7.先生は結婚して子供もいる?

 「先日はお疲れ様。」


 これから昼食に入ろうとナースステーションを離れようとしていたとき、先生が肩をポンッと叩いてきた。


 「本当に助かりましたよ。患者さんは亡くなりましたけれども、最善は尽くせましたし。」


 「そう。私も頼ってくれて嬉しかったわ。」


 先生は微笑んだ。


「さて、食事に行きましょう。」


 いつもの通り、上村先生と私は社食で昼食を取っていた。

 そこへ佐々木先生がやってきた。


 「ここ、良いですか?それともお邪魔?」


 「どうぞ」  


 と上村先生が言った。


 「二人は付き合っているんでしょ?泣けるね、私を置いてけぼりにして。」


 佐々木先生は泣き真似した。


 「ところで、上村先生って結婚して子供もいるんじゃなかったっけ。吉田君とはまさか不倫?」


 上村先生の顔色が変わった。上村先生は肯定も否定もしなかった。雰囲気が気まずくなった。


 「ごちそうさま。急ぎの用事があるから、お二人でどうぞ。」


 上村先生はそう言うと、まだ半分残っている豚の生姜焼きとご飯を返却口に返し、足早に何処かへ行ってしまった。


 「ビンゴだね~。鎌掛けたら当たっちゃった。女医であれだけの色気と美貌、お金を持った人が結婚してないなんて有り得ないでしょう。」


 私は手をグッと握りしめた。


「あなたは遊ばれているんだよ、吉田君。上村先生は肌も綺麗だし、艶々しているよね。吉田君と付き合い始めたら、一層艶々してると思う。あなたのエキスが吸い取られたみたいにね..」


 私は佐々木先生の言葉を遮った。


 「上村先生と私は何の関係もありません。」


 私は嘘をついた。

 佐々木先生は続けた。


「不倫した人は、やがて夫・子供の元へかえっていくの。そして、不倫は燃え上がっても次第に飽きるものなの。吉田君は覚悟しておいた方が良いわよ。」


 私はため息をついた。


 「ところで,今日は家に来ない?上村先生が逃げてしまう分、サービスするわよ。」



 仕事の後、私は佐々木先生のマンションへ行った。江東区にあるタワーマンションの高層階で、夜の眺めは素晴らしい。広いリビングには大きなテレビとソファーがあり、寝室も広いが、そこにはダブルベッドがあった。


 上村先生の世田谷の戸建てとは雰囲気が全く違う。


 私はもう、誰でも良かった。


 この心の隙間を埋めてくれるなら...。


 二人ともシャワーを浴びた。


 ソファーに座り、佐々木先生はテレビを観ていた私の太ももを手で撫でた。

 その夜、私は佐々木先生と交わった。


 私はもう一度シャワーを浴びた。そして、何度となくため息をついた。


 佐々木先生は冷蔵庫にあるビールを二缶取り出すと、リビングのテーブルに置いた。


 二人でビールを飲み、深夜番組を観た。


 「ため息が多いと幸せが逃げるわよ。私はまだ独身だし、しがらみとかはないと思うよ。前みたいに、付き合って何処かへ行こうよ。短い夏休みは海外へ行ったり。」


 私は黙った。

 そういう気分じゃない。


 私のスマホのセンサーがピカピカと光っていた。見てみると、メールが入っていた。

 送信者は上村先生だった。


 『真実を全て話すわ。』


  と書かれていた。


 『わかりました。』


  と私は打って送信した。


 私との関係は遊びなのか。あの時の涙は一体何だったのだろうか、本人から詳しく事情を聞きたい。 

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