第四話 知らないこともある

 冒険者として活動するならば奴隷を買えと何度も言われたアンネリーゼは、この離れで生活している状態で奴隷を購入した場合、どうすれば良いのかをロッシュに聞くことにした。


 手の空いたロッシュが夕食後にアンネリーゼの部屋へと訪れて説明してくれたのは、本来ならば、購入した奴隷を部屋へと入れることは許可できないのだが、アンネリーゼが既に冒険者登録を済ませ、不妊を施されていることから、問題はないと言われた。

 しかし、奴隷にかかる費用、つまり服などの装備品や食事代は自分で持たなければならない。


 それを聞いたアンネリーゼは、ディメンションルームにてベアトリクスを撫で撫でしながら考えていた。


 「今から活動してランクを少しでも上げておけば、独り立ちしたときにすぐにでも動けるんだよなぁ。確か、アイアンランクのままだと冒険者登録したところ以外のギルドで、依頼を受けることが出来ないんだったか。国境はゴールドランクになってねぇと越えられなかったはずだし」


 アンネリーゼは、国境を越えられるゴールドランクになるのは、国境近くの方がいいのではないかと考えている。

地道にブロンズランクへと昇格した後は、さっさと拠点を王都から辺境方面へと移した方が、費用は抑えられる。


 物価が高い王都にいればいるだけ費用はかさむし、自分の情報も漏れ聞こえてしまうのではないかと思っているようだが、王家はアンネリーゼのことに意識を向けていない。出涸らしの一人だと判断を下し、支度金と衣食住は提供するが、既にいないものとして扱っている。


 というのも、今の国王は真っ黒な髪に金色の瞳をした、闇属性と聖属性に特化した戦闘狂である。トップが前線に出る困ったちゃんだ。

闇属性が強いので精神汚染系の魔法は効かないし、聖属性も強いので怪我や毒も回復できる。デバフが効かない回復持ちのラスボスなど、バグであるが、これが国のトップなら心強いのだろう。


 ただ、いくら戦闘狂であってもこれ以上国土を拡大するわけにもいかず、持て余した力の矛先を女性に向かわせたので、28人の子だくさんになったのだ。用意された"おねえさま高級娼婦"たちを食い散らかし抱き潰しても足りず、食指が動いたものをつまむこともあった。


 その毒牙にかかった中にアンネリーゼの母もいたのだが、まあ、仕方がなかったのだろう。

牧歌的な田舎娘風の見た目にホルスタイン級爆乳を持ったメイドである。ヨダレが出ちゃったのだ。


 しかし、アンネリーゼは封印が施されたことによって、胸はこれ以上大きくならないと言われ、安堵している。

既に自分の手に余る大きさである。この先成長と共に大きくなったとしたら、母と同じになるかもしれないと戦慄していたのだ。


 爆乳は埋もれるものであって、装備するものではない。

アンネリーゼの独自理論である。


 色々と珍しく有能なスキルと可愛い召喚獣を得たアンネリーゼは、貧乏人がいきなり大金を持った途端に疑心暗鬼に陥るのと同じような心境になっているだけなので、能力をひけらかさなければ平穏に暮らせるのだが、彼女はまだそれに気付いていない。

それよりも、見た目に寄ってくるゲス共を警戒すべきである。


 やがて、考えてても仕方がないと判断したアンネリーゼは、出来ることをコツコツやっていこうと、ベアトリクスとサスケのおでこにお休みのキスをすると、ディメンションルームから出てベッドで眠るのだった。


 翌朝、朝食を終えたアンネリーゼにロッシュは、奴隷商会へと行ってみてはどうかと提案してきた。


 「でも、まだそんなにお金は貯まってないよ?」

「ええ、ですが、奴隷というものは既製品と違い、入れ替わりのある商品ですので、掘り出し物を探すのであれば、何度か通う必要がございます」

「買わずに何度も通っても大丈夫なもなの?」

「はい、大丈夫でございますよ。奴隷商売というのは、そういうものでございますので。ただ、気持ちよくお買い物をするにあたって、必要になってくるのが先程お渡しいたしました紹介状になります」


 貴族ならば、欲しい奴隷の要望をあらかじめ出しておくと、奴隷商会側がその奴隷を探してきたり、入荷次第連絡を入れてくれたりするのだが、平民の場合は、買いに行って手持ちで買える中で妥協して買うことが多い。

奴隷商会へ行って買わずに帰るというのは、店側からいい顔をされないので、ある程度、信用のある家や店の者でなければ、何度か通って選ぶなどということは出来ないのである。


 それを可能にしてくれるのが、ロッシュが用意してくれた紹介状だ。

この紹介状は、王宮の離れを統括している執事、つまりロッシュが書いたもので、これを見せれば奴隷を買える懐事情ですよ、という保証になるし、独り立ちにあたって奴隷を確実に買う客であることも分かる。


 手渡された紹介状をまじまじ見るアンネリーゼは、心の中でつぶやいた。


 この表書きしたのって、誰なんだろう……と。


 誰と問われれば用意したロッシュなのだが、何故アンネリーゼがそんなことを思ったかといえば、そこに書かれている字体が可愛らしい丸文字だったからだ。


 それは、貴族特有でも、執事特有でもなく、ただのロッシュの癖字である。

 


 


 

 




 

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