第8話 結婚(4)

 泰和3年(1203年)、テムジンはケレイト部族長家に対し、挑発行為を行った。ジョチの妻にオンカンの娘をもらい、と同時にオンカンの孫にテムジンの娘を嫁がせるという、二重の縁結びを申し出たのである。

 オンカンの子セングムは使者に吼えるように言った。

「家来の分際でテムジンは、我が子の舅になろうというのか。どこまでつけ上がっているのか」

しかも今ジョチはデルケク・エメルの所にいるではないか、知らないとでも思っているのかとまくし立てた。

 軍議が開かれ、テムジン討つべしとの意見が大勢を占める中、オンカンは苦く言った。

「テムジンに勝てるのか。軍兵の多寡は問題ではないぞ」

セングムは冷笑しながら答えた。

「こちらは奇襲を行うのですから、勝利は間違いありません」

父は老いたとセングムは思い、兵権を握る自分の姿を想像し、精神の高揚を抑えきれない様子だった。

 軍議が終わり、一人天幕に残ったオンカンは、テムジンは以前、相手に奇襲をさせてから勝ったのだぞ、と呟いた。

 結果は、テムジン軍の勝利で終わった。偽の情報をまき、隙だらけの天幕群を襲わせた。実際にそこにいたのはマングト族長クイルダルであり、彼は戦死した。テムジンにとって最も頼りになる盟友であり、そしてテムジンが独裁的権限を握る上で最も障害になるクイルダルを抹殺することができた。

 多数の家畜を得たケレイト軍は満足して引き揚げ、本格的な追撃態勢に入る準備をした上で、各部隊を四方に展開させつつあった。包囲殲滅するためである。

 これに対してテムジンは主力をバルジュナ湖畔に集結させ、敵が分散したところを見計らって、オンカンとセングムのいる本陣を急襲したのである。軍馬と、食糧となる羊はハッサンが用意していた。

 テムジン消息不明の報が偽情報であり、また集結地がバルジュナ湖畔であるとの連絡を受け、ジョチはテムジンに合流した。この戦いでジョチは驚異的な騎射の技を見せた。

 ジョチの率いた軍の中には、かなりの割合で森の民出身者が含まれていた。デルケク・エメルが援軍を付けてくれたからである。彼らの勇猛さは群を抜いていた。その戦士たちが、ジョチの戦闘能力に、神に等しきものを感じたのである。

 テムジンは、自分の後継者をジョチにすると決めた。

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