閑話 フユルフルール王国

 アリエスたちがルナラリア王国で一仕事終えた頃、フユルフルール王国の城では国王の怒号が響き渡っていた。


 ルナラリア王国から魔力過多症の患者のために、安全に魔力吸収するための魔道具を早急に作れないかとの打診があった。

その話を受ける代わりにフユルフルール王国は、ルナラリア王国へ食糧支援を求め、その話を詰めるために相手国側の外交官がまもなく到着するという段になっても、その魔道具が出来上がっていなかったのである。


 憎々しげに顔を歪めたフユルフルール王国国王は、此度の案件を担当している者を怒鳴りつけ、いつになったら出来上がるのかと問いただしたのだが、その担当者は冷や汗を拭いながらのらりくらりとかわすだけだった。


 魔道具作成を依頼されたアルケミュラント家では、当主が癇癪を起こしていた。

言われた通りに魔道具を作ったのにもかかわらず、どれもこれも認められないと言われたからだ。


 今回依頼したのは、奴隷などに使うものではなく、「やんごとなきお方」が使われるものなので、安全性が十分に確保されていないものは認められないのだと、国の役人から再三に渡り注意されていた。

だが、今のアルケミュラント家の当主ではその性能の物が作れないのだ。


 それもそのはず、今の当主は正当な跡継ぎではないのだから、初代が遺していった道具も使えないし、継承されてきた叡智も持っていない。

つまり、錬金術師ではなく、ただの魔道具職人なのだ。


 この状況を訝しんだ宰相が国王に暗部を使って秘密裏に調査をするべきではないかと進言したことで、とある事実が発覚した。


 フユルフルール王国王家は、アルケミュラント家が代々血縁のみに知識を継承させていることを把握しており、それを国外へ出さないために早い内にアルケミュラント家を叙爵し、国に縛り付けていたのだ。


 途切れたアルケミュラントの血を再び入れるための婚姻で嫁いだ正妻は亡くなっており、その正妻が産んだ正当な跡継ぎは養子に出された先から行方が分からなくなっている。

しかし、アルケミュラントの血を持つのはその子だけではないので、正妻の実家から養子を取れば良いと判断した国は、今のアルケミュラント家当主と側室を反逆罪で捕縛し、連座で側室が産んだ子も一緒に連行した。


 アルケミュラント家の亡き正妻の実家から、一人の男性がアルケミュラント家へと連れて来られたが、彼は魔道具作りや錬金術とは何の関わりもなく育ってきたため途方に暮れていた。

それでも国の命令だと自分に言い聞かせ、国から派遣されて来た監視人に見られながら家の中や作業部屋などを見て周り何とか取っ掛りを掴もうとして、とある日記を見つけた。


 それは、彼の曽祖父が書いたと思われる日記で、そこには「祖父が亡くなり、私も叡智を引き継ぐためにこれを行わなければならなくなったのだな。いくら叡智を引き継ぎ国に貢献するためとはいえ、亡き祖父の遺体を『ブラッドアイアン』で貫くというのは辛いものだ」と書かれており、そのブラッドアイアンと呼ばれる剣とアルケミュラント家の血を継ぐ者の新鮮な・・・遺体がなければ、どうにもならないことを知った彼は、その日記を持って監視人の元へ行った。

 

 監視人からそのことが国王の元へと報告され、「ブラッドアイアン」と呼ばれる剣を家中探したのだが、どこにも見当たらなかった。

反逆罪で投獄されている元アルケミュラント家当主や側室、その息子に、ブラッドアイアンをどこへやったのか連日に渡り拷問が繰り返されたが、何の成果も得られなかった。


 この件に携わった者の中から、養子に出された正妻の息子が持ち出したのではないかとの意見も出たため、更に詳しい調査が行われた結果、奴隷として売られ既に買われた後だった。


 何としてでも誰が買ったのかを突き止めろと言われた暗部は、情報を手繰り寄せ、ついに購入した人物と共にいた中にルミナージュ連合国ダンジョン都市ドリミア領主のところにいた元執事ロッシュに辿り着いた。


 そして、そこから購入したのが「アリー」という名の冒険者だと判明したため、その冒険者に接触するための人員が派遣されたのだが、なかなか接触できなかった。


 そのため未だに魔力を安全に吸収する魔道具は作れずにいるのだが、そうこうしていてるうちにルナラリア王国から「魔道具の件に関してですが、それほど急ぐ事態ではなくなりましたので、安全性を重視していただければ幸いです」と連絡が来てしまった。


 つまり、「やんごとなきお方」の症状が良くなった、もしくは改善できる何かを手に入れた可能性があることに思い至ったフユルフルール王国国王は、ルナラリア王国がブラッドアイアンを所持したアルケミュラント家の息子を確保したのではないかと考えた。


 そこでフユルフルール王国国王はルナラリア王国に対してアルケミュラント家当主が反逆罪で投獄されたことから、そちらにいる同家の子息を差し出すように要求したのだが、ルナラリア王国側からすれば寝耳に水の話で言い掛かりをつけられたとして、魔道具の件と合わせて食糧支援の話も引き上げてしまった。


 後手後手に回ったことと世界に誇る錬金術の流出でフユルフルール王国国王が焦った結果だった。

これによって、影で老害と蔑まれていたフユルフルール王国国王は王太子にその位を譲るはめになった。


 フユルフルール王国王太子は、即位式の式典の招待状とは別にルナラリア王国へ謝罪の文と品を送り謝意を示し、即位式の準備と並行して冒険者アリーを探させていたのだが、それをハルルエスタート王国に知られてしまい、白目を剥いた。


 うちの娘に何か用かのぅ?と、戦場の悪魔がニタリと嗤ったのだった。


 


 




 

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