ち居振る舞いからあまり平民には見えないが、お忍びなのかもしれないと察したアリエスは黙って成り行きを見守った。


 「ロッシュ殿とお見受けするが、間違いないだろうか?」

「ええ、左様でございますが、もしや……」

「ディオだ。久しぶりだな」


 このディオと名乗った身なりの良い男性の本来の名はクラウディオというのだが、お忍び感満載なのを察してロッシュは自身が知っているこの男性の名を口にしなかったのだ。


 と、ここで、アリエスの人見知りスキルが発動され、ロッシュ盾を構えた。

単にロッシュの背にコソっと隠れただけなのだが。


 アリエスの様子に気付いたロッシュは、優先するのはアリーたんだと判断し、ディオと名乗った男性に別れを告げようとしたのだが、何故かディオは食い下がってきた。


 何やら切羽詰まったような雰囲気にアリエスは、「話くらいなら聞いてあげても良いんじゃ?」と思いロッシュの服をツンっと引っ張ったのだが、そんな事をされればロッシュが喜ぶだけである。


 アリエスに可愛らしい行動をしてもらえたことに免じてディオの話を聞く気になったロッシュ。

視線に「アリーたんに感謝しろよ?」という感情を乗せるロッシュに困惑するが、話を聞いてもらえるならとディオはその困惑を流した。


 話を聞くにあたってゾロゾロと連れ立って行くのも目立つので、アリエスを筆頭に、彼女のそばを離れたがらない側仕えロッシュとテレーゼ、護衛に元貴族だったクイユ、ロシナンテのメンバーからチェーロが同行することになった。

ロッシュに用事があるはずなのに、巻き込まれたアリエスは遠い目をしている。


 やって来たのは、ディオが泊まっている宿なのだが、やはり身なりの良さからいって高級宿だったことに少し安堵しているアリエス。

きちゃない宿だったらダッシュで逃げてやる!とか思っていたのである。


 周囲に人の気配がないことを確認したディオから告げられたのは、ルナラリア王国の亡き王妃が産んだ第一王子についてだった。


 その第一王子は魔力過多症といって、自身の魔力が満タンであるにもかかわらず、身体が魔力の生産を止めないので、許容量を超え体内に渦巻く魔力に四六時中苦しみ、先日とうとう吐血したというのだ。


 「陛下は、今でも亡き王妃様を愛しておられ、忘れ形見である第一王子殿下を溺愛されておられるのだ。ここで殿下まで身罷るようなことがあればどうなるか……。それに、殿下はまだ4歳におなりになったばかりで、上手く魔力を放出することも叶わず。治療法はまだ見つかっていないが、対処療法として安全に魔力を奪う魔道具を作ってくれないかとフユルフルール王国に秘密裏に依頼に行っていたのだ」

「依頼は受けていただけたのですか?」

「ああ、錬金術師として有名なアルケミュラント家に依頼をしてくれると確約していただけた。その話を持ち帰るための帰路につくところだったのだが、冒険者ギルド所属クラン"ロシナンテ"にも別の依頼を出そうとしていたところだったので、ロッシュ殿に会えて良かった」


 その依頼というのは、魔力をあまり含まない食料を探してほしいというものだった。

過剰に生産される魔力はどうしようもないが、せめて食品に含まれる魔力を減らせれば軽減されるのではないかと、温室まで建てて魔力をなるべく遮断した状態で野菜などを育てているのだが、魔力が少ないと育ちが悪く、どうかすると枯れるか枯れなくとも栄養価の低いものしか出来なかった。


 ならば、既存のもので魔力含有量が少ないものを食べさせるしかないと、信頼のおけるクラン"ロシナンテ"に依頼することになったのだ。


 この世界には魔力が満ちている。

つまり、生きとし生けるもののほとんどに魔力が含まれているのだが、品種によってその含有量も上下するので、その中でなるべく魔力が少ないものをということだった。


 この話を聞いてロッシュをちらちら見るアリエス。

彼女が前世でいた世界に魔力は無かった。

 つまり、アリエスがお買い物アプリで購入する食品に、魔力は一切含まれていないのだ。


 どーしよっかなぁと悩むアリエスであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る