第七話 ナチュラルに
前世に思いを馳せたアンネリーゼ。
この世界でぼんやり生きてきた10年間よりも、仁として生きていた人生の方が強烈だったため、そちらの性格が強くなったようで、一人でいるときは前世の口調が出てしまうようになった。
さすがに初対面はおろか知り合いだとしても、仁のときと同じような喋り方はマズイと思っているので、誰かと話すときはアンネリーゼとして生きてきたときと同じように喋ることにしたのだが。
「咄嗟のときはたぶん出ちまうだろうなぁ。それにしても自分のことを前みたいに『俺』と言おうとすると違和感があるってことは、女だと自覚してるってことなのかな?まあ、今のところ男だろうが女だろうが恋愛感情を持てそうにねぇけどな」
幼少時より仁と親しくしようと寄って来る者は、だいたい兄か姉目当てだったため友達を作る気にはなれなかった。
そして、祖母の行動に生理的嫌悪感を覚えたため女性が苦手になり、そこへ持ってきて優しい女性がサイコパスで犯人だったというホラーサスペンス映画を立て続けに兄と見たため、「よし、独り身でいよう!」と決意した結果、いい歳をして兄と暮らしていたのだ。
恐らく姉も結婚していなければ仲良く兄弟で暮らしていただろう。それほどに仲の良い兄弟だったのだ。
「あれ?そういや『火が2個になってるけど自分の容姿に赤い要素なんてないから、何かの間違いよね』なんて判断したんだよな。アホにもほどがあんだろ。ゲームじゃあるまいし、現実世界のステータス画面でバグなんて起きねぇよ……。炎だよ!!」
あぐらをかいて頬杖をついたままステータス画面を眺めていたアンネリーゼは、所持属性に炎があるのに自身の容姿には赤い要素が一つもないことに気づいた。
「あー、温度の高い火って、青いんだっけか?それに雷も本来は青い光らしいしな。あれ?じゃあ私の瞳は氷と炎に更に雷までついてんのか?いや、もしかしたら氷属性は白か?……鏡も買うか。自分の姿がどんななのか知らねぇんだけど見ておいた方がいいだろ」
この世界で鏡は高級品なので、出涸らし小屋育ちのアンネリーゼが鏡を見る機会はなく、自分でも確認できる長い髪と、母親から瞳は薄い青色だと言われた以外のことは知らなかったため、お買い物アプリから100コインでそこそこ大きな手鏡を買い、自分の顔を見た彼女は突っ伏してしまった。
「あの国王の超絶美形と田舎臭い牧歌的なお母様の顔を足すと親しみやすい美少女になるのな……。つり目なんだけど、猫っぽい感じでキツい印象にはならなかったみてぇだけど、気をつけねぇとナンパがウザそうだぞ……」
王女としては中の下といった顔だが、これが平民としてだと面倒なことになる程度には美少女だ。
自身の容姿と喋り方を考えると男のフリをして生活する方が楽なのではないかと考えたアンネリーゼは、「行き着く先は結局、性別なんて関係ないだろう冒険者になるのか……」と、ため息をついたのだった。
「それに、ベアトリクスもいるしな。こんな可愛い仔を連れていたら余計にまとわりつかれそうだし、それに、使えるかは別として5属性も持ってたら政略結婚の駒にされるかもしれねぇからなぁ。やっぱ冒険者になって国を出るかぁー」
幸いインベントリとディメンションルームを貰えたので荷物の心配も宿の心配もしなくて良くなり、王家からは15歳になるまで毎月金貨10枚を貰えるので、それを貯めればだいたい600万円ほどの資金にはなる。
それに、お買い物アプリを使って物納チャージをすれば、更に生活に困ることはないので、もうアンネリーゼの頭の中には冒険者として生きていくイメージしか湧いてこなくなっていた。
「ロッシュに冒険者になることを伝えて、その準備のために何が必要なのか聞くか」
寝ているベアトリクスを撫でてからディメンションルームを出たアンネリーゼは、昼食を運んできたメイドに、相談したいことがあるから手が空いたときでいいので、ロッシュに部屋を訪ねてくれるように頼んだ。
ロッシュが部屋を訪ねて来たのはその日の夕食後で、アンネリーゼが冒険者になろうかと思っていると話すと、目を見開きはしたが否定することはしなかった。
「アンネリーゼ様の所持属性では危険でございますし、お仲間を見つけることも困難かと思われます。ですので、どうしても冒険者になるおつもりなのでしたら、支度金を貯めて奴隷を購入することをおすすめいたします」
「……奴隷?」
「はい、奴隷にございます。平民でも購入できる奴隷商会ならば、金貨500で戦闘奴隷を一人は買えるかと思います。運が良ければ掘り出し物もございますから、二人買える可能性も出てきますよ」
「そ、そう。そっか、奴隷ね」
まるで蚤の市でアンティークの掘り出し物が出るかもしれないというような感じで奴隷購入を勧められたアンネリーゼは、カルチャーショックを受けていた。
ロッシュは、アンネリーゼが女性であることから、なるべく男二人を購入するのではなく、一人は女性の戦闘奴隷を購入した方が良いと、そして、女性の戦闘奴隷は戦力の割に少々高くつくことから、場合によっては一人しか購入できないかもしれないと答えた。
女性の戦闘奴隷は、場合によっては戦力としてではなく性欲処理要員としても買われることがあるため、同じ戦力だったとしてもむさ苦しい男の戦闘奴隷よりも高いのだ。
ナチュラルに奴隷を勧められたアンネリーゼであったが、自身の持つスキルやベアトリクスのことを考えると、その方が安全な気がしてきた。
心中は穏やかではないが、裏切られる心配がないのは魅力的だったのだ。
こうしてアンネリーゼは、支度金のほぼ全てを貯金に回し、奴隷購入に金貨500枚、残りは冒険者になるための装備や生活の目処が立つまでの資金とすることにした。
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