第五話 奴隷商会に行ってみた
さっそく奴隷商会へとやって来たアンネリーゼであったが、ここまでは徒歩ではなく離れが用意した馬車に乗って来ている。
前回は、冒険者になるのは大変なんだぞ!ということを教えるために乗り合い馬車や徒歩が主だった。
商会の受付に紹介状を渡すと、さっと確認をされた。
確認を終えた受付は、営業スマイルを浮かべて「こちらへ、どうぞ」と、店の奥へと案内しだした。
案内されたのは、すえた臭いのする鉄格子がはめられた、見た目が牢屋のような場所だった。
アンネリーゼは内心、どんな奴隷が欲しいのかとか要望を聞かないのだろうかと疑問に思っていたが、自身の見た目が低能力の出涸らしであることを思い出し、そのため客にしてはぞんざいな扱われ方をされているのだろうと判断した。
営業スマイルを浮かべた受付は、このフロアにいる奴隷は金貨250枚以下であることを告げると、通路の隅へと移動し、待機してしまった。
今はまだ金貨500枚まで貯まってはいないが、そちらを先に見せてもらうことは出来ないかと思ったアンネリーゼ。
しかし、ここにいる奴隷が金貨250枚ならば、いずれ二人買うことも出来ると思い至り、ここで気に入った者がいなかった場合だけ他を見せてもらう交渉をしようと、臭いに我慢しながら通路を歩き始めるのであった。
そんなアンネリーゼを通路の隅から見ている受付は、彼女のことを見定めていた。
出涸らし小屋と揶揄され王族と見なされていないとしても、離れに住まう以上、本人は王族なのだと思っているし、ステータス画面にも「準」とは付くが王族とも記載されているのだ。
そのため、ぞんざいな扱われ方をすると腹を立てる者は多いと聞くし、このような臭いの立ちこめる場所には嫌悪感をあらわにするかもしれないと思っていた。
しかし、アンネリーゼは、「ちょっと、くっせぇな」くらいにしか思っておらず、それを顔に出すのも失礼かもしれないと、あまり表情を変えないようにしていた。
通路の隅にいる案内をしてくれた受付にはバレバレであったが。
生気がない者、買われたくて媚びを売るような目をして寄ってくる者、ギラギラとした目をしてこちらを見てくる者、怯えた様子の者、そんな奴隷たちを見てアンネリーゼは、心に重たいものを感じた。
王の血を引いているというだけで、何の能力もないのに衣食住と支度金が用意され、困ったことがあれば執事のロッシュやメイドが可能な範囲ではあるが、どうにかしてくれる。
自身の恵まれた環境に感謝はするけれど、お荷物になるような奴隷を買うのかと問われれば、否と答えるだろう。
そのことがアンネリーゼの心を重たくしてまったのだが、基本的に前世でも兄と姉に甘やかされて、いつの間にヤンキーに育った仁が混ざり合った彼女に、聖人君子な面はあまりなかった。
見た感じやはり安い……、といっても約250万円相当もする奴隷もいるのだが、髪も瞳も白色が混じっているものが多い。
おそらく弱い土属性であろうキャメル色の髪とか、弱い火属性のピンク色とか、痩せこけ薄汚れた感じに反してファンシーなパステルカラーな見た目だ。
ギャップが酷い。パステルカラーなのに全然、ゆめカワイイ感がない。
薄汚れた肌にパステルカラーな髪を見てアンネリーゼは、段々と奴隷がヨーチビスケットに見えてきた。「やべぇ、臭いに反して腹減ってくるわ」とズレたことを考え始めてしまったので、慌てて意識を戻した。
通路を歩きながら片っ端から鑑定をかけていくが、これといってお買い得そうな奴隷はいない。
というのも、ある程度は事前に鑑定士を呼んで簡易鑑定を済ませてあるので、だいたいは能力に見合った金額になっている。
奥へ行けば行くほど金額が下がっていく、つまり能力も低くなっていくのだが、色が濃くても魔力が少なかったり、たいしたスキルを持っていなかったりと、ちらほらとパステルカラー以外の奴隷もいたりもする。
ブラブラと奥までやって来たアンネリーゼは、クラゲの触手みたいな髪色をした少女を見つけた。
見た目は10歳ほどだが、万物鑑定で見たところ実際は12歳で、見たこともない属性を持っていた。
その少女が持っているのは、治癒属性だった。
おそらく、鑑定士は治癒の漢字が読めなかったのと、髪が半透明の白色だったことで、能力ナシの判定を下したのだろう。もったいない話である。
その治癒属性を持ったクラゲ少女は、膝をかかえて座り込んでいるが、絶望している様子はない。
アンネリーゼが治癒属性とは何なのか更に鑑定してみると、治癒なので怪我や毒、更には病気も癒せることが分かった。
こんなのは即買いだろうと思ったアンネリーゼは、邪魔しない程度に離れてついて来ていた案内人を振り返った。
「この子、どんな子?」
「それは、『サ-24番』ですね。調薬Lv1、つまり薬師見習いにも劣る程度の調薬スキルと採取Lv1の二つのスキルと、所持属性も弱い風のみです。金額は金貨10枚です」
「……10枚」
「奴隷といえど生きておりますから、維持費がかかります。ですので、その分が上乗せされた結果でございますよ」
この程度で金貨10枚もするのかよ、という話ではなく、人が金貨10枚、おおよそ10万円程度という値段で売られていることに言葉が出なかっただけであるが、安く買えるならそれに越したことはないので、勘違いをさせたままにしておこうと思ったアンネリーゼであった。
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