第九話 オマケしてもらった!

 あまりの臭さに鑑定するのを忘れていたアンネリーゼであったが、途中で思い出し、ここまで通り過ぎたのはいいかと判断したため、元側室のことを知らずに済んでいる。


 とりあえずここから頑張ろうと万物鑑定をしていくと、ロクなものではない奴隷ばかりであるが、粛清の対象になっていた者なのだから当然の結果であった。


 やっと突き当たりまで来た!と、何故かそこに至ることが目的になってしまっていたアンネリーゼの視界に、人というよりは人型の肉塊といった方が合っているようなものが入った。


 恐る恐る案内人を見ると痛ましそうな顔をして、「どんな拷問を受けようとも口を割らなかったのでございます」と、答えた。


 アンネリーゼは万物鑑定をしたからこそ分かった。

この肉塊のような彼が何も言えなかったのは、影武者だったからだ。


 本人と同じ頃に生まれた異母弟である彼は、同じ名前をつけられ、スキルでさえも本人と同じになるように育てられた。

ここにいるのが影武者ということは、罰を受けるべき人が野放しのままなのかといえば、そこは抜かりなく既に捕縛され、売却済みである。


 しかし、ここにいる彼は、影武者をしていたことから同罪と見なされ、こうして治療されることもなく放置されているのだ。


 アンネリーゼは、思った。

クララの練習台にもってこいなのでは?と。


 これ、買っちゃおう!と思って見上げると、案内人はため息をついて頭を振った。

「この状態ですので、お手元に置きたいのであれば、オマケでお付けいたします」

「ん」


 相変わらず鼻を摘んだままのアンネリーゼは、ついに喋ることをやめてしまった。限界に来たのだ。

表情を読んで会話を成立させている案内人もそれに気付いようで、二人してそそくさとこの場を去るのだった。


 以前に案内された場所へとやって来たアンネリーゼは、さっきの場所からだと深呼吸とまではいかないけど、息ができる!とホッとしていた。


 何か買わないと、さっきのアレが手に入らないのだが、はっきり言ってしまえば、アレが治れば戦闘奴隷になるため、そんなに高い奴隷を買うつもりはない。

ただ、治らなかったときのためと、アレを治す算段をしていると勘付かれるのを防ぐために、ある程度の奴隷を買う必要がある。


 そして、またブラブラと歩きながら奥まで行ったアンネリーゼが見つけたのは、獣人族の男女だった。

男性の獣人が女性の獣人を庇うようにして抱き締めており、女性の方はクッタリしている。


 これ、なんぞ?と思ったアンネリーゼが案内人を見上げると、悲しそうな顔をして、つがいだと言った。


 獣人族にはつがいというものがあり、それは本人の意思とは関係なく本能で見分けている。

出会ったならば、お互いにつがいとだけ関係を持ち、それ以外の異性と愛し合うことはない。


 「前の持ち主は、それを分かった上で、つがいの前で彼女を辱めたのです。何度も何度も。そして、とうとう彼女は壊れてしまったのです」

「ひっど……。何それ。死ねばいいのに」

「今頃、死ぬよりも酷い目に遭っていることでしょう」

「そっか。男性の方は、戦えそう?」

「そうでございますね。あなた様のことですから女性に酷い仕打ちはなさらないと思いますので、下女として扱う程度ならば問題ございませんし、そうすれば男性の方も戦闘奴隷として使えるでしょう」

「おいくら?」

「二人合わせて金貨50枚でございます。男性が金貨50枚、女性はオマケとなっております」

「んじゃ、買います!」


 男性の獣人族は、単体ならば金貨120枚はするのだが、つがいと離すと発狂して手が付けられなくなるため、セット販売しなければならず、そのためマイナス査定となっている。


 この奴隷商会は、商売として割り切っているところはあるが、ロッシュのオススメだけあって良心的なのだ。

なのだが、クラゲ少女とアノ肉塊をお持ち帰りするアンネリーゼの気が知れないとは思っている。


 金貨50枚を支払い、肉塊を箱詰めしてもらい、クッタリしている女性をつがいである男性が抱えて、さて帰ろう!となったときに、あまりの臭さに女性の目が覚めた。気付け薬扱いである。


 「落ち着け。怪我をしている奴隷がいるんだ」

「ぁ……、あなたでは、ないの?」

「俺じゃない。あの箱の中にいる」

「……っ!!?」


 とんでもない臭いを放つほどに怪我をしている奴隷が、箱詰めされていると知って怯えた目でアンネリーゼを見る獣人の女性。酷いとばっちりである。


 あまりの臭さから、「もう、とりあえず帰ろう!!」と、おざなりな態度になったアンネリーゼは、乗ってきた馬車に乗り込んだ。

奴隷たちは、同乗を許されないので、後ろに連結された箱に乗ることになる。アノ箱と一緒に。


 城門前に着いた馬車から異様な臭いが漂ってくるため、出迎えたロッシュは、またも笑顔が引きつっていた。

今度は何を買ったのですか!?と。


 降りてきたのは、あまりの臭さに涙と鼻水でぐしょぐしょになった獣人族の男女と箱だった。

この様子を見て臭いの発生源は、獣人族ではなく、あの箱だと判断したロッシュ。


 「あの……、アンネリーゼ様?この箱は、何でございましょうか?」

「うん、あのね、クララにいるの!だから、そーっとお部屋まで運んでほしいの。お願い!」

「あ、はい。え、いえ、このような臭いのするものを部屋へは入れられません!!」

「お願い、ロッシュ〜!おーねーがーいー!!」

「ぐっ……!(あぁっ!このオネダリが、たまりませんね!!)」


 おじいちゃんは、孫に弱いのである。特に、孫娘には。


 今回も丸洗い行きになった奴隷たちと別れ、アンネリーゼは運ばれる箱と共に部屋へと帰るのであった。

 


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