第四話 それはそれで良い

 アリエスに買われた奴隷ミストの所持属性は、「錬、水」であり、れんとは、金属をねり鍛えることを指すのだが、アリエスはあまりよく分かっていない。


 れん属性があれば、金属と他のものを混ぜ合わせて練り上げられるので、フラスコなどでコポコポやったりマッドサイエンティストみたいなことはしなくて済むのだが、よく分かっていないものを何故買ったかといえば、面白そう、それにつきる。

万物鑑定でじっくり調べれば分かることだろうし、使い道のない属性だったとしてもお手伝いさんとして働いてもらえば良いと判断したのである。

 クイユの元異母兄のおちょくり代としての意味合いもあるが、アリエスはそれを口にするつもりはない。


 そんなミストは今、ディメンションルーム内にて真っ裸の幼児に「パパぁーーー!!」と抱き着かれている。


 どっから湧いて出たのだろうか、この幼児は。


 ことの起こりは、朝目覚めたアリエスの机の上から始まった。


 大規模マーケットに行ったあと、久々に狩りをしようと、ここ数日はお外でヒャッハーしていた。

そして、いつものようにブラッドアイアンを使用した後インベントリに入れようとしたのだが、何をどうやっても入らなかったのだ。

入らないものは仕方がないと、部屋の机の上に布に包んで置くことにしたのだ。


 鑑定で見てみても特に変わった様子はなかったので、そのまま使用しており、前日も狩りをして使ったが問題はなかった。

だが、今朝になってアリエスが起きてみると、机の上に真っ裸で座る3歳くらいの男の子がいたのだ。


 ビックリである。

アリエスは、机の上に刃物が置いてあったことに思い至り急いで男の子を保護しようとしたのだが、捕まえられる!とでも思ったのか、その男の子は走って逃げてしまった。


 3歳にしては、しっかりした走りだった。


 そんな男の子が走り去った先にいたのが、朝食の準備を手伝っていたミストだったのである。


 追いついたアリエスはミストに、「いつの間に子供産んだんだ?」と問いかけたのだが、ミストは、「僕、産んでませんよ!?」と叫んだ。


 何か色々と違う気がするが、アリエスはわざとボケているし、ミストは真面目に返している。


 何にしても、先に朝ごはんを食べようということになったのだが、ここでまた衝撃発言が。

その男の子は、バルトからオムレツと目玉焼き、どちらを食べるかと聞かれ「僕、パパがいい!」と答えた。


 最初は、「パパとじゃなきゃお話しないもん!」という風に周囲は受け取った。

そのため、ミストがどちらがいいか再度聞き直したのだが、やっぱりパパがいい!!としか返さない。


 とりあえずアリエスは、勝手に入って来られないはずのディメンションルーム内に湧いて出た子供の正体を手っ取り早く調べるために万物鑑定をした。


 その結果アリエスは、「お前には後で魔物の肉をやる。ミストを食うことは許さん。勝手なことをすれば溶かすぞ!」とピシャリと言い放った。


 それを聞いた男の子は、「ちょびっと、ちょびっとでいいの。ほんのちょびっとだけパパの血がほしいの」と目を潤ませたので、渋々ほんの少しだけミストに指先を切らせて血をスプーンに垂らして与えたのだ。


 契約完了である。


 3歳くらいの男の子、改めブラッディ・ライアンの正体は、ブラッドアイアンだった。


 ブラッディ・ライアンは、自身がホムンクルスのようなものだと語った。


 愛し合う両親の間に生まれた一人息子、ライアン。

ライアンの母は彼を命と引き換えに産んだのだが、そのライアンも3歳で亡くなってしまった。


 愛する妻が遺した子まで失った父親は狂った。

そして、自身が持てる全てを注いで作り上げたのが、ライアンの遺体と金属を混ぜ合わせた「ブラッドアイアン」だった。


 ホムンクルスを作るにはライアンの遺体では足りなかったため、ライアンの血族を糧に成長し、完成体になるように仕上げた。


 そのため、父親は遺言に「当主の遺体をブラッドアイアンで貫いてほしい」と書き残した。

その儀式をしなければ彼の叡智を引き継げないようにしたため、跡を継いだ彼の弟や、その子供たちも代々それに従ってきた。


 それがミストの生まれたアルケミュラント家の始まりだった。


 だが、現当主はアルケミュラントの血を引いておらず、そして、先代当主が亡くなったことで、その家に血族は誰一人としていなくなった。

そのためブラッドアイアンは、血を、そして、父を求めた。


 「パパは、どこ?」と。


 今まで蓄えた力を使いブラッドアイアンは、家を飛び出した。

もうすぐで完成体になれるという所だったので、夜の闇に紛れて刃物の柄を人の足に変えて走ったのだが、目にした者がいれば悲鳴をあげただろう。


 しかし、それも長くは続かず蓄えた力も底を尽きかけたところで、身体を液状化させて地面を這って移動した。


 それでもパパは見つからず、体積も地面に少しずつ削られてしまい、これではパパを見つけられるまでに自分が消えてしまうと、手近にあった木に自身をめり込ませることで機会を窺うことにしたのだ。


 そのめり込ませた木というのが、露天の縁台だった。

そしてアリエスに回収されたのだが、与えられるのはパパではなく魔物の血ばかり。


 そうはいっても、今までは当主の遺体のみだったのが、連日のように狩られる魔物の血で、ブラッドアイアンは急速に育った。


 しかし、魔物の血だけではライアンにはなれないのだが、ここで狩りをした際にアルケミュラント家の血筋であるミストが怪我をして、その血が微量に混ざっていた。

その混ざった血を吸収した瞬間ブラッドアイアンは、ホムンクルスの域に入ったため、インベントリへ片付けることが出来なくなったのだ。

 

 そして、魔物の血を吸収し続け必要量に達したブラッドアイアンは今朝、ブラッディ・ライアンというホムンクルスに進化し、念願叶ってパパミストと契約を果たしたのだった。


 ライアンの血族のみで育てば完璧なホムンクルスになったのだが、アリエスが魔物の血を与えたために半魔物化してしまった。

しかし、そのおかけで従魔としてパパと契約できるようになったため、それはそれで良いと嬉しそうにミストの膝の上で笑うブラッディ・ライアンであった。


 

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