第14話 雄飛(2)

 太祖12年(1217年)、コリトマト部族がチンギス・カンに対し反旗を翻した。グルカンによる策動の結果である。コリトマト部族のいるケムケムジュートは優良な牧地であると同時に、鉄の産地キルギス・ミヌシンスク盆地と草原を結ぶ要衝にあたる。

 チンギス・カンは右翼副万人長ボロフル、森の民万人長コルチ老人、そしてオイラト部族長クドカ・ベキに出兵を命じ、キルギス部族9千戸にも動員をかけた。

 敗報が届いた。総大将ボロフルは戦死、コルチ老人もクドカ・ベキも捕虜となった。完敗といっても過言ではない。キルギスの中にメルキト部族の残党がいて、ボロフル軍を奇襲し、これが成功したのである。チンギス・カンは森の民出身の猛将ドルベイ・ドクシンを急派するとともに、ジョチに遠征を命じた。

 ジョチはイナルチ附馬に言った。

「キルギスは複数の氏族に分かれている。彼らの中には、今度の戦を迷惑がっている者も多いだろう」

イナルチ附馬は、オレベク・テギン、イェディ・イナル、オロスら、ナイマンを快く思っていない首長たちの名を挙げ、次のように言った。

「義父が行かれれば、森の民は従うでしょう。メルキトの残党を追い出すだけで終わります」

ジョチは笑って付け加えた。

「メルキトを追って、西の草原を見てみるか」

ジョチはおもむろに腰を上げた。

 ジョチは、イルティシュ河上流域からアルタイ山脈の西麓に向かい、オビ河上流域付近を渡河し、周辺のケステミやタズといった部族に声をかけつつ、ひそかにキルギス部族の首長たちにも連絡をつけ、北からミヌシンスク盆地に侵攻した。ジョチ軍は舟を使ってシベリアの森林地帯をすばやく移動していった。

 南から来るドルベイ・ドクシンに備えていたコリトマトは、背後をつかれ、驚いて降伏した。コルチ老人もクドカ・ベキも助けることができた。

 森の民の首長たちは、ジョチの下に集まってきた。キルギス、ケステミ、バイト、タズ、トファス、ウルストなど、みなモンゴル語は通じない。彼らは自分の子をジョチの中軍(ケシクテン)に入れ、ジョチは大切に育てることをみなに誓った。ケシクテンは質子軍とも書かれるが、貴族の士官学校であり、このケシクテンから帝国を支える人材が供給されるのである。

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