6.一体感

 この回のみグロテスクな描写があるので、苦手な方はブラウザバックでお願いします。






 


 私が夜勤の、とある日のこと。

 あれは3時くらいだった。

 ナースコールがなった。


 その部屋の患者は普段は放射線治療をしており、その患者がナースコールをならすことはほぼない。


 新人がナースコールの部屋へ行った。


 またナースコールがなったので、ヤレヤレ、と思い私が病室へ向かった。


 患者は、「おええええええ」と言いながら壁に飛ぶほど大量に喀血をしていた。喀血とは、肺や気管・気管支から出血する事である。血の特徴は、鮮血である事だ。


 喀血をしたら、まず吸引である。血が固まると窒息死する。しかし、全く吸引が意味のなさない量である。


 呼吸器外科医は誰もいなかった。


 確か、呼吸器内科病棟に当直が一人居たはず。


 私は走って隣の病棟へ行った。


 上村先生が英語の医学書を読んでいた。


 「先生!呼吸器外科の患者が急変したんです!」


 私は上村先生の腕を引っ張り、隣の病棟から連れ去った。


 新人は救急カートを部屋の前に運んで来ていた。


 間もなく、患者が体を痙攣させ、床に倒れた。


 「挿管するわよ。」


 と上村先生が私に言った。


 気管内挿管の事である。


 私は、新人と二人で患者をベッドにのせ、肩の下に枕を入れた。


 私は次々と医療器具を先生に渡し、先生は気管内挿管をした。胸にモニターを付け、人差し指にサチュレーションモニターを付けたが...。


 何度も蘇生したが...。

 でも、モニターの波形は心停止のままだった。


 患者は、大量喀血で窒息したのが原因だった。


 先生はおそらく放射線治療で肺動脈が切れ、こうなったのではないかと言った。


 先生はナースステーションにある電子カルテに記入をし、病棟を去った。


 私と新人は隣の植物状態の患者を他の部屋に移し、事の次第を夜勤師長に連絡した。そして、新人と一緒に亡くなった患者の死後の処置をした。


 やがて日がのぼり、いつもの業務に戻った。


 喀血で汚れた部屋の掃除をしている時間はなかった。


 呼吸器外科医数人が医局から上がって来て、部屋をモップで綺麗にしてくれた。 


 私が道具を次々と渡し、先生が挿管している時の事を思い出した。一体感が高まったような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る