8.真実

 先生の家にお邪魔するのは二度目だ。

 今日は私は車で来た。駐車場は広く、カースペース4台くらいあると思う。


 先生の家は、世田谷にある2階だての戸建てだ。しかしどうも、生活感がない。


 「今日は何もしないから大丈夫よ。」


 ふふふと笑う先生。シャレにならない気がする。


 先生はダージリンをコップに入れ、リビングの前のテーブルに二人分置いた。私はソファーに座り、先生はケルト音楽をかけてからソファーに座った。


「真実を話すわ。今話すべきかどうか、後日が良いか、佐々木先生に言われるまで迷ったけれども...。」


 先生はダージリンを少し飲んでから話を続ける。


「旦那とは職場結婚でね。10歳年上なの。二人の子供に恵まれたわ。旦那は今は実家の病院で副院長をやっていてね。でも、結婚当初からひたすら不倫、不倫、不倫。ずっと我慢していたけれども、もう嫌になってね。」


 私もダージリンを飲み、頷く。


 「子供は義母と義父に引き取られたわ。私の両親は不慮の事故で亡くなってしまったから、育てる人がいないの。私一人だと、せいぜい、家事手伝いを雇うくらいしか出来ないのよね。」


 先生でも出来ない事があるのだなと私は思う。何だか、先生が可哀想に見えた。小さくて細い体が余計に小さく見える。


 「子供二人は大学付属の幼稚舎、小学校に入っていてね。いずれは医師になって旦那の後を継ぐのだろうと思うわ。」


 子供と離れて生活するのは辛いだろうに...。


 「私と旦那は別居してからもう5年が経つの。だから、もう直ぐ正式に離婚届けを出せるようになっているの。」


 先生は喉が乾いたのか、コップに入ったダージリンを飲み干す。


 ケルト音楽がクライマックスを迎える。


 「だから、正式に離婚してから、吉田さんがもし良ければ付き合いたいと思っていたわ。でも、焦ってしまってね。あなたは自分が思っている以上にモテるから。私が焦った結果、早々にレールを踏み外してしまったのよ。」


 チラリと私を見た。






 後日、上村先生は正式に離婚した。名字は職場では上村のままにしていた。弁護士を代理人として立てたが、調停になることなくご主人はあっさりと離婚届にサインしたようだ。


 財産は、稼いだ分はそれぞれ。世田谷の家は先生のもの。別居中に旦那さんが買ったマンションは旦那さんのものとなった。

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