第二話 見ぃつけた!

 外が寒いと言ってもご当地グルメや土産物は見たい、ということでアリエスは頑張って馬車に乗っていられるようにヒート技術が施された下着や靴下、ローブの下にダウンジャケットを着たりしている。

風が直接当たる御者はもっと寒いだろうと、ヒート下着とダウンジャケット等の他にホッカイロも渡してある。


 御者よ、嬉し涙が凍りそうになっているから、喜びの涙はベッドに入ってからをオススメするぞ。


 ご当地物を見るだけでも楽しいのだが、たまに掘り出し物があったりするので、それを目当てにもしているアリエスのインベントリには、ブラッドアイアンという真っ黒で錆びた感じの鉄杭が片付けられている。


 そのブラッドアイアンを見つけられたのは、アリエスが鑑定しながら歩いていたからなのだが、本来は売り物ではなかったのだ。

露店の縁台にブッ刺さっているだけで、店主はそれに気付いていないと判断したアリエスは、そこの露店で「コレ全部ちょーだい♡」をやった。


 店主は驚いたもののアリエスが可愛らしかったため、何故に全部?とか、え?縁台ごと?とか、それほど気にせず売ってくれた上に、縁台は古いからとタダにしてくれて、たくさん買ってくれたからと割引までしてくれた。


 魅了スキルなんぞ一切使っていないのに、これである。


 何故それが欲しかったかというと、鑑定の説明に「このブラッドアイアンは持ち主の血肉をすする呪いの杭である」とあり、それを見たアリエスは、「啜るんじゃ、肉は食えねぇだろ。てことは、血抜きにちょうどいいんじゃね?」という、なんとも安易な考えに至ったのだ。


 直接持たず、闇魔法で影を操って杭を持ち、それを仕留めた獲物にブッ刺すとアラ不思議、簡単に素早く血抜きが出来て、美味しいお肉になりました。

ブラッドアイアンから、「そんなぁ〜」という哀愁漂う声が聞こえたような気がするが、きっと気のせいである。


 最近では、血抜きさせ過ぎたのかサイズが大きくなり、爪楊枝つまようじほどだったのが果物ナイフほどに成長した。

それを見ても「お、使いやすくなったな」としか思わないアリエスの無頓着さは、さすがである。


 そんなお買い得品……?があったためアリエスは露店では必ず鑑定しながら歩くようにしているのだが、ここフユルフルール王国は寒過ぎて露店なんぞ、ほとんどやっていない。

市場や身体を温めるスープなどの屋台はあるが、蚤の市のような露店はあまり見かけないのだ。


 しょんぼりしているアリエスの喜ぶ顔が見たいと思った一同は、散開して情報を集めに走った。

奴隷は主人から離れない方が良いので、ロッシュと共にアリエスのぶらり旅に付き合っている。


 戻ってきたロシナンテのメンバーとテレーゼからの情報で、大規模マーケットが月に一度開催されており、それが明日だと知ったアリエスは早々にディメンションルーム内の家に帰って風呂に入って寝た。ふて寝半分、ウキウキ半分である。


 準備万端、意欲バッチリのアリーたんは、マーケットへとやって来た。

人が多いこともあり体感温度は上昇しているように思える。寒いものは、寒いが。


 鑑定しながらブラブラしているアリエスの視界に入ったのは、奴隷コーナーだった。

値札を下げた奴隷がずらりと並べられており、人が商品なのだと嫌でも理解させられる光景であった。


 そこに見覚えのある色を見つけた。

顔が変わってしまっていても髪と瞳の色は変えられないため、それが誰なのかすぐに分かったのだ。


 恐らく、クイユの血縁者……、異母兄なのではないか、と。


 クイユの顔は削がれていたため、元の顔が分からなかったのだが、髪と瞳の色はそのままなのだ。

つまり、影武者が出来るほど異母兄と同じ色を持っているということで、視線の先にいるクイユそっくりな髪と瞳の持ち主は、十中八九そうであろう。


 ニンマリと悪い顔で笑うアリーたん。

何をしようとしているのか仲間たちは視線を追って気付いたようで、邪魔が入らないように陣形を整えた。いや、止めないんかい。


 アリエスはクイユに腕を絡めると、しなだれかかったのだが、クイユも影武者をしていただけのことはあり演技は得意だ。

つまり、それに乗っちゃった。


 普段、絶対に出さないであろう甘い声でアリエスは、「ふふ、見て。クイユと一緒な色だわ」と、異母兄らしき奴隷を指さした。

それに対してクイユは、「ふっ、無様だな。兄だった者よ」と鼻で笑ったのだが、ここで思いもよらない参加者が現れた。


 無表情無口ではあるが、キレイ系のお姉さんであるテレーゼがアリーたんを楽しませるために、自らクイユの腕に手を添えたのだ。

そして、それを見たクララも「追加しまーす」とばかりに並んだことで、ハンナも行った。


 クイユ、ハーレム状態である。


 顔が変わってしまっていても、それが自身の影武者をしていた、見下して利用していた異母弟だと気付いたのだろう。

憎悪の篭った目でクイユを睨みつけ、今にも罵声を上げそうになっている。


 売り主がクイユの色を見て気付いたようで、「これも買わないかい?」と、勧めてきたが小悪魔アリーたんは、「えー、好みじゃなぁーい」と嫌そうな顔をした。

それを聞いて売り主は、「だろうな」と苦笑したのだが、それもそのはず、クイユはクララが今のところではあるが最高傑作な顔に仕上げたイケメンなのだから。


 クイユと同じ火属性を持っている異母兄は、恐らく氷鉄鉱の採掘者に買われ、使い捨ての道具のように扱われてその生涯を終えるだろう。

クイユのように暖かい服や立派な装備を与えられることもなく、満足な食事も得られずに。


 奴隷であるにもかかわらずクイユは肌ツヤも良く、しなやかな筋肉もついていることから、とても待遇が良いのが分かる。

しかも、主人であろう美少女が甘えるような関係でもあるため、日々の生活はとても羨ましいものに思えただろう。


 売り主もこの美少女が嫌がらせをしに来ただけだろうとは思ったが、奴隷の心を折ることも必要なため何も言わない。

元貴族だか何だか知らねぇが、今は奴隷なんだよ!という売り主のイラつきが伝わってくるようである。


 だが、しかし。

アリーたんは、元ヤンキーではあるが、いい子なのである。


 つまり、買いもしないのに嫌がらせをしに来たりはしないので、そこの元おにーさんの隣にいる奴隷を買うつもりでいたのだ。


 それを知って益々、憎悪を募らせる元おにーさん。

そう、お隣にいる奴隷、ヘドロ色に白を足したような、きちゃない髪色をしているのだ。

 白が足されているということは、所持属性の能力が低いと見なされ、貴族だった元おにーさんからすれば「そんな無能を買うぐらいなら、何故俺を買わない!!」といった心境だろう。


 欲しいものを手に入れて、ざまぁ!まで出来たアリーたんは、ほくほく顔でその場を後にするのだった。

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