第9話 建国(1)

 セングムは逃亡したものの、後に殺害された。オンカンの息子や弟たちはテムジンに下ってきた。オンカンの弟ジャガ・ガンポは3人の娘、イバカ・ベキ、ベクトトミシュ・フジン、ソルコクタニ・ベキを、それぞれ、テムジン、ジョチ、そして末子トルイの妻としてさしだした。草原で最も高貴な一族の娘たちを、テムジンの一族は娶ることができたのである。ただし、イバカ・ベキはその後、ウルウト族長ジュルチデイの、彼の死後は息子のケフテイの妻となる。最初期、ウルウト族長家は帝室と同格とされていた。

 テムジンはオンカンが持っていた、草原で最も優良な遊牧地を手に入れ、その中に首都を設けた。この都市ヘルレン大オルドは、現在アウラガ遺跡と呼ばれている。ジョチは、ベクトトミシュが持ってきた200人の牧民とその家族からなる第一群と、自身とサルタク・ハトンの合わさった第二群という2つの遊牧単位を持ち、父母とともに遊牧することになった。

 テムジンはケレイトの勢力を手に入れ再編成したが、実際は、ケレイトの既存の組織の長に自分の臣僚を配置しただけであった。とはいえ、ケレイト軍を得たテムジンは、泰和4年(1204年)にメルキト部族とナイマン部族を討ってジャムーカを捕殺し、泰和5年(1205年)には沙漠を南下して西夏の前線基地エチナを攻撃した。戦い続けることで、自軍を掌握していったのである。ジョチは第一群を首都周辺に残し、第二群を伴って転戦した。

 サルタク・ハトンがお産のためホロンバイルに戻ることになった。

 泰和5年(1205年)初夏、ジョチが、女の子が生まれたとテムジンと母ボルテに告げた。ボルテはうれしそうに、誰の嫁にしましょうかと言うと、テムジンは即座に答えた。

「オイラトだ」

オイラト部族は森の民最強の集団であり、西遼派の最重要人物の中で、最後に残ったクドカ・ベキが率いている。コイテンの戦いでは直接見えた。

 ボルテは不服そうに言った。

「コンギラトにやらなくていいの」

テムジンは、にこりともせず、

「逆にコンギラトからもらう」

これで、ジョチは3人目の正妻を娶ることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る