第四話 支度金
アンネリーゼが暮らす離れでは、7歳までの子は全員食堂にて使用人に補助されながらの食事になるが、それを過ぎると自室で取ることになる。
そして、10歳になると王家から支度金として月に金貨10枚が与えられるのだが、それは15歳の成人まで。
本日10歳になったアンネリーゼにもそれは与えられるので、その支度金を王家から預かってきた執事のロッシュが、朝食が終わる頃を見計らって訪ねてきた。
「ご気分はいかがですか、アンネリーゼ様」
「うん、大丈夫。昨日は、ありがとう。ロッシュがベッドまで運んでくれたの?」
「はい、僭越ながら、わたくしめが運ばさせていただきました」
「ありがとう。おかげで風邪を引かなくて済んだわ……」
夏風邪をこじらせて亡くなった母を思い出し、涙をこぼすアンネリーゼを気遣わしげに見つめるロッシュは、彼女が落ち着くまで静かに待った。
ようやく話が出来るほどになったアンネリーゼにロッシュは、10歳から与えられる支度金のこと、成人後はどうするのか考えていかなければならないことを説明した。
「アンネリーゼ様の場合ですと、成人後は王族ではなくなりますので、文官の採用試験を受けられて王城勤めをされるか、斡旋されたお家へ嫁がれることになるかと思われます。平民となりますと、年に一度、人頭税が徴収されますので、生活費の他にそれを用意しなければならなくなります」
「それって、どれくらいするの?」
「国が徴収する基本人頭税と、住んでいる場所を治めている領主が徴収する住民人頭税の二つを納めなくてはならず、住民人頭税の方は領主によって様々ですので、一概には申せませんが、少なくとも年に金貨3枚は必要でしょう」
「ということは、今日貰える支度金で3年は何とかなるのね……」
瞬時に計算したアンネリーゼに目を丸くしたロッシュは、「今のまま努力されれば、十分に文官を目指せますよ」と、優しく微笑んだのだが、アンネリーゼはお役所勤めなどする気はさらさらなく、ぎこちない笑顔を返すだけだった。
ロッシュから支度金を渡されたアンネリーゼは、彼が退出した後それをインベントリへと片付けた。
昼食までの間、これといってすることもないので、アンネリーゼはさっそくお買い物アプリのチュートリアルを開始することにしたのだった。
お買い物アプリというスキルは、行ったことのある店の商品をステータス画面を通してネットショッピング感覚で買えるというものなのだが、一度でもその商品を買ったことがあれば店に現物がなくても、お買い物リストに表示されるので買い放題なのだ。
「行ったことがある店ねぇ。商品別は今はいいや。店舗別が分かりやすいかなって、コンビニの数すげぇな。こんなに行ってたんだなぁー」
買い物をするにあたって、まずはお買い物アプリ内に入金をしなければならず、「チャージするものに触れてください」と表示された。
「んじゃあ、転生者特典で貰った金貨30枚分の中から銅貨1枚を入れてみるか。ご丁寧に両替してあったんだから、すげぇ親切だよなぁ。お、『銅貨1枚をチャージしますか?』て出たな。もちろん、『はい』っと」
ステータス画面にあるお買い物アプリにはチャージ金額100コインと表示された。
この世界の通貨は、銅貨10枚で銀貨1枚となるように10枚で一つ上の硬貨となる。
「100コインは100円と考えればいいな。大手100円ショップの商品が100コインで1個買えるってことはそういうことだろ。てことは、人頭税は一人3万円か」
何を買おうか迷った挙句アンネリーゼが買ったのは98コインのインスタント味噌汁8個入りだった。
部屋に置いてあるマイカップにいそいそとインスタント味噌汁を絞り出し、魔法でお湯を注ぎ、スプーンで混ぜてズズズっと啜って飲むと、深く息を吐いた。
「あ"ぁぁーーー、うめぇ。色々と迷ったがこれで正解だったな。んで、チュートリアルは終了か。へぇー、チャージは物納もイケんのか。切り離した植物は可能だが生き物は無理って、怖ぇわ!生きたまんまチャージするとか、どこのサイコパスだよ……」
ちなみにお買い物アプリ内では、消費税が加算されていないので、100コインの商品に110コイン支払う必要はなく、100コインで買える。
「食品は8%だったんだけど、パンデミック後に日用品とかと同じく10%になってたんだよなー。1割だそ、1割。100円でチロレチョコ1個分の税金を払うんだぞ?高くねぇか?まあ、もう前世の話だしどうでもいいけどさ」
成人後に独り立ちするにあたって、職と住む所の確保が必要になることを考えると、冒険者になるのもそれはそれで良いのではないかと候補に入れたアンネリーゼは、転生者特典で貰ったディメンションルームというスキルと、召喚獣ガチャの確認をすることにした。
ディメンションルームのオーブは、ソルトライチ味だったのだが、なぜに塩味が足されているのか、ライチ味ではいけなかったのかと疑問に思ったがそれに答えてくれる者もいないので、気を取り直してディメンションルームを使ってみるのだった。
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