第五話 召喚獣ゲット
ディメンションルームの中は四方を白壁で囲われた箱型の部屋で、質感はサラっとしているが滑って転びそうな感じはしない。
「んー?8畳間ほどか?えーっと、ディメンションルームは自身の総魔力量によって広さが変わるのか。てことは、頑張って魔力を増やせばここも広くなるんだな」
ディメンションルームの確認を終えたアンネリーゼは、次に召喚獣ガチャと書かれた豪華なチケットを取り出し、それをビリビリと半分にちぎった。
裏面に「半分にちぎってご使用ください」とあったので、恐る恐るちぎってみると、やがて様々な色の野球ボールほどの光る玉が飛び出して、最終的に緑色の玉が一つ残った。
「緑色ってことは、風属性とかかな?」
赤色が火属性、青色が水属性、緑色が風属性、茶色が土属性、金色が聖属性、黒色が闇属性となっており、髪と瞳に持っている属性の色が現れるので、見た目でその人の属性と能力値がだいたい分かってしまう。
色が濃ければ濃いほどその属性の能力が高くなるので、火属性を例にとれば、ど真っ赤な髪や瞳をしている人はその能力が高いということになり、逆に、能力が低いと白を足したピンク色になる。
つまり、白色に近ければ近いほど能力は低くなるのだ。
アンネリーゼの髪はアッシュ系プラチナブロンドなのだが、分かりやすく言えばほんのり薄いグレーが入った白っぽい金髪で、周囲の人たちが推測した通り闇属性を持っていることで、ほんのり薄いグレーが入っており、白っぽい金髪は弱い聖属性によるもの。
そして、
それは本人が改めてステータス画面を確認すれば知ることになるだろう。
緑色に光る玉が一瞬だけ光を強く放つと、そこにはアイボリーカラーの毛並みにエメラルドグリーンの瞳をした翼の生えた仔ライオンがいた。
「うなーん」
「やっべ、ちょーかわいいんですけど!?」
「なぁーん、なぁーん」
「あ、名前か?女の子か?そうか、女の子か。んー、よしチューリップの国の女王からお名前を頂戴しよう!てことで、ベアトリクスでどうかな?」
「なぁーん!ゴロゴロゴロゴロ……」
名前を気に入ったようで翼が生えた仔ライオンことベアトリクスはゴロゴロと喉を鳴らし、アンネリーゼに擦り寄った。
契約した召喚獣は、魔力を対価にして対象を自身のそばへと召喚することができ、それはディメンションルームからでも可能であることから、ベアトリクスの住処はディメンションルームとなった。
もちろん、いつの間にか召喚獣と契約していることが周囲に知られてしまえば面倒なことになるからでもあるが。
ディメンションルーム内にベアトリクスを住まわせることに決めたので、さっそくお買い物アプリへジャラジャラと硬貨をチャージしたアンネリーゼは、真剣な顔で画面を見つめている。
「どの寝床がいいだろうか……。なあ、ベアトリクス。お前は、どれで寝たい?」
ベアトリクスにもお買い物アプリの画面が視認できるのか疑問に思ったアンネリーゼであったが、見せてみないことには始まらないと、ふかふかなボディを抱っこして画面が見えるようにした結果、「なぁーん!」と鳴いて可愛い手で示したのは、ホタテ貝を開いた状態の背もたれもついた大きめのクッションベッドだった。
「おまっ、天才か!?そこにベアトリクスが丸まって寝たら、まさに真珠じゃねぇーか!!即買いだろ。あとは、ベアトリクスって食事は魔力でいいんだよな?何も食えねぇの?」
「うなーん」
「何でも食べれんのか。けど、嗜好品ってとこか?そうか、嗜好品扱いなのか」
召喚獣ベアトリクスは、仔ライオンの姿をしているが翼が生えている通り、ライオンではないし猫でもないので、にんにく玉ねぎ、そんなの関係ねぇとばかりに何でも食べられる。
アンネリーゼが前世にいた世界の猫には、絶対に与えてはいけないものだったので、それに慣れるまでしばらくかかるだろう。
自分を訪ねて来る者もいないし大丈夫だろうということで、このままディメンションルームにいることにしたアンネリーゼは、さっそくホタテ貝の形をしたクッションベッドを購入し、ベアトリクスに与えた。
嬉しそうに「なぁーん!」と鳴いてベッドに丸まったベアトリクス。
それを見たアンネリーゼは、「まさに真珠!」と、うっとりた様子で眺めていたのだが心の中では、「たぶんそのうちヘソ天で寝るんだろうな……」とも思っていた。
ベアトリクスが寝てしまったのでアンネリーゼは、自分のステータスを確認することにした。
先日まで自分の所持属性が弱い水属性と、持っているだけで使えないほど薄い聖属性と闇属性だと思っていたのだが、前世を思い出したことで漢字が読めるようになり、正しい所持属性が分かった。
「水だと思ってた属性がよく見れば氷じゃねぇか。アホか私は……」
アンネリーゼの母親は、男爵家令嬢とはいえ三女だったので、嫁ぐとなれば平民になるだろうからと、平仮名もろくに覚えなかったほどなので、漢字など一切学ぶことはなかった。
そのため、娘であるアンネリーゼも離れでの基礎学習として平仮名とカタカナを習いはしたが、漢字まで学ぶ必要はないと思っていたのだ。
「お母様が貴族に嫁ぐのでなければ漢字を覚える必要はないと言っていたから、その通りにしていたけど、それだと、まず文官にはなれねぇよな。マジで思い返してみると、お母様ってだいぶ頭の中花畑だったな……」
子供に、より良い将来を提供するには学習が必要だと前世の記憶が物語っている。
それを思えば学習できる環境があるにもかかわらず、視野の狭い独自理論を展開して娘が学ぶ機会を奪っていた母親に、少し残念な気持ちが沸き起こってくる。
「故人を悪く言うのはやめよう。過ぎたことだ。それよりも、これからどうすっかなぁー。文字の読み書きや計算は問題ねぇだろうけど、文官になるつもりもねぇし、やっぱ冒険者一択かなぁ」
前世でも働いたことがないアンネリーゼにとって、どこかに就職するというのは、かなりハードルが高い。
しかも、コミュニケーション能力がかなり低いことを考えると、就ける仕事は限られてくる。
「はぁ……。姉ちゃんと兄ちゃんがいればなぁー」
未来の憂鬱さを思い、ここにはいない前世の兄と姉に縋りたくなったアンネリーゼ。
言葉にした途端、兄姉との思い出が溢れて涙が止まらなくなったのだった。
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