4 旅の途中
第一話 外に出たくない
アリエスたちが入国したのは、ハルルエスタート王国の東に隣接する国、フユルフルール王国。
国名を聞いたときにアリエスが思ったのは、「ユルユルしてんな」という何とも言えないものだったが、この国はとても寒いのだ。
国境付近はそうでもないが、国の中心部は山から吹き下ろしてくる冷たい風に晒され、真夏でも気温が20℃を超えることはない。
真夏にハルルエスタート王国の王都を出発してから半年ほど経ち、もうすぐ春を迎えるという時期に差し掛かったのだが、フユルフルール王国ではまだ冬
だが、寒いだけで雪が降ったり積もったりというのはないので、白銀の世界という感動もなく、ただ寒い。ひたすら寒い。
そんな国ではあるが、ここでは
この氷鉄鉱を使えば冷蔵庫や冷凍庫も作れるし、冷房装置もイケるので、西側にある帝国ではヨダレを垂らして欲しがる。帝国は、こことは逆にものごっつ暑い!からだ。
ハルルエスタート王国が、フユルフルール王国に攻め入らなかったのは、単に寒くて士気が下がりまくるのもあったのだが、食料支援をしていることで外交では有利に立てているからでもある。
胃袋掴まれちゃったら逃げられないよね。尻に敷かれるよね。母ちゃんコワイよね。
ということなのだが、ハルルエスタート王国側が暴利を
そんなことをすれば嬉々として帝国が攻めてくるからだ。
攻めてきたら来たで、どっかの父ちゃんはヒャッハー!!と前線に躍り出ようとするだろうし、持て余した後宮も喜んで手綱を放すことだろう。
そんなことになれば寝る暇もなく馬車馬の如く扱き使われるのは宰相閣下を筆頭に文官たちなので、これ以上他国と問題が起きないようにしている。ハルルエスタート王国の平和は、宰相閣下の頭上の荒れ地によって成り立っていると言っても過言ではないだろう。抵抗虚しく散って行った
そんなことを簡単にではあるがロッシュから聞かされたアリエスは、「氷鉄鉱かー、あんまし用はないかなぁー」と少し興味無さげだった。
ディメンションルームにインベントリもあるのでクーラーも冷蔵庫も必要ないし、アリエス自身が氷属性持ちなため氷に関してはタダで手に入る。
だが、しかし。お土産は別である。
アリエスはご当地物が好きなので寄った先々で土産物を見て歩いており、インベントリには様々なものが詰め込まれている。
ハインリッヒに会ったら渡そうと思って買ったものもあるのだが、彼がロシナンテのメンバーであることをアリエスはまだ知らない。
旅に同行しているロシナンテのメンバーとも仲良くなれたアリエスは、彼らもディメンションルームへと招き入れている。
というのも、冬に野営するのは可哀想だと思ったアリエスが、ディメンションルーム内に家を建てたことでスペースが広がり、彼らも入れるようになったのである。
家を建てたのはロシナンテのメンバーにいる大工の娘ハンナ。
家の手伝いと称して給金もなく扱き使われたにもかかわらず、女が大工になるなど有り得ないと父親に言われ、ブチ切れて冒険者になったのだ。
大工の娘で、大工仕事もできるが、使用武器は弓である。ハンマーではない。
アリエスが「家建てっかなー」とつぶやいた一言に即座に反応を示し、「是非とも建てさせてほしい!」と懇願した結果だった。
材料はお買い物アプリで購入したので製材済み。
その他にも防音素材など初めて見るようなものが盛り沢山だったため、「親父ざまぁ!兄貴ざまぁ!ひゃははは!こんな楽しいこと一人占め〜!!」と、若干、いや、だいぶ目がイッていた。
そんなイッちゃってるハンナではあったが、腕はとても良く、完成した3階建ての家は文句ナシの出来栄えであった。
もちろん建設費用はロッシュとロシナンテのメンバーが出しており、アリエスは場所の提供をしているだけで十分だとして出させてもらえなかった。
建設の指揮を執るハンナを見てアリエスは、「ハンナがいなくなって困ってんじゃねぇ?」とつぶやいたのだが、正しく困っているだろう。
跡継ぎの長男の手前、あまりハンナを褒めることはしなかったが、仕事が正確で早かった彼女が抜けた穴は大きく、現在は仕事の規模を縮小しているのだから。
ハンナがアリエスの希望に添って建てたのは、ウッドテラスがあるコテージだ。
1階にあるのは、広々としたリビング、そこには組み合わせ自由なソファーが置かれ、思い思いに過ごせるようになっており、その他にはバスルーム、シャワールーム、トイレ、キッキン、奴隷たちの個室がある。
2階はロシナンテのメンバーの部屋など客室があり、3階はアリエス、ロッシュ、テレーゼの部屋と、アリエス専用のお風呂がある。もちろん、ベアトリクスとサスケのキャットタワーが置かれた個室も完備している。
ウッドテラスの外にはロシナンテ所有の従魔たちの休憩スペースもあり、バーベキューも出来るし、石窯も置かれている。
そのうちアリエスも「お外出ないっ!」と言い出しそうである。
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